新NISAで配当を軸にした長期投資が広がるなか、「配当から株の理論価値を求める」という考え方が改めて注目されています。その代表がDDM(配当割引モデル)です。

株価とは、その株を持ち続けたときに将来受け取る配当を、現在価値に割り引いて足し合わせたもの——というファイナンスの原点にあたる評価手法で、実務でよく使われるのが定率成長を前提としたゴードンモデルです。

本記事では、DDMの意味・3つのモデル・計算式から、割引率や成長率の考え方、DCFやPERとの関係、そして限界までを初〜中級者向けにやさしく解説します。

ココがポイント
  • DDM=将来配当の現在価値の合計で理論株価を出す
  • ゴードンモデル:株価=配当÷(株主資本コスト−成長率)
  • 無配・高成長企業には使えない。安定配当企業向き

DDM(配当割引モデル)とは?意味をやさしく解説

DDM(Dividend Discount Model=配当割引モデル)とは、株式の理論価値を「将来受け取る配当の現在価値の合計」として求める手法です。株を持ち続けて得られるお金は配当ですから、その配当をすべて今の価値に引き直して足せば、株の適正な値段になる、という考え方です。

たとえば、来年100円、再来年103円……と受け取る配当を、投資家が求める利回り(割引率)で一つずつ現在価値に割り引き、合計したものが理論株価になります。将来のお金を今の価値に直す「現在価値」の考え方がそのまま土台にあり、DDMはその応用編にあたります。現在価値の基礎は「現在価値とは?計算式・将来価値/割引率との関係からNPV・DCF」、割り引く率の考え方は「割引率とは?現在価値の計算式・決め方(WACC)からDCF・株価との関係」で解説しています。

DDMの3つのモデル

DDMには、配当の成長をどう仮定するかで、主に3つの型があります。

第一に、ゼロ成長モデル(定額配当割引モデル)。配当が毎年一定と仮定する最もシンプルな型で、「株価 = 予想配当 ÷ 割引率」で求めます。

第二に、定率成長モデル(ゴードンモデル)。配当が毎年一定の率で成長すると仮定する、実務で最もよく使われる型です。

第三に、二段階成長モデル。最初の数年は高い成長率、その後は安定成長、というように成長率を2段階に分ける、より現実に近づけた型です。まずは基本のゼロ成長とゴードンモデルを押さえれば十分です。

ゴードンモデルの計算式と計算例

DDMの中心となるゴードンモデル(定率成長配当割引モデル)の計算式は、次のとおりです。

株価 = 予想1株配当(D)÷(株主資本コスト r − 配当成長率 g)

かんたんな数値例で確かめます。来期の予想1株配当が100円、投資家が求めるリターン(株主資本コスト)が5%、配当が毎年3%で成長すると仮定すると、理論株価は100 ÷(0.05 − 0.03)= 100 ÷ 0.02 = 5,000円となります。もし配当が成長しない(g=0)なら、100 ÷ 0.05 = 2,000円。成長率が高いほど分母が小さくなり、理論株価は大きくなる、という関係が読み取れます。

割引率と配当成長率——DDMの2つの急所

ゴードンモデルの結果を左右するのが、分母の「株主資本コスト(r)」と「配当成長率(g)」です。

割引率にあたるrは、株主がその株に求める期待リターン(株主資本コスト)です。企業全体の資金調達コストであるWACCが「企業目線」なのに対し、DDMは株主が受け取る配当を株主の要求利回りで割り引く「株主目線」の評価だといえます。もう一つのgは配当成長率で、その源泉は企業の稼ぐ力です。一般に「配当成長率 g = ROE × 内部留保率(1 − 配当性向)」で近似できます。たとえばROE8%・配当性向60%(内部留保率40%)なら、g=8% × 0.4 = 3.2%。稼ぐ力(ROE)が高く、利益を再投資するほど、配当は速く成長する、という関係です。ROEの考え方は「ROEとは?自己資本利益率の意味・計算式・目安」で解説しています。

DDMとDCFの違い——「株主目線のDCF」

DDMは、企業価値評価の王道であるDCF(割引キャッシュフロー)法とよく似ています。どちらも「将来のお金を割引率で現在価値に直して合計する」点は同じです。違いは、何を割り引くかにあります。

DCFは、企業全体が生むフリーキャッシュフローを、企業の資金調達コスト(WACC)で割り引いて企業価値を求めます。一方DDMは、株主が受け取る配当を、株主の要求利回り(株主資本コスト)で割り引いて株式価値を直接求めます。いわばDDMは「株主目線のDCF」です。企業全体を見るか、株主の取り分だけを見るか——同じ現在価値の発想の、対象違いのバージョンだと理解するとすっきりします。DCFの手順は「DCFとは?理論株価の出し方・割引率・計算式」で解説しています。

DDMとPER・配当利回りの関係

DDMは、ふだん使うPERや配当利回りとも地続きです。ゴードンモデルの「株価=D÷(r−g)」の両辺を1株利益(EPS)で割ると、「PER=配当性向÷(r−g)」という関係が導けます。これは、PERを理論的に「1÷(r−g)」と捉える見方と同じ根っこで、割引率(r)が下がるか成長率(g)が上がるほどPERが高くなることを示しています。PERと割引率・成長率の関係は「PERとDCFの関係」で詳しく扱っています。

