3. デマンドタクシー(デマンド交通)とは

免許返納後の交通手段として近年広がっているのが、デマンド型交通(デマンドタクシー・デマンドバスなど)です。

あらかじめ定められた区域内を、事前予約にもとづいて運行する乗合の交通サービスで、決まった時刻表に沿って走る路線バスとは異なり、利用者の予約に応じて運行する点が特徴です。バス停や駅までの移動が難しい高齢者、とりわけ運転免許を返納した高齢者の利用が想定されており、財政負担の軽減や公共交通空白地域の解消を目的に、従来の路線バスからデマンド型交通へ切り替える自治体も増えています。

国土交通省の資料でも、デマンド型交通を導入している市町村の多くがタクシー利用に対する助成を行っており、高齢者や運転免許自主返納者を対象としているケースが多いことが紹介されています。

実際に利用者からは、免許を持たない高齢者を中心に外出回数が増えたという声も報告されており、通院や買い物のための移動手段として一定の役割を果たしていると考えられます。ご自身の住む地域でデマンド交通が導入されているかどうかは、市区町村のホームページや、先ほどの埼玉県の一覧のような都道府県単位の情報でも確認できます。

和田 直子

デマンド交通は便利な仕組みですが、事前予約が必要だったり、運行エリアや曜日・時間帯が限られていたりと、路線バスやタクシーとは勝手が違う部分もあります。実際に免許を返納する前に、一度試しに利用してみて、通院先の病院まで問題なく行けるかどうかを確認しておくと安心です。

特に、決まった曜日・時間に通院している方は、その病院の診療時間とデマンド交通の運行時間が噛み合うかどうかも、事前にチェックしておきたいポイントです。

4. 免許を持たない高齢者は、外出そのものが減りやすい

国土交通省の全国都市交通特性調査(令和3年度)によると、60代・70代いずれの年代でも、自動車免許を持たない人は、免許を持つ人に比べて外出率・1日あたりの移動回数がともに少ない傾向がみられます。特に地方都市圏の70代では、自動車を持たない人の外出率や移動回数が、自分専用や家族共用の自動車を持つ人に比べて小さいことが分かっています。また、免許を持たない70代について、外出率と公共交通の利便性の関係をみると、最寄りの鉄道駅やバス停に近い場所に住む人ほど外出率が高い傾向も示されており、移動手段の有無や利便性が高齢者の外出そのものに影響していることがうかがえます。

さらに同調査では、「外出が困難」と感じている高齢者は、そうでない高齢者に比べて移動回数が少ない一方、数少ない外出の中でも「通院」のための移動が占める割合が大きいことも示されています。つまり、外出そのものの頻度が下がっても、通院という目的は後回しにしにくく、移動手段が乏しくなることが結果的に通院間隔に影響を及ぼしうるということです。参考までに、やや古いデータにはなりますが、平成27年の同調査では、75歳以上の通院にともなう外出頻度は月あたり平均3.5回程度という結果も出ています。免許を返納した後にこの頻度を維持できる移動手段があるかどうかは、事前に考えておきたい点です。

和田 直子

免許返納そのものは事故防止の観点から大切な選択ですが、返納後に「通院の足がなくなって受診の間隔が空いてしまった」ということになると、かえって健康面でのリスクが高まりかねません。返納は「代わりの通院手段のめどが立ってから」を基本に考えていただきたいと思います。

ご本人だけで情報を集めるのが難しい場合は、ご家族が自治体の窓口に代わりに問い合わせたり、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談したりするのも一つの方法です。通院先の病院に送迎サービスがないか確認してみるのもよいでしょう。

5. 免許返納を検討する際に確認しておきたいこと

ここまでの内容を踏まえると、後期高齢者が運転免許の返納を検討する際には、次のような点を事前に確認しておくと安心です。

まず、お住まいの市区町村に免許返納者向けの交通費補助制度があるかどうか、あるとすればどのような内容(タクシー券、コミュニティバス、デマンド交通の利用補助など)で、対象年齢や申請方法、利用回数の上限はどうなっているかを確認します。

次に、通院先の病院までその交通手段で実際に行けるかどうか、料金や所要時間、予約の要否なども含めて、可能であれば返納前に試しに利用してみることをおすすめします。デマンド交通を利用する場合は、運行エリアや曜日・時間帯が通院のスケジュールと合うかどうかも重要な確認ポイントです。

これらを確認したうえで、代わりの通院手段のめどが立ってから返納するという順序で進めれば、免許返納が受診の間隔を乱す要因になることを避けやすくなります。

6. まとめ

令和7年の運転免許の自主返納は43万5067件で、そのうち約6割を75歳以上の高齢者が占めています。免許返納後の交通費補助制度はタクシー券やデマンド交通の利用補助など自治体ごとに内容が異なり、自動的に受けられるとは限らないため、事前の確認が欠かせません。国土交通省の調査でも、免許を持たない高齢者は外出率・外出頻度が下がりやすく、通院のための移動手段の確保が重要であることが示されています。免許を返納する際は、お住まいの自治体の補助制度や、実際に利用できるデマンド交通・コミュニティバスの内容を確認し、通院の足を確保したうえで手続きを進めることをおすすめします。

参考資料

LIMO編集部社会保障解説班