6月末に国民健康保険料の第1期分を払い、通知書の金額に驚いた読者もいるのではないでしょうか。市役所で国保料の賦課や徴収業務を担当していたころ、「なぜこんなに高いの?」「軽減されていないのでは」と相談に来る方が、毎年7月から8月にかけて急に増えていました。

多くは、住民税の申告漏れで軽減判定が反映されていなかったケースでした。

令和8年度は、国民健康保険料の賦課限度額が113万円に引き上げられ、新たに「子ども・子育て支援納付金」の区分も加わっています。

改定の中身を初めて通知書で目にする方もまた、金額の変動に驚かれるかもしれません。

この記事では、独立や退職を機に国民健康保険に加入する人向けに、保険料の決まり方、令和8年度改定のポイント、そして所得が少ない世帯を対象にした7割・5割・2割の軽減措置と申告の重要性まで、窓口を担当していた筆者の経験も交えて整理していきます。

太田 彩子

「国保の通知書を見て金額に驚いた」というご相談は、6月末から7月にかけて本当に多く寄せられていました。ただ、慌てなくてよい部分と、いま確認しておくべき部分は、意外にはっきり分けて考えることができます。くわしくみていきましょう。

1. この記事でわかる国民健康保険料「3つのポイント」

  •  令和8年度から国民健康保険料の賦課限度額は合計113万円に。新たに「子ども・子育て支援納付金分」が加わり、区分が4本柱へ
  •  保険料は基礎賦課額(医療分)・後期高齢者支援金等賦課額・介護納付金賦課額・子ども・子育て支援納付金の合計で決まり、市町村ごとに料率が異なる
  •  所得の低い世帯には応益割(均等割・平等割)の7割・5割・2割軽減がある。ただし世帯全員の住民税申告が済んでいることが前提

2. 国民健康保険への切り替えは14日以内が原則

多様な働き方が広がるなかで、フリーランスや個人事業主として独立する人は少なくありません。会社員時代の健康保険を外れると、多くの人は市区町村が運営する国民健康保険へ切り替えることになります。

国民健康保険の加入資格1/3

国民健康保険の加入資格

出所:厚生労働省「国民健康保険の加入・脱退について」

退職直後は、この切り替え手続きが後回しになりがちなタイミングです。

「退職してすぐに手続きしなかったのですが、大丈夫でしょうか」と、あとになって不安そうに問い合わせてくる相談も実に多いものでした。

国民健康保険法では、加入事由が生じた日から14日以内に届出をすることが原則とされています。届出が遅れた場合でも資格自体は退職日の翌日にさかのぼって発生するため、その間の保険料も後からまとめて請求されます。

2.1 会社員の健康保険との仕組みの違い

会社員が加入していた健康保険は、事業主と本人が保険料を折半する形でした。一方の国民健康保険は世帯単位で加入し、世帯主が保険料の納付義務者となります。

世帯主本人が会社の健康保険や後期高齢者医療制度に加入していて国保に入っていない場合でも、その世帯に国保加入者がいる限り、納付義務者はやはり世帯主です。

これは「擬制世帯主」と呼ばれる仕組みで、「なぜ国保に加入していない自分に保険料通知が届くのか」という相談は、窓口業務でも説明の多い部分でした。

2.2 任意継続という選択肢もある

なお、退職後2年間に限り、会社員時代の健康保険を任意継続するという選択肢もあります。

一般的には任意継続の方が保険料が安くなりやすいですが、前年所得や扶養家族の構成によって変わるため、退職前に両方の見積もりを取っておくと安心です。

3. 【国民健康保険料の中身】子ども・子育て支援納付金も加わり4区分へ

続いて、国民健康保険料そのものの中身を見ていきましょう。市町村ごとに料率は違うのですが、計算の枠組み自体は全国で共通しています。

3.1 基礎賦課額・後期高齢者支援金等賦課額・介護納付金賦課額の3本柱

国民健康保険料は、これまで3つの区分の合計額として決められてきました。基礎賦課額(医療分)、後期高齢者支援金等賦課額(支援分)、そして40歳から64歳までの人が対象になる介護納付金賦課額(介護分)の3つです。

さらに区分ごとに、所得に応じた「所得割」と、加入者ひとりあたりで負担する「均等割」、世帯単位で負担する「平等割」に分かれていました。所得割と均等割・平等割を合わせて、その世帯の保険料が算定される仕組みです。

