外食チェーンと聞けば、薄利多売で原材料高の直撃を受ける業態、という見方が先に立つ。実際、食材の値上がりは数字にきちんと出ている。それでもすかいらーくホールディングス(3197)の利益率は、この5期で赤字から6%台へ戻ってきた。何が効いているのか。直近1カ月の株価と2026年12月期上期の決算を、順に眺めていきたい。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
- ①2026年12月期上期は売上収益2,424億円(前年同期比+9.7%)、営業利益168億円(同+20.9%)となった
- ②通期予想は売上収益5,000億円・営業利益350億円へ引き上げられ、年間配当予想も27円へ切り上がった
- ③売上総利益率は66.6%へ小幅に低下した一方、5期で販管費率が大きく下がり、営業利益率が6%台へ戻った
7月末の高い水準から一度崩れ、8月19日に取り戻した1カ月
まず株価である。起点となる7月21日の終値は3,025円だった。7月23日には2,978円まで下押しし、この1カ月でもっとも低い水準をつけている。
そこからの上げは速い。7月29日には3,333円まで切り上がり、1カ月でもっとも高い水準に届いた。7月23日からは1割強の上昇である。
もっとも、その水準は続かなかった。8月5日の終値は3,051円で、7月29日からは8.5%の下押しとなった。ほぼ7月の出発点まで戻った計算になる。
8月に入ってからの二度目の切り上がりは、上期決算の内容が伝わった局面と重なる。8月13日は3,255円、8月14日は3,258円と、3,200円台を回復した。
その後は8月18日に3,158円まで緩み、8月19日は3,255円へ戻している。前日比では+3.1%と、しっかりした戻りだ。1カ月を通してみれば、3,025円から3,255円へ+7.6%の上昇となる。
直近時点のPER(株価収益率)は36.11倍、PBR(株価純資産倍率)は3.8倍である。利益の水準に対して、また1株当たり純資産に対して、いずれも高い倍率が付いている。外食という業態のイメージからは、少し意外に映る水準ではないだろうか。
上期は増収増益、通期予想は5,000億円へ引き上げられた
では決算を見ていこう。2026年12月期上期の売上収益(IFRS)は2,424億円で前年同期比+9.7%、営業利益は168億円で同+20.9%だった。親会社の所有者に帰属する中間利益は101億円で同+29.2%、1株当たり中間利益は44.77円である。税引前中間利益は146億円だった。
会社の説明によると、当期の重点戦略は「店舗中心経営」の進化と「メニュー・プロモーション戦略」の推進による既存店成長である。従業員の調理習熟度を高めて提供品質と生産性を上げ、接客にリソースを回せる環境を整えたという。
メニュー面では、節約志向と体験価値重視という消費の二極化に合わせ、低価格帯の小皿料理を拡充して選ぶ楽しさを出す一方、有名シェフや人気IPとのコラボレーション、季節感を打ち出したフェアメニューを展開した。テレビ番組やSNSでの発信も重ねている。
これらが効いて客数と客単価がともに伸び、上期の既存店売上高は前年同期比106.4%となった。既存店が6%伸びれば、固定費の重い業態では利益がそれ以上に伸びる。増益率が増収率を上回った理由の主要部分はここにあると読み取れる。
店舗を増やす動きも続いている。しゃぶ葉とガストを中心に21店舗を新規出店し、資さんうどんを中心に26店舗を業態転換、113店舗で改装を実施した。さらにしんぱちの連結子会社化により109店舗が加わり、上期末の店舗数は3,214店舗となった。海外では台湾での資さんうどん初出店、マレーシアでのすき屋の出店も進めている。
そして通期予想である。売上収益5,000億円(前期比+9.2%)、営業利益350億円(同+16.8%)、当期利益205億円(同+22.4%)、1株当たり当期利益90.14円へ引き上げられた。従来は売上収益4,900億円、営業利益335億円、当期利益195億円だったから、いずれも上方修正されたことになる。年間配当予想も26円から27円へ切り上がった。
上期の進捗は売上収益で48.5%、営業利益で48.2%、当期利益で49.7%。下期偏重でもなく、無理な織り込みでもない置き方だ。
原価率は上がり続けている。それでも利益率が戻る仕組み
ここが本題である。会社によれば、原材料価格が高騰するなかで店舗の食材ロス低減や部門横断の原価低減プロジェクトで影響を一定程度抑えたが、上期の売上総利益率は66.6%と前年同期から0.2%低下した。
つまり、値上げやコスト対策で原材料高を完全に押し返せているわけではない。粗利の段階では、じわりと削られている。
それでも営業利益率は上がっている。上期の営業利益率は6.9%で、前年同期の6.3%から切り上がった。粗利が薄くなったのに営業段階で厚くなるのは、その下の費用が売上ほど増えていないからだ。
販管費は1,444億円で前年同期から117億円増えた。会社は、成長加速に向けた新規出店や業態転換に伴う人件費の増加などによるものと説明している。増えてはいるが、売上収益の伸び幅214億円に対しては小さい。
この構図は5期のトレンドで見るとはっきりする。売上原価率は2021年12月期の30.8%から2025年12月期の33.3%へ上がった。一方で販管費の対売上収益比率は76.9%から59.4%へ下がっている。原材料高は効いているが、それを上回る勢いで固定費が薄まった。
結果として2025年12月期の営業利益率は6.5%となり、小売業の営業利益率の中央値である3.7%を上回っている。薄利多売という言葉から連想される姿と、業種内で上位に入る利益率が、同じ会社のなかで同時に成立している。
PER36倍とPBR3.8倍という値付けは何を織り込んでいるのか
株価に話を戻したい。8月19日時点のPERは36.11倍、PBRは3.8倍である。会社の通期予想では1株当たり当期利益が90.14円と置かれている。
上期末の自己資本比率は35.7%、総資産は5,452億円だ。小売業の自己資本比率の中央値が48.9%であることを踏まえれば、資本は業種の平均像より薄い。
その薄さの裏には、資産側の中身がある。上期末のれんは1,714億円、有形固定資産は2,445億円で、いずれも積み上がる方向にある。買収と店舗投資を借入で支える型の財務だ。
PBR3.8倍という値付けは、この資産構成の上に、営業利益+16.8%という増益見通しへの期待が乗った水準と読み取れる。倍率の高さだけを取り出して水準を語らず、利益の伸びと資本の薄さの両方をセットで見ておきたいところだ。
筆者コメント
業種内での立ち位置に照らすと、この会社の姿は少し変わって見えてくる。営業利益率6.5%は小売業の中央値の倍近くあり、増収率も業種の中央値を大きく上回る。数字の上では、薄利の業態というより成長段階の会社に近い。
だが同じ物差しで自己資本比率を見ると、業種の中央値より薄い。高い利益率と薄い資本が同時に立っている。
私はこの組み合わせを、外食チェーンとしての強さというより、資本の使い方の選択として読んでいる。手元に資本を厚く残さず、店舗と買収へ回し続けてきた結果が、いまの利益率なのだろう。
その選択が続く限り、原材料高のような外からの圧力は、粗利ではなく既存店の伸びで吸収する構図になる。既存店売上高という一つの数字が、思っている以上に効いてくる。
決算を見るときは、営業利益の増減率よりも先に既存店売上高の前年同期比を確かめる、という順番を試してみてほしい。
