「年収800万円、でも残業は月45時間」。「年収700万円、でも残業はほぼゼロ」。もしこの2つの求人が目の前にあったら、あなたはどちらを選びますか。
2026年8月7日に株式会社エフペリが公表した「就職・転職活動における企業研究に関するアンケート」によると、実に85.7%の人が「年収は下がっても残業が少ない会社」を選ぶと回答しました。
一方、厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」からは、日本で働く人たちの給与の"本当の相場"が見えてきます。
今回はこの2つのデータを重ね合わせながら、「年収」と「働き方」のどちらを優先すべきか、その判断材料を整理していきます。
1. この記事の3つのポイント
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令和7年の給与相場は月34万600円。ただし「平均」の中身は条件次第 -
85.7%が「年収100万円減でも残業が短い会社」を選択という調査結果も -
「働き方」の選択は老後の年金額まで左右する
2. 筆者からのコメント
「年収800万円か、700万円か」。この問いに即答できる人は、実はそう多くないのではないでしょうか。
100万円という差は決して小さくありません。それでも8割超の人が低いほうを選んだという事実は、私たちが給与を「金額」ではなく「時間あたりの納得感」で捉え始めていることを示しているように思います。
統計が語る"相場"と、働く人の"本音"。この2つを並べて読むと、求人票の見方が少し変わってくるかもしれませんね!
3. 日本の給与相場はいくら?令和7年の最新統計
厚生労働省が毎年実施している「賃金構造基本統計調査」の令和7年(2025年)版が公表されました。
全国の常用労働者5人以上を雇用する民営事業所のうち、約6万事業所(有効回答率75.4%)を対象に、令和7年6月分の賃金を調査したものです。
正社員クラスにあたる「一般労働者」の所定内給与額(月額)は、男女計で34万600円。前年から3.1%の増加となり、賃上げの流れが続いていることが分かります。
男女別に見ると、男性37万3400円(前年比2.8%増)、女性28万5900円(同3.9%増)で、女性の伸び率のほうが高くなりました。
ただし男女間の格差(男性を100とした場合の女性の水準)は76.6と、前年の75.8からわずかに改善したにとどまり、依然として大きな差が残っています。
年齢別に見ると、男性は55~59歳で445万6000円とピークを迎える一方、女性は45~59歳で305万7000円にとどまり、年齢が上がるほど男女差が開いていく傾向も読み取れます。
4. 雇用形態・学歴・企業規模で広がる格差
給与の差は男女間だけではありません。雇用形態や学歴、企業規模、そして産業によって、日本の給与水準には以下のような歴然とした格差が存在します。
4.1 雇用形態別(正社員 vs 正社員以外)
- 正社員・正職員:月給 35万8800円
- 正社員以外:月給 24万1700円
正社員の67.4%の水準にとどまり、年間換算では100万円以上の差が生じる計算です。
4.2 学歴別(一般労働者の学歴別月給)
- 大学院卒:51万7400円
- 大学卒:39万6300円
- 高校卒:29万7200円
学歴が上がるにつれて給与も大きく上昇する傾向が顕著に表れています
4.3 企業規模別(大企業 vs 中・小企業)
- 大企業:38万5100円
- 中企業:32万6200円
- 小企業:30万5600円
大企業と小企業の格差は約79%です。
産業別(最高水準 vs 最低水準)
- 最も高い産業(電気・ガス・熱供給・水道業):44万4000円
- 最も低い産業(宿泊業・飲食サービス業):27万7200円
こうした数字を見ると、「年収」は学歴や勤め先の規模、雇用形態によって大きく変わる、いわば"条件次第"の指標であることが改めて分かります。
5. 役職や地域によっても給与差は歴然
役職別の給与を見ると、部長級63万5800円、課長級52万9200円、係長級39万9200円、非役職者31万500円と、役職が一段上がるごとに給与も大きく上昇していきます。
管理職を目指すかどうかも、生涯年収を左右する大きな分岐点になりそうです。
