PERが2倍台の大型株。そう聞いたとき、まず疑うべきは株価ではなく分母のほうだ。

サッポロビール(2501)の8月17日時点のPERは2.57倍である。2026年12月期上期に何が起きていたのかを開いてみると、この数字の正体はすぐに見えてくる。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

ココがポイント
  • 2026年12月期上期は営業利益▲58億円の一方、親会社の所有者に帰属する中間利益は2,954億円
  • 不動産子会社の支配喪失に伴う利益3,150億円を計上し、自己資本比率は前期末の33.5%から58.9%へ
  • 直近1カ月の終値は7月29日の2,163円から8月5日の1,911円まで下げ、8月17日は1,952円

PER2.57倍という数字が、実際に映しているもの

1/1

出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

まず株価から見ていこう。直近1カ月の終値は、7月16日の1,997円で始まり、7月29日に2,163円まで上げた。

そこから8月5日の1,911円まで下押しし、8月17日は1,952円で終えている。1カ月を通してみれば、上下しながらほぼ元の位置に戻ってきた格好だ。

8月17日時点のPERは2.57倍、PBR(株価純資産倍率)は1.48倍である。この倍率は、事業会社の水準としては極端に低い部類に入る。

ただし、この2.57倍は本業の稼ぐ力を測った数字ではない。分母にあたる1株当たり利益が、今期に限って特殊な要因で膨らんでいるからだ。

その要因を押さえないままPERの低さだけを取り出すと、判断を誤る。次に見るべきは上期決算の中身である。

営業利益は▲58億円、中間利益は2,954億円。この落差の中身

2026年12月期上期の売上収益(IFRS)は2,359億円で、前年同期比+0.3%とほぼ前年並みだった。営業利益は▲58億円で、前年同期の51億円から損失に転じている。

ところが、親会社の所有者に帰属する中間利益は2,954億円。前年同期は17億円だった。

この落差はどこから来たのか。会社によると、不動産事業に外部資本を導入する取引の第一回クロージングを実行し、子会社の支配喪失に伴う利益を計上したことによる。

その金額は3,150億円である。うち1,544億円は、旧子会社に対して保持している投資を支配喪失時点の公正価値で測り直したことに起因する部分だとしている。

不動産事業は非継続事業に分類され、非継続事業からの中間利益は3,003億円となった。中間利益の大半がここから出ている。

では本業はどうか。売上収益から売上原価と販売費及び一般管理費を差し引いた会社独自の指標である事業利益は67億円で、前年同期比+37.2%と伸びている。会社は国内酒類と海外酒類の増収効果に加え、国内食品飲料の価格改定や構造改革の効果を挙げている。

営業利益が損失になったのは、自動販売機事業に係る吸収分割契約の締結に伴う減損損失や構造改革費用を計上したためだ。米国事業では資産譲渡に伴う譲渡益も出ているが、それを上回るマイナスが乗った形になる。

通期の連結業績予想は据え置かれており、売上収益5,050億円(▲0.4%)、営業利益60億円(▲75.4%)、当期利益2,960億円としている。営業利益の予想が大きく縮む一方で当期利益が膨らむ形は、上期の構図がそのまま通期に反映された姿だ。

この上期に入れ替わったのは、損益ではなくバランスシートだった

上期末の資産合計は8,705億円で、前期末から2,168億円増えた。子会社の支配喪失に伴うその他の金融資産の増加などが効いている。

負債合計は3,563億円で、773億円減った。社債及び借入金の減少が主因だ。

資本合計は5,142億円と、前期末の2,201億円から2,941億円増えている。自己資本比率は前期末の33.5%から58.9%へと一気に切り上がった。

食料品業種の自己資本比率の中央値は60.8%である。長く業種の標準を大きく下回っていた同社が、上期を経てようやく中央値のすぐ手前に並んだ。

ビール会社と聞けば、安定した内需型のイメージが先に立つ。だが直近5期の自己資本比率は26%台から33%台で推移しており、実際には不動産を抱えた重い財務が続いていた。今回の入れ替えは、その姿を変える性質のものだ。

キャッシュ・フローも独特の形になった。営業活動によるキャッシュ・フローは34億円にとどまる一方、投資活動によるキャッシュ・フローは子会社の支配喪失による収入1,833億円などにより1,136億円のプラスとなった。財務活動では長期借入金の返済などで▲625億円である。

現金及び現金同等物は771億円となり、前期末から547億円増えている。損益計算書の見出しよりも、資金の置き場所が動いた半期だったと読み取れる。

筆者コメント

利益とキャッシュは、どこで食い違うのか。この上期はその教科書のような半期だった。

中間利益は2,954億円だが、営業活動によるキャッシュ・フローは34億円しかない。支配喪失益は損益計算書を通るものの、資金としては投資活動の欄に現れるからだ。

PERの低さに目を留めた読者ほど、まず損益計算書ではなくキャッシュ・フロー計算書を開いてほしい。数字の出どころが分かれば、2.57倍という倍率の読み方も変わってくる。