5. 在職老齢年金「65万円の壁」へ大幅引き上げで、働くシニアの年金カットが解消へ
働くシニアにとって、雇用保険の給付金と並んで極めて重要な国の制度が「在職老齢年金」です。
これは「働きながら厚生年金に加入して給与を得ると、その額に応じて年金(報酬比例部分)が一部または全額支給停止(カット)される」という仕組みです。
この年金カットを敬遠して、あえて働く時間や給与を抑える「就労調整」をするシニアが多いことが長年の課題でした。
しかし、2026年(令和8年)4月より、この支給停止の基準額(支給停止調整額)が「51万円」から「65万円」へと大幅に引き上げられています。
5.1 2026年4月からの新しい計算ルール
毎月の賃金(総報酬月額相当額:給与+直近1年間の賞与の1/12)と、老齢厚生年金の基本月額の合計額が「65万円」以下であれば、年金は一切カットされず、全額を受け取ることができます。
- 改正前(令和7年度):合計額が「51万円」を超えると、超えた分の半額の年金が支給停止。
- 改正後(令和8年度):合計額が「65万円」を超えるまでは支給停止なし。超えた場合のみ、超えた額の半分が支給停止。
※なお、老齢基礎年金(国民年金)は給与に関係なく、いつでも全額支給されます。
5.2 具体例でみる「手取り」の変化
- 前提:年金(基本月額)10万円、給与(総報酬月額相当額)46万円(合計56万円)の場合。
- 改正前(51万円基準):合計56万円となり、51万円をオーバーするため、月額2.5万円の年金が支給停止されていました(年金手取額:7.5万円)。
- 改正後(65万円基準):合計56万円は65万円以下となるため、年金は一切カットされず「10万円」全額が支給されます。
この大幅な改正により、これまで年金カットを恐れて就労をセーブしていたシニア層も、収入を気にすることなく持てる経験や能力をフルに活かして働けるようになります。
雇用保険の給付金を賢く活用しつつ、改正された在職老齢年金制度の恩恵を受けることで、働くシニアの経済的ゆとりは向上するでしょう。
6. まとめにかえて
還暦を過ぎ、定年退職を迎えた後も、これまでの豊富な経験を活かして働き続けるシニア世代が増加しています。
60歳代、70歳代になっても働くことが当たり前になりつつある現代において、今回ご紹介したような公的な給付金を賢く最大限に活用する視点は、これまで以上に重要性を増すでしょう。
7. 筆者からのコメント
老後の資金計画を立てる際、多くの人は預貯金をどう活用するかや、投資による「資産形成」といった自助努力に目を向けがちです。
もちろんそれらも大切ですが、国や自治体が提供している支援制度に常にアンテナを張り、自身が対象となる権利を確実に利用していくことも、同じくらい重要な「生活防衛」の手段といえます。
「長く働く」という前向きな選択を経済面から支えてくれる公的制度。
その仕組みを正しく理解し、適切なタイミングで申請することが、これからの長いセカンドライフをより豊かで安定したものにするための、確かな一歩となるはずです。