地域差も見逃せません。都道府県別で最も給与水準が高いのは東京都の41万8300円で、全国平均34万600円を大きく上回ります。
ちなみに全国平均を上回るのは東京都・神奈川県・愛知県・大阪府のわずか4都府県のみで、地域による給与格差の大きさが浮き彫りになっています。
なお、パート・アルバイトなど短時間労働者の1時間当たり賃金は男女計1518円(男性1769円、女性1418円)でした。年齢別では35~39歳が最も高く、男性2709円、女性1569円となっています。
正社員だけでなく、時間単位で働く人にとっても、賃金水準は年々可視化が進んでいると言えそうです。
6. 「年収より残業の少なさ」を選ぶ人が85.7%という現実
ここまでの数字だけを見ると、「とにかく年収の高い会社・地域・役職を目指すべき」と考えたくなります。しかし、実際に働く人たちの本音は少し違うようです。
株式会社エフペリが2026年7月、18歳から49歳までの就職・転職活動経験者または検討者377人を対象に実施した調査では、次のような結果が出ました。
同調査では、以下の2つの仮想企業を提示し、どちらに魅力を感じるかを質問しています。
- A社:平均年収800万円・残業時間が長め
- B社:平均年収700万円・残業時間が短め
回答結果の内訳は以下の通りです。
- B社に魅力を感じる:57.0%
- どちらかといえばB社に魅力を感じる:28.6%
- どちらとも言えない:1.9%
- どちらかといえばA社に魅力を感じる:9.8%
- A社に魅力を感じる:2.7%
「B社側(年収700万円・残業短め)」に魅力を感じると答えた人の合計は85.7%に上り、「A社側(年収800万円・残業長め)」を支持する12.5%を大きく引き離す結果となりました。
年収が100万円低くても、8割超の人が残業の少ない会社を選ぶという結果は、多くの企業にとって無視できない数字ではないでしょうか。
また、年収条件を満たしていても残業の長さや離職率の高さを理由に応募自体をためらう人が6割前後にのぼる点も見逃せません。求人票の年収欄だけを見て応募先を決める時代は、すでに終わりつつあるのかもしれません。
7. なぜ今、年収以外の条件が重視されるのか
賃金構造基本統計調査が示すように、雇用形態や学歴、企業規模、役職、地域によって給与差は依然として大きく存在します。
しかしその一方で、同じ「年収」という数字の中身が、残業時間や離職率、研修制度といった"働きやすさ"によって大きく左右されることも、今回の調査から見えてきました。
物価上昇が続くなかで、額面の年収を重視したくなるのは自然な心理です。
それでも多くの人が「年収より残業の少なさ」を選ぶ背景には、長時間労働による心身への負担や、せっかく良い条件で入社しても早期に離職してしまうリスクへの警戒感があるとみられます。
年収の高さだけを追いかけて消耗してしまっては、元も子もありません。
年収の数字だけでなく、実際の労働時間や離職率、研修制度、勤務地まで含めて求人情報を見極める姿勢が、今後ますます求められそうです。
これは企業側にとっても他人事ではありません。求人票の年収を引き上げるだけでは、応募者の心をつかみきれない時代に入っています。
残業削減や研修制度の充実、離職率の改善といった「働きやすさ」への投資こそが、結果的に優秀な人材の確保につながる近道になりそうです。
8. 筆者からのコメント
注目したいのは、「残業が長いから辞める」ではなく「残業が長いから応募しない」という段階で判断されている点です。
2.3%という数字は、企業が候補者と出会う前にふるい落とされていることを意味します。年収を上げれば人は来る、という前提はもはや通用しないのかもしれません。
一方で求職者側にも注意点があるでしょう。
求人票の「平均残業時間20時間」といった表記は、部署や職種によって実態が大きく異なることが少なくありません。
面接の場で「配属予定部署の直近の実績」まで踏み込んで確認できるかどうかが、入社後のギャップを防ぐ分かれ目になります。
なお、時間外労働の上限規制など労働時間に関するルールは業種や労使協定によって取り扱いが異なります。個別の条件については、必ず企業の人事部門や社会保険労務士など専門窓口に確認してくださいね。



