4. 【元銀行員の視点】窓口で見た「備えていた家族」と「間に合わなかった家族」

同じように親の口座について相談に来られても、結果が大きく分かれるご家族がいらっしゃいました。分かれ目は、判断能力が低下する前に何かしていたかどうかです。

4.1 代理人カードを届け出ていた家族は、その場で対応できた

親が元気なうちに代理人カードの手続きを済ませていたご家族は、ATMでの引き出しなど日常的な範囲の対応がスムーズでした。窓口での混乱も少なかったという印象があります。

一方で、何も手続きをしていないまま判断能力の低下が進んでしまうと、成年後見制度を使うしかなくなります。その場合、実際に窓口の手続きを進めるのは家族本人というより、司法書士や弁護士などの専門家であることがほとんどでした。

4.2 「まだ大丈夫」のうちに一歩を踏み出せるかどうか

代理人カードは、本人と家族だけで完結する手続きです。一方、判断能力が低下したあとの成年後見は、司法書士や弁護士といった専門家を介するのが一般的で、費用も時間もかかります。

この違いを知っているかどうかで、備えの動機づけが変わってきます。専門家に頼らずに済む今のうちに、家族で話し合っておく意味があります。

5. 【確認のしかた】元気なうちにできる3つの備え

判断能力が低下する前であれば、選べる備え方がいくつかあります。それぞれ使えるタイミングと費用が異なります。

元気なうちにできる3つの備え方の比較2/2

元気なうちにできる3つの備え方の比較

出所:一般社団法人民事信託相談センター、日本公証人連合会の情報をもとにLIMO編集部作成

5.1 代理人カード(任意代理人の届出)

本人が元気なうちに、家族を代理人として銀行に届け出ておく方法です。ATMでの入出金など、日常的な取引の範囲で使えます。

手数料は銀行によって無料から数千円程度とばらつきがあります。窓口で確認してみてください。

5.2 任意後見契約(委任契約とあわせて)

本人の判断能力に問題がないうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて後見人を決めておく契約です。委任契約とあわせて結んでおくと、判断能力の低下後も委任契約の範囲で代理できることがあります。

公正証書の作成費用は1万3000円程度からで、登記関連の実費が別途かかります。

5.3 家族信託

財産の管理権限を、元気なうちに家族へ移しておく仕組みです。契約の内容次第で、生活費の支払いや不動産の管理まで柔軟に任せられます。

費用は契約内容によって幅がありますが、50万円台から80万円台が目安です。判断能力を失ってからでは契約できない点は、他の備え方と共通しています。

6. 【落とし穴】代理人カードだけでは万全ではない

代理人カードは手軽に始められる分、限界もあります。過信すると、いざというときに困ることになります。

6.1 判断能力を失うと、代理人カードも使えなくなることがある

任意代理人との取引は、本人の認知判断能力に問題がない状況であることが前提です。判断能力が明らかに低下したと銀行が判断すると、代理人カードによる取引にも制限がかかることがあります。

「代理人カードさえ作っておけば一生安心」というわけではない点は、知っておいたほうがよいでしょう。

6.2 投資信託など価格が変動する資産は、より慎重な対応になる

預金が少なく、投資信託などの金融商品しかまとまった資産が残っていない場合、家族から解約を求められるケースもあります。ただし金融商品は価格変動があり、いったん解約すると元に戻せません。

全国銀行協会も、金融商品の解約についてはより慎重な対応が求められるとしています。

7. 「認知症の口座凍結」に備えるなら、まず相談から

預金は本人の資産であり、家族といえども本人の意思確認なしに払い出すことはできません。判断能力が低下したあとは、成年後見制度の利用が基本線になります。

代理人カード、任意後見契約、家族信託には、それぞれ使えるタイミングと費用の違いがあります。どれか一つで万全というものではなく、家族の状況に応じて組み合わせる視点も必要です。

お盆で親と顔を合わせた今の時期に、まずは家族で話し合ってみてください。具体的な手続きは、銀行の窓口、公証役場、弁護士や司法書士、家庭裁判所に相談して確かめることをおすすめします。

参考資料

中本 智恵