業績予想を大きく引き上げた会社の株価が、その後に2度も1割規模で沈む。太陽誘電(6976)のこの1カ月は、そういう荒い動きだった。数字そのものは明確に上を向いている。それでも株価は素直に付いてこない。電子部品という業種に、投資家がどんな前提を置いているかが透けて見える1カ月でもある。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

この記事の3つのポイント
  • ①2027年3月期1Qは売上高938億円で+10.7%、営業利益48億円で+53.3%の増収増益だった
  • ②通期予想を上方修正し営業利益450億円(+125.0%)へ。それでも8月18日の終値は前日比▲11.5%
  • ③1Qの売上はコンデンサが73.5%を占め、インダクタは17.0%。第二の柱づくりは道半ばにある

上方修正をはさんで2度沈んだ、荒い1カ月

太陽誘電(6976)の8月18日の終値は9,991円だった。前日の11,295円から1,304円、率にして11.5%の下落である。

この1カ月の値動きは、電子部品株のボラティリティの高さをそのまま見せている。7月17日は11,035円、7月22日には12,535円をつけ、ここが直近1カ月で最も高い。

そこから7月30日の8,723円まで急速に水準を落とした。この日が直近1カ月の最も低い水準である。半月足らずで3割近い振れ幅だ。

8月5日に1Q決算と通期予想の上方修正が出ると、翌6日の終値は9,939円。発表当日の11,165円から1,226円下げた。上方修正の翌日に売られる、という展開である。

その後は8月17日の11,295円まで戻していたが、8月18日に再び1割超の下げとなった。直近時点のバリュエーションはPER43.54倍、PBR3.53倍。BPSに対して3倍台後半という水準は、電気機器の中でも高いほうに入る。

1Qは営業利益+53.3%、通期予想も引き上げた

2027年3月期1Qの売上高は938億円で前年同期比+10.7%、営業利益は48億円で+53.3%だった。経常利益は42億円で+1,560.4%、親会社株主に帰属する四半期純利益は25億円である。前年同期は▲8億円の四半期純損失だった。

経常利益の伸び率が異様に大きいのは、前年同期の水準が低かったためだ。前年同期は営業外費用に為替差損29億円を計上しており、経常利益が2億円まで削られていた。今回は逆に為替差益2億円を計上している。

会社の説明では、主に情報インフラ・産業機器向けの売上増加や為替差損益の影響などにより、売上高と各段階利益が増加した。1Qの期中平均為替レートは1米ドル158.8円で、前年同期の146.18円から12.62円の円安である。

これを受けて、5月8日に公表していた通期予想が引き上げられた。売上高は3,840億円から4,240億円へ、営業利益は300億円から450億円へ。前期比では売上高+19.3%、営業利益+125.0%、当期純利益+95.9%となる。

会社は修正の理由として、情報インフラ・産業機器向けの需要増加、販売価格影響、為替の円安等を挙げている。2Q以降の期中平均為替レートの前提は1米ドル160円だ。

営業利益を150億円積み増す修正である。修正幅としては小さくない。

PBR3.53倍が織り込んでいるのは今期の利益ではない

ここで少し立ち止まりたい。通期の営業利益予想が2倍以上になる会社の株価が、なぜ発表翌日に1割下げ、さらに2週間後にもう1割下げるのか。

株価が動く理由は相場の地合いや需給が絡むため、単一の材料で断定することはできない。ただ、水準の面から言えることはある。

会社の通期予想EPSは219.03円。8月18日の終値9,991円は、その予想利益の40倍台の水準にある。前期の実績EPSは118.49円だったから、市場はすでに今期の急回復を織り込んだうえで、その先を見ているという読み方が自然だろう。

PBR3.53倍も同じ話だ。1Q末のBPSは2,827.24円で、自己資本比率は59.7%。純資産の3倍を超える値付けは、簿価そのものではなく、将来この資産が生む利益への期待で説明するしかない。

つまり足元の上方修正は、市場が置いている前提の一部を確認したにすぎない可能性がある。期待が先に立っている銘柄では、良い数字が出ても株価の燃料にならないことがしばしばある。

逆に言えば、株価が反応する材料は決算の数字そのものではなく、その先の需要や価格の見通しの側にある。決算後の値動きを追うときは、この非対称性を頭に置いておきたい。

筆者コメント

印象的なのは、この会社が「利益の絶対額」ではなく「利益の戻り方」で評価される局面に入っている点だ。

営業利益450億円という予想は、前期の199億円の2倍以上にあたる。数字だけ見れば劇的な回復に見える。だが5期前の水準を思い出すと、その見え方は変わってくる。

私が気になっているのは為替の寄与だ。1Qの平均レートは158.8円、通期の前提は160円。円安が売上と利益の両方を押し上げている以上、上方修正のうちどこまでが数量と価格による実力なのかは、外からは切り分けにくい。

会社は修正の理由に需要増加と販売価格影響も挙げている。ここが効いているなら、回復は為替が反転しても続く。効いていないなら、来期は逆風になる。

次の決算では、為替前提の変化と製品別の売上の伸びを並べて見てほしい。上方修正の中身がどちらだったかは、そこでかなり判別できる。