アナリストが出す「目標株価3,000円」——あの数字は、どうやって出しているのでしょうか。何か特別な予測技術があるように見えるかもしれませんが、種を明かせば、骨格はとても素朴な掛け算です。私自身、アナリストとして数えきれないほどの目標株価を弾いてきましたが、その組み立て方はいつも同じでした。本記事では、目標株価の代表的な算出方法を、実際にご自身で手を動かせる形で、順にみていきましょう。
- 目標株価=予想EPS×予想PERが基本の算出法
- もう一つの柱はDCF法。理屈は堅いが前提に敏感
- EPSとPERの置き方=値決め。前提で答えは変わる
目標株価とは——まず算出の全体像から
目標株価とは、その銘柄が今後(おおむね12〜18か月)に到達すると見込まれる株価水準のことです。証券会社のアナリストが、投資判断(レーティング)と併せてレポートに載せます。
算出の方法は主に二つ。
一つは、利益と倍率から求める「PER×EPS法」。
もう一つは、将来のキャッシュフローから逆算する「DCF法」です。前者は手早く相対的に、後者は理屈をつめて絶対的に、価値を測ります。まずは、個人の方でも扱いやすいPER×EPS法から見ていきましょう。
PER×EPS法——最も一般的な算出手順の3つのステップ
目標株価の計算は、次のシンプルな関係式が土台です。
目標株価 = 予想EPS × 予想PER
EPS(1株当たり純利益)は「会社が1株で稼ぐ利益」、PER(株価収益率)は「その利益の何倍まで買われるか」を表します。手順は3つです。
まず、①予想EPSを出します。今後の当期純利益を予想し、それを発行済株式数で割ります。会社の業績予想やアナリスト予想を出発点にすると考えやすいでしょう。
次に、②予想PERを置きます。ここは、その銘柄の過去のPERの水準や、同業他社・業種平均のPERを参考に、「この会社なら何倍が妥当か」を決めます。
そして、③両者を掛け合わせます。
たとえば、予想EPSが150円、妥当と考える予想PERが20倍なら、目標株価は150円 × 20倍 = 3,000円。いま株価が2,400円なら、目標株価まで25%の上昇余地がある、と読めるわけです。PERそのものの意味は「PERとは?株価収益率の意味・計算式・目安」で解説しています。
DCF法——将来のキャッシュフローから逆算する
もう一つの柱がDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法です。これは、会社が将来生み出すキャッシュフローを予想し、それを割引率で現在価値に割り戻して合計し、企業価値、そして1株当たりの価値を求める方法です。
DCF法は、理論のうえでは最も合理的な評価とされ、企業のM&Aでも標準的に使われます。ただし、将来のキャッシュフロー予想と割引率という、二つの大きな前提に答えが強く左右されるのが難点です。
手順や考え方は「DCFとは?理論株価の出し方・割引率・計算式」に、その土台となる考え方は「現在価値とは?計算式・将来価値/割引率との関係」と「割引率とは?現在価値の計算式・決め方(WACC)」にまとめています。
PER法とDCF法は一見別物ですが、実は根っこでつながっています。その関係は「PERとDCFの関係とは?」もあわせてどうぞ。
前提を少し動かすと、目標株価はこれだけ変わる
ここが、多くの解説であまり触れられない、いちばん実践的なところです。目標株価は、EPSとPERという二つの前提の掛け算で決まります。ということは、その前提を少し動かすだけで、答えは大きく振れるということです。
先ほどの「EPS150円 × PER20倍 = 3,000円」を基準に、EPSとPERをそれぞれ少しずつ変えてみましょう。
| 予想EPS \ 予想PER | 18倍 | 20倍 | 22倍 |
| 140円 | 2,520円 | 2,800円 | 3,080円 |
| 150円 | 2,700円 | 3,000円 | 3,300円 |
| 160円 | 2,880円 | 3,200円 | 3,520円 |
