新NISAで株式投資を始める人が増え、東京証券取引所が「資本コストや株価を意識した経営」を求めるなか、ROE(アールオーイー=自己資本利益率)は、いま日本株を語るうえで欠かせない指標になりました。

2014年の伊藤レポートが「最低8%」を掲げ、2023年の東証によるPBR1倍割れ改善要請の実質的なメッセージも「ROEを高めよ」でした。とはいえ、「ROEとは結局どういう意味か」「何%なら良いのか」「高ければ健全なのか」を正しく説明できる人は多くありません。

本記事では、ROEの意味・計算式・目安から、ROA・ROICとの違い、デュポン分解、そして初心者が引っかかりやすい「見せかけのROE」まで、体系的に解説します。

ココがポイント
  • ROE=株主のお金で効率よく稼げたかを示す指標
  • 目安は8%以上。日本の資本効率改革の中心指標
  • 借金で嵩上げできるためROA・ROICと併読する

ROE(自己資本利益率)とは?意味をやさしく解説

ROE(Return on Equity=自己資本利益率)とは、株主が出したお金(自己資本)を使って、企業がどれだけ効率よく利益を生み出したかを示す指標です。株主の立場からは「自分が預けたお金が、年に何%の利益を生んでいるか」を表す、いわば株主にとっての利回りにあたります。

たとえば自己資本1,000万円の会社が1年間で100万円の当期純利益を上げたら、ROEは10%です。この10%は「株主のお金を年10%で運用できている」という意味になります。

ROEが高いほど、株主の資本を効率よく利益に変えている=資本効率の良い会社だと評価されます。PBR(株価純資産倍率)やPER(株価収益率)とも「PBR = PER × ROE」という式で結ばれており、ROEはその中で「企業の稼ぐ力」を担う中核の指標です。この関係は「PBR=PER×ROEとは?3つの指標の関係と使い方」で詳しく解説しています。

ROEの計算式と求め方

ROEは、次の式で計算します。

ROE(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100

分子は、税引後に最終的に株主のものとなる当期純利益。分母は、株主が出したお金と過去の利益の蓄積からなる自己資本(純資産)です。たとえば当期純利益80億円、自己資本1,000億円なら、ROEは80 ÷ 1,000 × 100 = 8%となります。

当期純利益・自己資本ともに決算短信や有価証券報告書で確認でき、証券会社のサイトにもROEは掲載されています。実務では、期首と期末の自己資本の平均を分母に使うこともありますが、初〜中級の段階では「純利益 ÷ 自己資本」の基本形を押さえれば十分です。

ROEの目安は何%か——伊藤レポートの「8%」

ROEの目安としてよく挙げられるのが8%です。これは2014年に経済産業省が公表した「伊藤レポート」が、日本企業は最低8%のROEを目指すべきと示したことに由来します。8%という水準は、当時の日本企業に投資家が求めるリターン(株主資本コスト)の目安に基づいています。

つまり8%は、「株主が期待する最低ライン」の目安です。ROEがこれを継続的に上回れれば、株主の期待に応えて価値を生んでいると評価されやすくなります。

ただし適正水準は業種で変わります。財務レバレッジを効かせやすい金融や、資産の軽いIT・サービスは高く出やすく、大型設備を抱える重厚長大産業は低く出やすい。目安の8%を機械的に当てはめず、同業他社や自社の過去と比べることが大切です。

ROEとROA・ROICの違い

ROEを正しく使うには、似た指標との違いを押さえる必要があります。

ROA(総資産利益率)は、自己資本だけでなく借金も含めた総資産を分母にした利益率です。会社が持つ資産全体でどれだけ稼いだかを見ます。ROIC(投下資本利益率)は、株主資本と有利子負債を合わせた投下資本に対する税引後の本業利益の割合で、財務構造に左右されない「本質的な稼ぐ力」を映します。

三者の決定的な違いは分母です。ROEは自己資本だけを分母にするため、借金を増やすと数値を高く見せられます。一方ROA・ROICは借金も含めて見るため、この「見かけの嵩上げ」が効きません。だから、高いROEが実力なのか借金頼みなのかを見抜くには、ROICと併せて読むのが有効です。ROICの詳しい中身は「ROICとは?投下資本利益率の意味・計算式・目安」で解説しています。

デュポン分解——ROEを3つに分けて読む

同じROE10%でも、その中身は会社によってまったく違います。それを見抜くのがデュポン分解です。ROEは次の3要素に分けられます。

ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ

売上高純利益率は「稼ぐ力(もうけの厚さ)」、総資産回転率は「資産を使う効率」、財務レバレッジは「どれだけ借金でテコを効かせているか」を表します。つまり同じROEでも、利益率の高さで稼ぐ会社(ブランド企業など)と、レバレッジで嵩上げした会社とでは、質がまるで違うということです。ROEを見たら、その高さが3要素のどれによるものかまで踏み込むと、経営の実像が見えてきます。

