5. 65歳を境に変わる「年金と失業給付」の併用ルールに注意
ここで知っておきたいのが、退職する年齢によって「年金」と「失業給付」の併用ルールが大きく変わるという事実です。
65歳未満で退職し、ハローワークで基本手当(失業手当)の手続きをすると、その期間中は「特別支給の老齢厚生年金」が全額支給停止されてしまいます。
つまり「年金か失業手当か」のどちらか高い方を選ぶような状態になります。
しかし、65歳以降に退職して申請する「高年齢求職者給付金(一時金)」の場合は、老齢年金との併給調整が一切行われません。
つまり、年金を全額受け取りながら、同時に雇用保険から一時金を満額受け取ることができるのです。
このため、「64歳11カ月で退職して基本手当を受ける場合」と「65歳以降に退職して年金と高年齢求職者給付金を受ける場合」では、受け取れる給付の仕組みが大きく異なります。
どちらが有利になるかは、年金額、退職前の賃金、雇用保険の加入期間、基本手当の所定給付日数などによって変わります。
「65歳になる前に退職するか、それとも65歳を迎えてから退職するか」は、単純に年齢だけで判断するのではなく、年金と雇用保険から受け取れる金額を具体的に比較したうえで決めることが大切です。
セカンドライフの資金計画を考える際には、こうした制度の違いも踏まえて、退職のタイミングを検討することが重要です。
6. 在職老齢年金の「65万円の壁」とは?働くシニアの年金カットが大幅に緩和
現役世代並みに働くシニアにとって、雇用保険の給付金と並んで大きな意味を持つのが「在職老齢年金」です。
これは、働きながら厚生年金に加入して給与を得ると、その額に応じて年金(報酬比例部分)が一部または全額支給停止(カット)される仕組みを指します。
この年金カットを避けるために、意図的に働く時間や給与を抑える「就労調整」を行うシニアが多いことが、長年の課題とされてきました。
しかし、この課題に対応するため、2026年4月から支給停止の基準額が51万円から65万円へと大幅に引き上げられました。
6.1 2026年4月から適用される新ルールを解説
毎月の賃金(総報酬月額相当額:給与+直近1年間の賞与の1/12)と、老齢厚生年金の基本月額の合計額が「65万円」以下であれば、年金は一切カットされず、全額を受け取ることができます。
- 改正前(2025年度まで):合計額が51万円を超えると、超過分の半額が支給停止されていました。
- 改正後(2026年度から):合計額が65万円を超えるまでは支給停止がなくなり、超過した場合のみ、その半額が支給停止されます。
※なお、老齢基礎年金(国民年金)は給与に関係なく、いつでも全額支給されます。
6.2 年金カットはどう変わる?具体的な手取り額の変化をシミュレーション
- 前提:年金(基本月額)10万円、給与(総報酬月額相当額)46万円(合計56万円)の場合。
- 改正前(51万円基準):合計56万円となり、51万円をオーバーするため、月額2万5000円の年金が支給停止されていました(年金手取額:7万5000円)。
- 改正後(65万円基準):合計56万円は65万円以下となるため、年金は一切カットされず「10万円」全額が支給されます。
この大幅な改正により、これまで年金カットを恐れて就労をセーブしていたシニア層も、収入を気にすることなく持てる経験や能力をフルに活かして働けるようになります。
雇用保険の給付金を賢く活用しつつ、改正された在職老齢年金制度の恩恵を受けることで、働くシニアの経済的ゆとりは向上するでしょう。
7. まとめ:公的支援を賢く活用し、豊かなセカンドライフを
還暦を過ぎ、定年退職を迎えた後も働き続けるシニア世代が増加し、60歳代・70歳代の就労が当たり前の時代になりつつあります。
老後の資金計画を立てる際、多くの方は預貯金の活用や投資などの「自助努力」に目を向けがちです。もちろんそれらも大切ですが、国や自治体が用意している支援制度の対象となる権利を漏れなく利用していくことも、極めて強力な「生活防衛」の手段となります。
今回ご紹介したような、長く働く選択を経済面から支えてくれる公的制度の仕組みを正しく理解し、適切なタイミングで申請することが、これからの長いセカンドライフをより豊かで安心なものにするための確かな一歩となるでしょう。
8. 筆者からのコメント
在職老齢年金の上限が「65万円」へ大幅緩和されたことで、シニア世代の資産寿命を延ばす「デキュムレーション(資産の賢い取り崩し)」の戦略は今後大きく変わってくるかもしれませんね。
収入の上限を過剰に心配することなく、厚生年金に加入して長く働き、将来の年金受給額自体を増額させることができるようになります。
さらに、就労収入で当面の生活費を補いながら、年金の「繰下げ受給」を併用すれば、繰下げ1カ月ごとに0.7%(最大84%)の年金増額に繋がります。
物価高に負けないインフレ防衛資金を「自分の力で」育てる、心強い人生設計と言えるでしょう。
