9月は敬老の日がある月です。ご家族が集まる機会に、親世代とお金の話をしたという方も少なくありません。
そうした場面で話題になりやすいのが年金の受給額です。ただ、平均額だけを見ても自分の家計に当てはまるとは限りません。同じ「厚生年金を受け取っている人」でも、受給額には大きな幅があるからです。
この記事では、厚生年金の受給額分布と平均寿命・認知症の現状、そして終活の実態を順に確認します。あわせて、個人で見るか世帯で見るかによって年金の景色がどう変わるのかを試算しました。
なお、厚生年金の受給額分布や年金制度のしくみについては、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
- 厚生年金は「10万円未満」19.0%が「20万円以上」18.8%をわずかに上回る
- 平均寿命は男性81.35年・女性87.33年。65歳以上の12.3%が認知症
- 世帯で合算すると、夫婦の組み合わせ次第で月16万2203円の差がつく計算に
1. 厚生年金「10万円未満」vs「20万円以上」多いのはどっち?
年金制度の基本的なしくみについては受給額を一覧で確認できる記事でも詳しく解説されていますが、ここでは受給額の分布に絞って見ていきます。
厚生年金(国民年金を含む)の受給額分布を詳しく見ると、意外な事実が浮かび上がります。生活費の目安となる「20万円以上」を受給する人よりも、実は「10万円未満」の人の方が多いのが実情です。
※この記事で紹介するのは、会社員など民間の事業所で雇用されていた人が受け取る「厚生年金保険(第1号)」の、国民年金の月額部分を含む年金額です。
1.1 受給額分布の対比(厚生年金・男女全体)
- 月額10万円未満:19.0%(約5.3人に1人)
- 月額20万円以上:18.8%(約5.4人に1人)
わずかな差ではありますが、高額受給者の割合を「10万円に届かない層」が上回っています。
国民年金のみの受給者を含めて全体を俯瞰すれば、この「10万円未満」の割合はさらに圧倒的なものになると推測されます。
平均額が15万円台であっても、実際には受給者間の格差が大きく、個人単位で見れば、8割以上の人が「月20万円未満」の受給額となっており、自助努力での備えが重要視される背景となっています。
なお、この受給額は現役時代の収入に比例して決まります。親記事はその仕組みをこう説明しています。
現在の保険料率は「18.3%」で固定されており、これを労使折半で負担します。
収入が高いほど納める保険料も増え、その分だけ将来の受給額も増える。逆に加入期間が短ければ、その分だけ受給額は抑えられます。分布に幅が出るのはこのためです。
年金生活に入ってから「思ったより少なかった」と慌てないよう、現役時代から自身の受給予定額をシビアに見積もっておく必要があるでしょう。公的年金だけに頼り切るのではなく、早い段階からiDeCoやNISAなどを活用した「自分年金」作りを検討することが、老後のゆとりを左右する鍵となります。
2. 平均寿命は男性81歳・女性87歳!認知症や医療への備え
厚生労働省が公表する「令和7年簡易生命表の概況」によると、最新の平均寿命は男性が81.35年、女性が87.33年。前年と比較して男性は0.25年、女性は0.20年上回っており、長期的にも大きく伸びています。
長い老後を豊かに過ごすには、資産形成に加え、公的年金や医療・介護リスクへの理解が重要です。長寿化の中で避けて通れないのが「認知症」への備えです。
2.1 認知症の現状、「シニアの約4人に1人」認知機能に何かしらのサインが現れている状態
65歳以上のシニア層3603万人を対象にした令和4年度(2022年度)の推計によると、65歳以上の高齢者における現状は以下の通りです。
- 認知症: 約443万人(12.3%)
- 軽度認知障害(MCI): 約559万人(15.5%)
認知症やその前段階とされるMCI(軽度認知障害)を含めると合計で約1002万人、およそ3人に1人が認知機能に関して何らかのサポートや注意が必要な状況にあると推計されています。認知症は今や身近な問題であり、MCI段階での対応が生活の質を左右します。
こうした背景から注目されているのが「終活」です。
3. 終活とエンディングノート、「60歳代・70歳代の終活」は万全?
