預金を凍結前に引き出すとどうなる?知っておきたい3つのリスク
財産の全体像が見えてきたところで、もう一つ知っておいていただきたいことがあります。それは、金融機関に死亡の事実を伝える前に故人の預金を引き出す行為の危うさです。
「暗証番号も分かっているし、葬儀費用も要るから」と考える方もいるかもしれません。ですが、物理的に引き出せることと、法律上引き出してよいことは、まったく異なる話です。
まず押さえておきたいのは、口座が凍結される仕組みです。「死亡届を出せば自動的に口座が止まる」と誤解している方も多いのですが、そうではありません。
口座が凍結されるのは、金融機関が名義人の死亡を知った時点です。役所と金融機関の間で死亡情報が自動的に共有される仕組みは現状存在せず、このズレによって、実際には引き出せてしまう時間が生まれます。
では、なぜそれが問題になるのか。主に3つのリスクが考えられます。
- 借金も含めて相続することになる可能性:故人の口座から預金を引き出す行為は、法的に「単純承認」と解釈されることがあります。単純承認とは、プラスの財産もマイナスの財産(負債)もすべて引き継ぐという意思表示とみなされること。後から多額の借金が発覚しても、相続放棄が認められなくなる可能性が高くなります。「親に借金はないはず」と思っていても、誰にも打ち明けられなかった負債が後から出てきた、というケースは珍しくありません
- 他の相続人から「使い込み」を疑われる:ATMの取引記録は長期間保存されます。葬儀費用に充てたとしても、領収書などで使途を証明できなければ、他の相続人との間で深刻なトラブルに発展しかねません
- 相続税の税務調査で厳しく見られる:亡くなる直前・直後の高額な出金は、税務調査で特に注目される項目です。生前贈与の加算期間が「死亡前3年」から「死亡前7年」に延長されたこともあり、資金の動きは以前よりも厳格にチェックされるようになっています
葬儀費用などが必要なら「預貯金の払戻し制度」を
入院費や葬儀費用の支払いなど、どうしても故人の資金が必要な場合は、2019年7月に始まった「遺産分割前の預貯金の払戻し制度」を活用しましょう。相続人全員の合意を得ずとも、法律で決められた範囲であれば引き出しが認められます。

払戻しできる金額は、次の式で算出します。
相続開始時の預金額 × 3分の1 × 払戻しを受ける相続人の法定相続分(1金融機関あたり上限150万円)
(例)預金額600万円、相続人が子ども2人の場合
600万円 × 1/3 × 1/2 = 最大100万円まで引き出し可能
必要となる書類は、一般的に次の通りです。
- 被相続人(故人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 手続きを行う相続人の印鑑証明書と実印
手間はかかりますが、この一手間こそが「引き出せる」と「引き出してよい」を分ける境界線です。正式な手順を踏むことで、思わぬ借金の相続や、親族間のトラブルといった大きなリスクを避けられます。
まとめ
今回は、大事なご家族を亡くされた時に気をつけておきたいことについて解説しました。
筆者が前社で営業をしていた頃、ご家族を亡くされたけど「持っていた通帳はこれで全部か?」「どの保険に加入していたのか?」といったことが分からずに困っている方は、少なくありませんでした。
家族間であっても、お金の話というのはあまりしづらいと感じる方は多いものです。
しかし、家族であるからこそ遺された家族が困らないためにも生前にしっかりと自分のお金まわりのことについて話しておくことは大事です。
また、話をするだけではなく、エンディングノートや資産リストを作成し目視でお金に関することが全て把握できる状態を作っておくのも有効です。
言葉で伝えるのは難しいという方は、ノートやリストを作成し家族に渡しておいて「自分に何かあったらお金まわりのことは全部ここに書いたから」と渡しておくと良いでしょう。
また、遺されたご家族側も故人の預貯金を引き出したりすると相続放棄ができなくなったりの注意点もあります。
いま一度、ご家族で万一の時に「故人が生前にしておいた方がいいこと」「遺された家族が気をつけておくべきこと」について確認しておきましょう。
参考資料
鶴田 綾
