5. 甲子園が生み出す経済効果 地域の雇用にまで波及

ここまで紹介したのは、あくまで高野連の収入ですが、甲子園大会が生み出す経済効果は、これだけではありません。

大会期間中には、全国から選手、保護者、学校関係者、応援団、観客、メディア関係者などが兵庫県を訪れます。

そこで発生するのが、交通、宿泊、飲食、物販などの消費です。

たとえば遠方から訪れる観客なら、新幹線や航空機、鉄道などを利用します。甲子園周辺では飲食店やコンビニ、土産物店などを利用するでしょう。

出場校についても、選手や監督だけでなく、応援団や保護者などが滞在するため、宿泊施設や交通機関への需要が発生します。

2024年に甲子園へ出場した早稲田実業では、応援団などの旅費交通費だけで約2965万円、選手団の旅費交通費などを含めた支出総額は約5764万円に達しました。

一つの高校が甲子園に出場するだけでも、数千万円規模のお金が動くケースがあるのです。

さらに重要なのが、雇用への波及です。

大会期間中に増える宿泊客や来店客に対応するため、ホテル、飲食店、交通、警備、清掃、物販などの現場では人手が必要になります。

そこで生まれる需要は、単なる「売上」だけではありません。

大会によって生じた需要

ホテル・飲食店・交通などの売上増加

従業員の勤務時間・雇用需要の増加

地域の所得増加

さらに地域で消費

という形で、地域経済へ波及していきます。

6. 「利益最大化」を目指す大会ではない

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Usa-Pyon/shutterstock.com

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これほど大きなお金が動く甲子園ですが、一般的なスポーツ興行とは大きく異なる点があります。

それは、大会そのものが利益の最大化を目的としていないことです。

高野連の大会要項では、全国大会の大会諸経費に入場料を充て、剰余金が生じた場合には運営委員会などで処分し、不足した場合には大会準備金を充てる仕組みが示されています。

つまり、チケット価格を可能な限り引き上げ、利益を最大化することが大会運営の目的ではありません。

むしろ、全国の高校生が参加でき、できるだけ多くの人が観戦できる大会を維持することが重視されてきました。

これは、甲子園が単なる「スポーツ興行」ではなく、高校生の教育活動や部活動と結びついた文化的なイベントでもあるからでしょう。

7. 甲子園は「巨大なコンテンツ」でありながら公共性も持つ

甲子園の収益構造を整理すると、非常にユニークな姿が浮かび上がります。

放映権料を収益の柱にせず、入場料を中心に大会を運営する。

その一方で、全国中継によって大会を広く社会に届け、球場の外では宿泊、交通、飲食、物販、雇用などを通じて経済効果を生み出す。

つまり甲子園は、「大会そのものの収益」と「大会によって社会全体に生まれる経済価値」が大きく異なるイベントなのです。

高野連全体では年間10億円を超える入場料収益を得ている一方、 放映権料を最大化することを目的としない。

この特殊なビジネスモデルこそ、100年以上にわたって甲子園が日本のスポーツ文化に定着してきた理由の一つなのかもしれません。

8. スポーツトレンドウォッチャーのひとこと

大蔵 大輔

甲子園の収益構造で興味深いのは、「放映権料を取らない」という仕組みが、結果的に高校野球の絶大な人気を支えてきたことです。

プロスポーツでは、放映権は重要な収益源のひとつです。人気コンテンツであればあるほど、放送や配信にどれだけ高い値段を付けられるかがビジネス上の重要なポイントになります。

一方、高校野球は長年、NHKを含むテレビ中継を通じて全国の人が観戦できる環境が維持されてきました。もし甲子園が放映権収入の最大化を優先していたら、現在ほど「国民的イベント」として定着していなかったでしょう。

もちろん、放映権料を取らないことが永続的に最適とは限りません。大会運営費が上昇するなか、高校野球の理念と持続可能な大会運営をどのように両立していくのか、注目したいところです。

参考資料

大蔵 大輔