メモリ半導体は市況産業だ。値段が上がれば利益が跳ね、下がれば赤字に沈む。そう言われてきた。
キオクシアホールディングス(285A)の直近1カ月は、まさにその言葉どおりの荒さで動いた。ただ、決算の中身を開いてみると、動いていたのは市況だけではないように見える。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
- 2027年3月期1Qの売上収益は1兆7,671億円、営業利益は1兆2,700億円。前年同期の営業利益449億円から水準そのものが変わった
- 直近1カ月の終値は7月22日の64,270円から7月29日の38,380円まで下げ、8月17日は61,840円。PBRは14.1倍
- 稼いだ現金は設備投資ではなく借入返済へ向かい、1Q末の自己資本比率は50.8%まで上がった
1カ月で4割下げ、そこからほぼ全部戻した株価
直近1カ月の終値をたどってみよう。7月16日の62,110円から始まり、7月22日には64,270円まで上げた。
そこから7月29日の38,380円まで、わずか5営業日で4割超下げている。ボラティリティが高いという言葉では足りない落ち方だ。
その後は反転した。8月17日の終値は61,840円で、1カ月前の水準にほぼ並んでいる。直前の8月14日は53,740円だったので、1営業日で15%上げた計算になる。
8月17日時点のPBR(株価純資産倍率)は14.1倍。1株当たり純資産の14倍の値段が付いている。絶対水準として高い。将来の利益をかなりの部分まで織り込んだ株価だと考えられる。
ここまで倍率の乗った銘柄では、期待のわずかな上下がそのまま株価の上下になる。1カ月の値動きは、その性質が素直に出た局面だろう。
営業利益1兆2,700億円。単価がここまで効いた1Q
2027年3月期1Qの売上収益(IFRS)は1兆7,671億円で、前年同期比+415.5%となった。営業利益は1兆2,700億円と、前年同期の449億円から桁が変わっている。
親会社の所有者に帰属する四半期利益は8,422億円。前年同期は183億円だった。
ではなぜここまで伸びたのか。会社によると、生成AI用途を中心としたデータセンター向け顧客の需要が旺盛に推移し、平均販売単価が大幅に上昇したことが主因だという。出荷量の増加と為替の改善も寄与したとしている。
利益を押し下げる要因もあった。訴訟損失引当金366億円と株式報酬費用194億円である。これらを除いた会社独自の調整後指標であるNon-GAAP営業利益は、1兆3,262億円だった。
2027年3月期2Qについて、会社はデータセンター向け需要が引き続き旺盛に推移すると見込み、売上収益2兆3,900億円、営業利益1兆8,900億円の増収増益を見通している。
単価が主役の増益は、上がるときも下がるときも速い。1Qの利益水準をそのまま定常状態と見なすのは、やや気が早いのではないだろうか。
稼いだ現金が向かった先は、設備投資ではなく借入返済だった
1Qの営業活動によるキャッシュ・フローは8,663億円。前年同期の611億円から一変した。
一方で、有形固定資産の取得による支出は512億円にとどまる。前年同期の525億円とほとんど変わらない。
資金が向かったのは財務のほうだった。長期借入金の返済に4,332億円を投じ、財務活動によるキャッシュ・フローは▲4,304億円となっている。
その結果、1Q末の親会社所有者帰属持分比率は50.8%。前期末の37.9%から12.9ポイント上がった。現金及び現金同等物も7,910億円まで積み上がっている。
装置産業のメモリメーカーと聞くと、稼いだ端から設備投資に消えていくイメージが先に立つ。だが1Qに限れば、投資は前年並みに抑えられ、増えた現金は負債の圧縮に回った。
電気機器の自己資本比率の中央値は62.2%である。キオクシアは前期末時点で37.9%と、業種の標準からはかなり下にいた。1Qでようやく中央値の手前まで戻ってきた、というのが実際の姿だ。
財務の余裕が戻れば、資本配分の自由度も変わる。次に現金がどこへ向かうかは、この会社を追ううえでの論点になるだろう。
筆者コメント
印象的なのは、営業キャッシュ・フロー8,663億円という数字よりも、その使い道のほうだ。
設備投資を前年並みに置いたまま、返済に4,000億円超を回している。市況の良い局面で身軽になっておく、という判断が透けて見える。
メモリの単価はいつか反落する。そのとき手元に残るのが在庫と借入なのか、現金と自己資本なのか。1Qの資本配分は、そこを意識した動きだと私は読んでいる。