また、DDMの出発点は配当そのものですから、配当利回り(配当÷株価)とも密接です。DDMは「配当利回りと配当成長率を合わせて、株の期待リターンを考える」枠組みでもあります。配当利回りの基礎は「配当利回りとは?計算式・目安から高すぎる利回りの罠」を参照してください。なお、DDMのような理論株価を積み上げる手法に対し、PERやPCFR(株価キャッシュフロー倍率)は市場の倍率で手早く測る「マルチプル法」で、役割が異なります。マルチプルの一例は「株価キャッシュフロー倍率(PCFR)とは?計算式・目安から使い方」で解説しています。

DDMの限界・注意点

DDMは理論的に美しい一方、使ううえで無視できない限界があります。

第一に、無配・成長企業には使えないことです。配当を出していない企業(多くの成長企業やスタートアップ)は、将来配当を予測できず、DDMを適用しにくくなります。

第二に、前提に極めて敏感なことです。分母が「r − g」なので、rとgをわずかに動かすだけで理論株価は大きく振れます。

第三に、r ≦ g(割引率より成長率が高い)だと計算が破綻することです。これは「割引率を超える成長が永遠に続く」という非現実な仮定にあたり、ゴードンモデルは安定成長期の企業にしか使えません。DDMは、配当方針が明確で安定的に配当する成熟企業に向いた手法だと理解しておきましょう。

新NISA・初心者はDDMをどう使えばよいか

新NISAで高配当株・連続増配株に長期投資する初心者にとって、DDMは相性の良い考え方です。精密な計算をする必要はなく、「株の価値は、将来受け取る配当を今の価値に直した合計だ」という発想を持つだけでも、配当銘柄の見方が深まります。

ポイントは、①配当が安定・成長する成熟企業に向く手法だと知る、②理論株価は割引率(r)と成長率(g)の置き方で大きく変わると理解する、③無配・高成長株には別の手法(PSR等)を使う、の3点です。

長期・分散・非課税という新NISAの利点を活かすなら、目先の配当だけでなく、その配当が長く成長し続けられる会社かという視点が効いてきます。

元機関投資家イズミダの視点:DDMは「株価の原点」、ただし前提が命

私がアナリスト時代から大切にしてきたのは、DDMを「株価とは何か」を教えてくれる原点として捉えることです。突き詰めれば、株の価値は将来株主が受け取るお金(配当)の現在価値の合計にほかならない——この一点を腹落ちさせると、PERもDCFも、すべて同じ「将来のお金を今に引き直す」発想の派生だと見えてきます。DDMは、その最も純粋な形なのです。

そのうえで、強く申し上げたいことがあります。ゴードンモデルの分母は「r − g」という、きわめて繊細な引き算です。株主資本コストと成長率をわずかに動かすだけで、理論株価は倍にも半分にもなる。だから私は、DDMではじいた一つの数字を信じ込むことはしません。とりわけ「割引率を超える高成長が永遠に続く」という仮定は、現実にはありえない。高い成長は必ずどこかで鈍化します。だからこそ問うべきは、「その配当成長は、どれだけの期間、無理なく続くのか」です。配当の源泉は利益であり、利益の源泉は稼ぐ力(ROE)と競争優位です。株式投資は「なんでも鑑定団」と同じで、勝負は値決め。DDMという原点の物差しを持ちつつ、前提の妥当性を疑い、複数のシナリオで幅を持って見る——それが、この古典的モデルを使いこなすコツだと考えています。もっとも、前提しだいで景色は変わるので、数字を鵜呑みにしないことが肝心です。

まとめ

DDM(配当割引モデル)とは、将来受け取る配当を現在価値に割り引いて理論株価を求める手法で、株価とは将来配当の現在価値の合計だとする株式評価の原点です。実務では定率成長を前提とするゴードンモデル「株価=配当÷(株主資本コスト−配当成長率)」がよく使われます。DCFの株主目線版にあたり、PERや配当利回りとも地続き。ただし無配・高成長企業には使えず、前提(rとg)に極めて敏感なため、安定配当企業に幅を持って用いるのが基本です。最後は値決めがものを言う——これがDDMを使いこなす王道です。

よくある質問(FAQ)

Q. DDM(配当割引モデル)とは何ですか?

A. 将来受け取る配当を現在価値に割り引いて、株式の理論価値を求める手法です。株価とは、将来配当の現在価値の合計だとする考え方に基づきます。

Q. ゴードンモデルの計算式は?

A. 「株価 = 予想1株配当 ÷(株主資本コスト − 配当成長率)」です。配当が毎年一定率で成長すると仮定した、定率成長配当割引モデルです。

Q. DDMとDCFの違いは何ですか?

A. DCFは企業全体のキャッシュフローをWACCで割り引くのに対し、DDMは株主が受け取る配当を株主資本コストで割り引きます。DDMは「株主目線のDCF」といえます。

Q. 配当成長率(g)はどう決めますか?

A. 一般に「ROE × 内部留保率(1−配当性向)」で近似します。稼ぐ力(ROE)が高く、利益を再投資するほど、配当成長率は高くなります。

Q. DDMの限界は何ですか?

A. 無配・成長企業には使えず、割引率と成長率の前提に極めて敏感です。割引率より成長率が高いと計算できないため、安定配当の成熟企業向きの手法です。

泉田 良輔