「見せかけのROE」に注意——高ROE=健全とは限らない

ROEを使ううえで最も注意したいのが、「見せかけのROE」です。デュポン分解が示すとおり、ROEは財務レバレッジ(借金)を増やすだけでも上がります。稼ぐ力が同じでも、借金を増やして自己資本を圧縮すればROEは高く見えるのです。

同じことは自社株買いにも当てはまります。自社株買いは自己資本(分母)を減らすため、本業の利益が変わらなくてもROEを押し上げます。株主還元として評価される一方、本業の収益力が変わらないまま分母を圧縮しているだけなら、本質的な企業価値の向上とは言えません。高ROEを見たら、「本業の実力か、借金や自社株買いによる嵩上げか」を、ROIC・ROAやデュポン分解で確かめることが欠かせません。

ROEと東証のPBR改革・資本コスト経営

ROEは、いまの日本株の大きな潮流の中心にあります。2023年に東証が求めたPBR1倍割れ企業への改善要請は、「PBR = PER × ROE」に照らせば、実質的に「ROEを高めよ」というメッセージでした。背景には、ROEが8%を下回る企業が少なくなかったという事実があります。

企業はROEを高めるため、増配・自社株買いによる資本の圧縮や、事業ポートフォリオの見直しに動いています。ただし前述のとおり、分母を圧縮するだけの見かけの改善には限界があり、本丸は本業の収益力(ROICでWACCを上回る力)を高めることです。

この資本効率経営の潮流は「PBRとは?株価純資産倍率の意味・計算式・目安」や「WACCとは?加重平均資本コストの意味・計算式・目安」と地続きです。

新NISA・初心者はROEをどう使えばよいか

新NISAで個別株に投資する初心者は、ROEを「株主のお金をどれだけ効率よく増やしている会社か」を掴む物差しとして使うとよいでしょう。

ポイントは、①8%を一つの目安にしつつ同業比較で見る、②高ROEが借金・自社株買いによる嵩上げでないかをROIC・ROAで確かめる、③単年でなく複数年、継続して高いかを見る、の3点です。

長期・分散・非課税という新NISAの利点を活かすなら、目先のROEの高さより、高いROEを長く保てる仕組み(強い事業)があるかという視点が効いてきます。

元機関投資家イズミダの視点:ROEは「稼ぐ力の通知表」、ただし数字の中身を読む

私がアナリスト時代から大切にしてきたのは、ROEを一つの数字として鵜呑みにせず、必ずデュポン分解で中身を読むことです。ROEは株主にとっての利回りであり、「稼ぐ力の通知表」ですが、同じ8%でも、高い利益率で稼いだ8%と、借金で嵩上げした8%とでは価値がまるで違う。前者は強い事業の証、後者は財務リスクの裏返しかもしれません。だから私は、ROEの高さより「そのROEが何でできているか」を見ます。

そのうえで申し上げたいのは、高いROEを長く維持できる会社は、たいてい他社がまねできない強さ——参入障壁やブランド、価格決定権——を持っているということです。借金や自社株買いで一時的にROEを演出することはできても、本物の高ROEは事業の構造的な強さからしか生まれません。もっとも、株式投資は「なんでも鑑定団」と同じで、勝負は値決めです。高ROEの優良企業でも、株価が高すぎれば報われない。良い会社であることと、いま買うべき値段であることは別問題——ここを外さないことが肝心です。

まとめ

ROE(自己資本利益率)とは、株主が出したお金でどれだけ効率よく利益を生んだかを示す指標で、「当期純利益 ÷ 自己資本」で計算します。

目安は伊藤レポートの8%ですが、業種で変わるため同業比較が基本。ROEは借金や自社株買いで嵩上げできるため、デュポン分解で中身を読み、ROA・ROICと併せて「本当の稼ぐ力」かを確かめることが欠かせません。

PBR=PER×ROEの中核として日本の資本効率改革の中心にある指標です。最後は値決めがものを言う——これがROEを使いこなす王道です。

よくある質問(FAQ)

Q. ROEとは何ですか?

A. 自己資本利益率のことで、株主が出したお金(自己資本)でどれだけ効率よく利益を生んだかを示す指標です。「当期純利益 ÷ 自己資本」で計算します。

Q. ROEは何%が目安ですか?

A. 伊藤レポートが示した8%が一つの目安です。ただし業種で大きく異なるため、同業他社や自社の過去と比べて見るのが基本です。

Q. ROEとROAの違いは何ですか?

A. ROEは自己資本だけを分母にするのに対し、ROAは借金も含む総資産を分母にします。ROEは借金で高く見せられますが、ROAはその影響を受けにくい指標です。

Q. ROEが高ければ良い会社ですか?

A. 一概には言えません。借金や自社株買いでROEは嵩上げできるため、デュポン分解やROIC・ROAで「本業の実力か」を確かめる必要があります。

Q. なぜ自社株買いでROEが上がるのですか?

A. 自社株買いは自己資本(分母)を減らすため、本業の利益が同じでもROEが上がります。ただし本業が変わらなければ、本質的な価値向上とは限りません。

泉田 良輔