2025年6月、年金制度改正法が成立しました。働き方や家族構成の多様化に合わせて、社会保険の加入対象や在職老齢年金、遺族年金などが見直されます。

制度が動く一方で、自分の年金を増やす手段は今もあります。厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金(老齢基礎年金)の平均年金月額は5万9310円で、2026年度の満額7万608円とは月1万1298円の差があります。

この差を60歳以降に埋められるのが、国民年金の任意加入制度です。この記事では、制度改正の全体像と公的年金のしくみを確認したうえで、任意加入で支払う保険料と増える年金を金額で並べていきます。

ココがポイント
  • 国民年金の平均年金月額は5万9310円。2026年度の満額7万608円とは月1万1298円の差がある
  • 任意加入は、日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満で、納付月数が480月未満などの要件を満たす方が対象
  • 2026年度の保険料は月1万7920円。1年間納めると老齢基礎年金は年2万1182円増える
  • 納めた保険料を年金の増加分で取り戻すには、受給開始からおよそ10.2年かかる計算になる

1. 2025年の年金制度改正の全体像

2025年6月13日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が成立しました。多様化する働き方や家族構成を踏まえた制度を目指すものです。

1.1 主な改正内容

厚生労働省によると、主な改正は次のとおりです。中小企業で短時間で働く人などが厚生年金や健康保険に加入しやすくなる社会保険の加入対象の拡大、年金を受け取りながら働くシニアが減額されにくくなる在職老齢年金の見直し、遺族厚生年金の男女差を解消する遺族年金の見直し、保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引き上げです。

そのほか、子どもの加算などの見直しや、iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入年齢の上限引き上げといった私的年金の見直しも含まれます。

公的年金は老後の受給額だけの話ではなく、現役世代からの人生設計と深く関わることが、改正内容からも読み取れます。

2. 公的年金のしくみと2026年度の年金額

日本の公的年金制度は「2階建て」構造といわれています。任意加入の話に入る前に、土台となる部分を確認しておきましょう。

公的年金は「2階建て」1/4

公的年金は「2階建て」

出所:日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」をもとにLIMO編集部作成

2.1 1階部分は国民年金

公的年金の1階部分にあたるのが国民年金です。原則として日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入し、職業や国籍は問いません。

保険料は2026年度で月1万7920円、全員一律です。40年間欠かさず納付すると、65歳以降に満額(2026年度は月7万608円)を受け取れます。保険料の未納期間がある場合は、その月数に応じて満額から差し引かれるしくみです。

2.2 2階部分は厚生年金

2階部分が厚生年金です。会社員や公務員、一定要件を満たすパートなどが国民年金に上乗せして加入します。保険料は収入に応じて決まり、受給額は加入期間と納めた保険料によって個人差が出ます。

2.3 2026年度は4年連続のプラス改定

厚生労働省によると、2026年度の年金額の例は、国民年金(老齢基礎年金の満額)が月7万608円(1人分※1)、厚生年金が月23万7279円(夫婦2人分※2)です。令和8年4月分(6月15日支払分)から適用されました。

3. 国民年金の平均は月5万9310円、満額との差は1万1298円

では、実際に受け取っている人はいくらなのでしょうか。ここが任意加入を考える出発点になります。

3.1 男女別の平均年金月額

男女別の平均年金月額2/4

男女別の平均年金月額

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金(老齢基礎年金)の平均年金月額は、全体で5万9310円でした。男女別では男性が6万1595円、女性が5万7582円です。

参考までに厚生年金(国民年金の金額を含む)は、全体が15万289円、男性16万9967円、女性11万1413円となっています。

3.2 満額に届いていない人が一定数いる

国民年金の平均5万9310円は、2026年度の満額7万608円より月1万1298円低い水準です。年換算では13万5576円の差になります。

40年間の満期加入をしていない受給者が一定数含まれるため、平均は満額より低くなります。未納期間や、加入手続きが漏れていた期間が積み重なった結果です。

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国民年金の満額と平均年金月額の差(男女別)

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」および2026年度の年金額をもとにLIMO編集部作成

4. 60歳以降に差を埋める「任意加入」

納付月数が480月に届いていない場合、60歳を過ぎてからでも埋められる場合があります。国民年金の任意加入制度です。

4.1 任意加入できる4つの要件

日本年金機構によると、任意加入できるのは次の4つをすべて満たす方です。日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満であること、老齢基礎年金の繰上げ支給を受けていないこと、20歳以上60歳未満までの保険料の納付月数が480月(40年)未満であること、厚生年金保険や共済組合等に加入していないことです。

あわせて、年金の受給資格期間を満たしていない65歳以上70歳未満の方(昭和50年4月1日以前生まれの方に限ります)も任意加入できます。保険料の納付方法は、外国に居住する日本人を除き、口座振替が原則です。

4.2 1年納めると年2万1182円増える

2026年度の保険料は月1万7920円なので、1年間納めると21万5040円になります。前年度の1万7510円から410円引き上げられました。

一方、増える年金は満額の年84万7296円に480分の12を掛けた年2万1182円です。月あたりでは約1765円になります。

4.3 取り戻すまでおよそ10.2年

1年分の保険料21万5040円を、増える年金2万1182円で割ると、およそ10.2年です。65歳から受け取り始めるとすれば、75歳を過ぎたあたりで納めた分を取り戻し、それ以降は上乗せが続く計算になります。

