研究開発費を増やしても、利益率が業種で突出する理由
ここからは、中外の稼ぐ力の中身に踏み込みたい。医薬品は、新薬を生むために巨額の研究開発費を投じ続けなければならない業種だ。
中外も例外ではない。研究開発費は上期で902億円、売上収益に対する比率は13.6%にのぼる。過去5期でも、2021年12月期の約1,300億円から2025年12月期には約1,800億円へと、投資額を着実に積み増してきた。
それでも収益性は際立って高い。2025年12月期の営業利益率は約48%に達する。医薬品の営業利益率の中央値は3%前後で、赤字の新興バイオも多く含む業種のなかで、この水準は群を抜いている。
「薬価改定や後発品で医薬品は利益を出しにくい」という一般的な見方と、中外の利益率の実データは大きく食い違う。カギはロシュとのアライアンスだ。ロシュ向けの製品輸出と、導出した新薬から得るロイヤルティ収入が、重い研究開発費を吸収する構造になっている。重い費用と高い利益率が、同じ会社のなかで両立している。
自己資本比率8割、潤沢な手元資金という財務の土台
収益性の高さは、財務の姿にも表れている。
自己資本利益率(ROE、自己資本に対する最終利益の比率)は2025年12月期で22.1%と高い。医薬品の中央値は約3%、上位25%のラインでも約8%であり、中外はそれを大きく上回る。純資産に高い倍率がつくのも、この資本効率の高さを映していると考えられる。
財務の土台も厚い。自己資本比率は上期末で82.8%と、借入にほとんど頼らない構造だ。上期のフリー・キャッシュ・フロー(本業で稼いだ現金から投資を差し引いた資金)は2,270億円と前年同期比で大きく増え、有価証券などを含むネット現金は9,626億円にのぼる。
もっとも、これだけ潤沢な手元資金と高い自己資本比率が、資本効率の観点で最も効率的な姿かどうかは、また別の論点だ。稼ぐ力と財務の厚みがそろっている一方で、その資金をどう成長投資や株主還元に振り向けるかは、引き続き見ておきたいところだ。
筆者コメント
改めて全体を見渡すと、中外の強さは「自前の研究開発」と「ロシュとの分業」の組み合わせから来ていると捉えている。
新薬の種を生む研究開発には巨額の費用がかかる。だが中外は、生み出した新薬をロシュに導出し、輸出とロイヤルティという形で世界市場の売上を取り込む。国内で薬価改定の逆風を受けても、この海外経由の収益がそれを吸収する設計になっている。
裏を返せば、業績はロシュ向けの輸出動向や、新薬パイプラインの進み具合に左右されやすい。上期にも複数の開発中止が伝わっており、高い収益性の陰で、開発の成否という振れの大きい要素を抱えていることは意識しておきたい。
株価が好決算のあとに下げたのも、目先の数字より、通期の見通しやパイプラインの中身に市場の関心が移っているためかもしれない。
高い利益率という結果だけでなく、それを生む研究開発と分業の設計、そして開発の振れをセットで眺める。そういう視点で中外を追っていくことをおすすめしたい。
参考資料
- 中外製薬株式会社 2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信
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石津 大希