5. 【元公務員の実感】窓口で受けた繰上げ相談の実際
自治体で国民健康保険料と後期高齢者医療保険料の賦課担当をしていた頃、繰上げ受給を選んだ住民の減額後の年金額を、保険料計算の根拠として目にすることもありました。窓口で交わした会話には、統計だけでは見えない事情もありました。
5.1 「まだ働けるうちは働きたい、でも体が心配」の声
60歳を過ぎて再雇用契約で働きながら、体調に波が出てきたという声もありました。「あと数年働ける自信はないから、少なくても今から受け取ったほうが安心できる」と、繰上げの手続きを済ませた方もいます。
ただ、繰上げで確定した減額後の年金額は、想定していた金額より低く感じられることもあります。「思ったより少ないから、あと少し我慢すればよかった」と数年後に窓口で口にする方もいて、事前の試算の大切さを痛感しました。
6. 繰上げ受給を選ぶ前に確認したい3つのこと
繰上げ受給には、減額率以外にも見落としやすい制度上の制約があります。日本年金機構が公表している注意点のうち、相談窓口で特に説明していた3つを整理します。
6.1 減額は生涯にわたり続く
繰上げ請求で決まった減額率は、その後の受給期間を通じて変わりません。65歳を過ぎても満額に戻ることはなく、80歳や90歳になっても同じ減額率のまま受け取り続けることになります。
長寿になるほど累積の受給総額で不利になるという特徴があります。
6.2 事後重症などによる障害基礎年金を請求できなくなる
繰上げ請求をした後は、事後重症などによる障害基礎年金や障害厚生年金の請求ができなくなります。60歳を過ぎて持病が悪化した場合の備えを失う点は、繰上げを検討する際に必ず確認しておきたいところです。
6.3 寡婦年金や遺族年金と併給できない
繰上げ請求をした日以降、国民年金の寡婦年金は支給されません。また、65歳になるまでのあいだは、遺族厚生年金や遺族共済年金と繰上げ後の老齢年金を同時には受給できず、どちらかを選ぶ必要があります。世帯の状況によっては、受け取れる年金総額に大きな差が出ます。
7. まとめにかえて
令和8年3月の新規裁定者で繰上げ受給を選んだ人は8.2%と、じわりと増える動きが見えてきました。ただ、繰上げは月0.4%の減額が生涯続く仕組みで、障害年金や遺族年金との併給にも制約が生じます。
繰上げにはメリットもデメリットもあります。手続きに踏み切る前に、ねんきん定期便で満額の見込額を確認し、繰上げ後の月額と生活費を並べて考えることが役に立ちます。
判断に迷うときは、日本年金機構の年金事務所や街角の年金相談センターに足を運んで、専門の担当者に相談してみましょう。
参考資料
太田 彩子