60歳から65歳まで5年間(60月)納めた場合は、保険料の合計が107万5200円、増える年金は年10万5912円です。納める期間が長くなっても、取り戻すまでの年数は同じくおよそ10.2年になります。

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出所:日本年金機構「任意加入制度」「国民年金保険料」などをもとにLIMO編集部作成

出所:日本年金機構「任意加入制度」国民年金保険料」などをもとにLIMO編集部作成

※1 昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金(満額1人分)は、月額7万408円
※2 男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準

熊谷 良子

任意加入を検討するとき、最初に必要なのは「自分が今何月納めているか」という一次情報です。平均額と比べる前に、ねんきん定期便かねんきんネットで納付済月数を書面で確認してください。そこが分かって初めて、あと何月埋められるのかが見えてきます。

5. 【一次資料で照合する】ねんきんネットで加入履歴を書面確認

任意加入を検討する前に、自分の加入履歴を書面で確認することが出発点です。記録を1件ずつ照合していくと、抜けや漏れが具体的に見えてきます。

5.1 月別加入状態を1件ずつ確認

ねんきんネットにログインすると、20歳から現在までの月別加入状態が一覧で表示されます。「納付済」「未加入」「未納」「免除」「学生納付特例」「猶予」などの状態が月ごとに確認できます。

ここで見るのは、480月まであと何月あるかです。この数字が任意加入で埋められる上限になります。加入履歴の一覧をPDFで保存しておくと、翌年以降の記録と比べやすくなります。

5.2 合算対象期間が混ざっていないか

注意したいのが、期間の種類です。受給資格期間には算入されるものの、年金額には反映されない期間があり、合算対象期間と呼ばれます。

定期便の月数だけを見ていると、年金額に反映される期間がどれだけあるのかが分かりにくいことがあります。判断に迷う場合は、年金事務所で加入記録の内訳を出してもらうのが確実です。

5.3 免除期間があれば追納も検討する

保険料の免除を受けた期間は、年金額に一部だけ反映されます。この期間については、任意加入とは別に追納という手段があります。追納できるのは免除等を受けた月の翌月から10年以内に限られるため、任意加入と追納のどちらを先に検討するかは分けて考える必要があります。

6. 【落とし穴】任意加入で見落とされやすい点

制度の説明だけを読んでいると気づきにくい部分を挙げます。

6.1 繰上げ受給をすると任意加入できない

要件の2つ目にあるとおり、老齢基礎年金の繰上げ支給を受けている方は任意加入できません。60歳台前半に繰上げを選ぶと、この選択肢は閉じることになります。任意加入を考えているなら、繰上げの判断は慎重にする必要があるということでもあります。

6.2 働いて厚生年金に入っていると対象外

4つ目の要件により、厚生年金保険や共済組合等に加入している方は任意加入できません。ただし厚生年金に加入して働いていれば、その期間は厚生年金として年金額に反映されます。今回の改正で社会保険の加入対象が広がることも踏まえると、どちらが有利かは働き方によって変わります。

6.3 保険料負担と回収年数のバランス

取り戻すまでにおよそ10.2年かかる計算である以上、受け取る期間の見通しは判断材料になります。5年間続ければ支出は100万円を超えます。

ただしこれは損得の話であると同時に、生涯にわたって受け取れる収入を厚くするという意味もあります。金額だけで決められる性質のものではありません。

7. 【対応策】書面と家族共有で判断する

確認と手続きの順番を決めておくと迷いにくくなります。

7.1 ステップ1|ねんきんネットで加入履歴を書面化

加入履歴・追納可能期間・受給見込額をPDFやスクリーンショットで書面化しておきます。年1回の更新習慣にすると、翌年以降の変動と比べやすくなります。

7.2 ステップ2|年金事務所で試算を受ける

任意加入の申し出先は、住所地の市区町村の国民年金担当窓口または年金事務所です。年金手帳や基礎年金番号がわかるもの、口座振替に使う預金通帳と届出印などが必要になります。必要書類は事前に確認しておくと手戻りがありません。

7.3 ステップ3|家族と共有して家計に位置づける

口座振替が原則なので、毎月の支出が増えることになります。試算結果と加入履歴を家族と共有し、世帯としてどう位置づけるかを決めておくと安心です。

8. まとめにかえて

2025年の年金制度改正で、社会保険の加入対象の拡大や在職老齢年金の見直しなどが決まりました。制度は動きますが、自分の年金を増やす手段も残されています。

国民年金の平均年金月額は5万9310円で、2026年度の満額7万608円とは月1万1298円の差があります。この差を60歳以降に埋める手段が任意加入です。2026年度の保険料は月1万7920円、1年納めると年金は年2万1182円ほど増え、取り戻すにはおよそ10.2年かかる計算になります。

判断の出発点は、自分が今何月納めているかという一次情報です。まずはねんきん定期便かねんきんネットで納付済月数を確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。

なお加入記録の内訳や、追納・繰上げとの兼ね合いは個別の事情によって結論が変わります。実際の手続きにあたっては、必ず年金事務所やお住まいの市区町村の国民年金担当窓口でご確認ください。

参考資料