ごらんのとおり、EPSを±10円、PERを±2倍動かしただけで、目標株価は2,520円から3,520円まで、1,000円もの幅で動きます。つまり、目標株価という一点の数字よりも、「どんなEPSとPERを前提に置いたのか」のほうが、はるかに大事なのです。誰かの目標株価を見るときも、自分で出すときも、まずこの前提を確かめる——これが算出方法を理解する最大の意味だと、私は考えています。
自分で算出するときの注意点
自分で目標株価を出せるようになると、投資はぐっと面白くなります。ただし、二つだけ注意していただきたいことがあります。
一つは、前提を強気に置きすぎないこと。予想EPSを楽観的に見積もり、PERも高めに置けば、いくらでも高い目標株価を作れてしまいます。「保守的な前提でも、いまの株価より割安といえるか」を問うと、地に足のついた判断になります。
もう一つは、一点で決め打ちしないこと。EPSやPERに幅を持たせ、目標株価も「おおむね何円から何円」とレンジで捉えるほうが、現実に即しています。目標株価は、当てにいく占いではなく、前提を検算するための道具なのです。
元機関投資家イズミダの視点:算出方法の核心は「値決め」にある
私がアナリスト時代に痛感していたのは、目標株価づくりの本当の勝負は、EPSの正確な予想や精緻なDCFモデルを作ることに没頭するよりも、「この会社にいくらの倍率(PER)を認めるか」という方がインパクトが大きい、ということです。
EPSは会社の業績予想やコンセンサスである程度絞れますが、PERは市場の期待そのもの。同じ利益でも、成長への期待が高ければ高い倍率が付き、冷めれば低くなる。また、その時の株式市場環境や金利動向でも大きく変化します。だから、算出方法をいくら精密にしても、最後は「その値付けが妥当か」という判断から逃れられません。
そのうえで、実務家としては、目標株価は、アナリスト自身、つまり作った本人がいちばんその危うさを知っています。前提を少しいじれば答えは大きく動きます。一点の数字を信じ込むのは危険です。
私がいつも申し上げているとおり、株式投資は「なんでも鑑定団」と同じで、勝負は値決め。大切なのは、他人の目標株価を鵜呑みにすることでも、自分の計算を過信することでもなく、「どんな前提でその値が付いたのか」を読み解き、保守的に見てもなお割安かを問うことです。算出方法を学ぶ意味は、まさにそこにあります。
バリュエーション全体のなかでの位置づけは「株式投資のバリュエーション完全ガイド」でも整理しています。
まとめ
目標株価の算出方法は、大きく二つあります。基本は「予想EPS × 予想PER」で、予想EPSを出し、妥当なPERを置いて掛け合わせます(例:150円×20倍=3,000円)。もう一つが、将来キャッシュフローを割り引くDCF法で、理屈は堅い一方、前提に敏感です。いずれの方法でも、EPSとPER(割引率)という前提を少し動かすだけで答えは大きく振れます。だからこそ、目標株価は一点でなく、前提とレンジで捉えるもの。最後は値決めがものを言う——これが、目標株価の算出方法を使いこなす王道です。
よくある質問(FAQ)
Q. 目標株価はどうやって算出しますか?
A. 代表的な方法は二つです。基本は「予想EPS×予想PER」で、予想EPSに妥当なPERを掛けて求めます。もう一つが、将来のキャッシュフローを割引率で現在価値に割り戻すDCF法です。
Q. PER×EPS法の計算例を教えてください。
A. 予想EPSが150円、妥当と考えるPERが20倍なら、目標株価は150円×20倍=3,000円です。予想EPSは純利益予想÷発行済株式数、PERは過去水準や業種平均を参考に置きます。
Q. PER法とDCF法はどちらがよいですか?
A. 優劣ではなく使い分けです。PER法は手早く相対的に、DCF法は理屈をつめて絶対的に評価します。実務では両方で出し、レンジで判断するのが一般的です。
Q. 自分で計算した目標株価は当てになりますか?
A. 前提しだいで大きく変わるため、一点の数字を過信しないことが大切です。EPSやPERを少し動かすと答えは千円単位で振れます。保守的な前提でも割安かを確かめ、レンジで捉えましょう。
Q. 予想EPSや予想PERはどこを参考にすればよいですか?
A. 予想EPSは会社の業績予想やアナリスト予想、予想PERはその銘柄の過去のPER水準や同業他社・業種平均を参考にするのが一般的です。