長寿化と認知症リスクを見据え、注目されているのが「終活」です。NPO法人ら・し・さ(終活アドバイザー協会)の「第2回終活意識全国調査報告書【確定版】(2025年7月)」によると、「終活」という言葉の認知度は96.9%と高い一方、「エンディングノート」は認知されていても実行が進んでいません。特に高齢になるほど「まだ早い」という心理や体力面の問題から記入が進みにくい傾向があります。
3.1 エンディングノートの意識と実行率
- 認知度:60歳代以上で9割を超える。
- 所有率:70歳代以上が24.2%と最も高いが、50歳代以下は1桁台。
- 実行率(持っている人のうち):20歳代が9割以上書いているのに対し、70歳代以上は約5割にとどまる。
高齢になるにつれて、書くべき項目が多岐にわたることや、「まだ早い」という心理的な先送り、あるいは健康上の理由などから筆が進みにくくなってしまったりする可能性があるのかもしれません。資産や医療・介護の希望を反映するためにも、気力・体力が充実しているうちから準備を始めることが重要です。
【調査概要】NPO法人ら・し・さ(終活アドバイザー協会)第2回終活意識全国調査報告書【確定版】(2025年7月)
- 調査目的 :高齢社会における終活意識の実態を明らかにし、個人が豊かで安心した人生後半期を送るための支援策や啓発活動に役立てる
- 調査対象 :20~89歳の男女
- 調査地域 :全国
- 調査方法 :インターネットリサーチ
- 調査時期 :2024年12月4日(水)~12月6日(金)
- 回答者数 :2052名
- 割付方法 :人口構成比割付(令和2年国勢調査の性年代別人口比率に基づく)
- 調査委託先 :株式会社マクロミル
65歳以上世帯の平均貯蓄額や生活費の実態についてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
【最新データ】老後の「ふつう」が分かる!65歳以上の平均貯蓄額と年金月額は?老後夫婦のリアルな生活費と家計収支を解説
4. 【試算】個人で見るか、世帯で見るか。年金の景色は大きく変わる
ここまで個人単位の受給額を見てきましたが、実際の暮らしは世帯単位です。夫婦の年金を合算すると、印象はかなり変わります。
厚生年金・国民年金それぞれの平均年金月額を使って、夫婦の組み合わせ別に世帯の年金額を計算してみましょう。使うのは、厚生年金が男性16万9967円・女性11万1413円、国民年金が男性6万1595円・女性5万7582円という平均額です。
【夫婦とも厚生年金】16万9967円+11万1413円=世帯28万1380円
【夫が厚生年金・妻が国民年金】16万9967円+5万7582円=世帯22万7549円
【夫婦とも国民年金】6万1595円+5万7582円=世帯11万9177円
ここで注目したいのは、3つの組み合わせのいずれも、個人で見れば20万円以上に該当する人は1人もいないという点です。ところが世帯で合算すると、上の2つは20万円を超えます。本文で見た「20万円以上は18.8%」という数字は個人単位の分布なので、世帯の実態とはずれるということです。
同時に、いちばん多い組み合わせといちばん少ない組み合わせでは、月16万2203円の差がつきます。年間では194万6436円、65歳から30年間の累計にすると約5839万円の開きになる計算です。
この差を生むのは、配偶者が厚生年金に加入していた期間があるかどうかです。ご自身の見込額だけを見て「足りている」「足りない」と判断すると、世帯としての実態を見誤ることがあります。
なお、この試算は公表されている平均額を組み合わせた簡易的な計算です。実際の受給額は加入期間や収入によって一人ひとり異なりますので、目安としてご覧ください。
試算のとおり、年金は世帯で見ると景色が変わります。実務でも、ご本人の見込額だけを持ってこられる方が多いのですが、配偶者の分と合わせて初めて生活費との過不足が見えてきます。
とくに、専業主婦(夫)期間や扶養に入っていた期間がある場合は、その分だけ厚生年金の加入期間が短くなります。ねんきん定期便はご夫婦それぞれに届きますので、二通を並べて確認していただきたいところです。
あわせて、どちらか一方が先に亡くなった場合に世帯の年金がどう変わるかも、早い段階で確認しておくと安心です。遺族年金の扱いは加入していた制度によって異なりますので、年金事務所で個別にご確認ください。