国民健康保険料・保険税のしくみ2/3

国民健康保険料・保険税のしくみ

出所:厚生労働省「国民健康保険の保険料・保険税について」

3.2 令和8年度から加わる「子ども・子育て支援納付金」

令和8年度からは、この3本柱に加えて「子ども・子育て支援納付金」が新設され、国民健康保険料は4区分の合計額として算定されることになりました。

会社員が加入する健康保険からも徴収されますが、国民健康保険の加入者にも同じように上乗せされます。基準的な料率は所得割0.3%、均等割1800円とされています。

4. 【令和8年度改定】国民健康保険料の賦課限度額は合計113万円に引き上げ

保険料の話で必ず出てくるのが「賦課限度額」です。所得に比例して保険料が青天井にならないよう、世帯ごとに上限額が定められています。

4.1 賦課限度額の内訳と改定内容

令和8年度の賦課限度額は、次のとおり合計113万円と定められました(令和8年政令第2号および第4号)。

  • 基礎賦課額(医療分):67万円(令和7年度66万円から1万円引き上げ)
  • 後期高齢者支援金等賦課額(支援分):26万円(据え置き)
  • 介護納付金賦課額(介護分):17万円(据え置き)
  • 子ども・子育て支援納付金賦課額:3万円(新設)

前年度の合計は109万円だったため、実質的には4万円の引き上げとなります。

太田 彩子

1万円の引き上げは金額としては小さく見えますが、賦課限度額の見直しは中間所得層の負担を抑える目的もあり、毎年のように議論されてきました。もう1つ注目したいのは、上限に届かない一般的な世帯にも数千円単位で影響してくる「子ども・子育て支援納付金分」の新設です。上限の話とは別枠で押さえておきたいポイントです。

4.2 影響を受けるのは高所得の単独世帯や個人事業主

賦課限度額に到達するかどうかは、家族構成や自治体の料率によって差はあるのですが、世帯主単独で年収がおおむね1000万円を超えるあたりから限度額に達するケースが増えてきます。

所得の高いフリーランスや、複数事業を営む個人事業主は、この上限に届く可能性がある層といえるでしょう。

負担が増える一方で、賦課限度額の引き上げには、中間所得層の保険料上昇を抑える調整弁の役割もあります。所得が高い層に負担能力に見合った額を負担してもらう仕組みです。

ただし限度額に届かない世帯にとっても、子ども・子育て支援納付金分の新設で年間の保険料が増える可能性があります。「上限には遠いから関係ない」ともいえないのです。

5. 国民健康保険料「7割・5割・2割軽減」応益割の負担を減らせる仕組み

国民健康保険料には、負担能力の低い世帯を対象にした軽減措置が用意されています。筆者も、退職後や休業後に「保険料を払えない」と相談される方に必ず案内していた制度です。

5.1 応益割(均等割・平等割)が軽減の対象

軽減の対象になるのは、所得の多寡にかかわらず一律で負担する「応益割」の部分です。

応益割は均等割と平等割を指し、世帯所得が一定の基準以下の場合に、この部分が7割・5割・2割のいずれかで軽減されます。

国民健康保険料・保険税の軽減3/3

国民健康保険料・保険税の軽減

出所:厚生労働省「国民健康保険の保険料・保険税について」

所得に応じてかかる「所得割」は対象外です。

5.2 令和8年度の軽減判定基準

軽減判定は、世帯主と全被保険者、それに特定同一世帯所属者の前年所得を合算した金額で行われます。令和8年度の判定基準は次のとおりです(Nは被保険者数、Aは給与所得者等の数)。

  • 7割軽減:43万円 + (A−1)×10万円 以下
  • 5割軽減:43万円 + N×31万円 + (A−1)×10万円 以下(前年度はNあたり30.5万円)
  • 2割軽減:43万円 + N×57万円 + (A−1)×10万円 以下(前年度はNあたり56万円)

令和8年度は5割軽減と2割軽減の基準がそれぞれ引き上げられ、対象世帯が広がる方向で改定されています。

太田 彩子

一見難しそうに見える計算式ですが、住民税の申告さえ済んでいれば市区町村が自動で判定してくれます。窓口で多かったのは「所得ゼロだから申告は不要」と思い込んで、そもそも申告そのものを忘れてしまうパターンでした。軽減の対象になるかどうか気になる方は、まず前年分の申告状況を確認してみてください。

なお、軽減の適用を受けるためには、世帯主と加入者全員が住民税の申告を済ませていることが前提です。

窓口では「所得ゼロだから申告しなくてもよいと思っていた」というケースが多く、申告漏れで軽減が反映されなかった相談も少なくありませんでした。

6. 【まとめ】令和8年度改定を機に、まずは現状把握と申告の確認から

会社を辞めて独立するタイミングは、健康保険の仕組みと正面から向き合う数少ない機会です。

令和8年度は、国民健康保険料の賦課限度額が113万円に引き上げられ、あわせて「子ども・子育て支援納付金分」の区分が新設されました。上限に届かない世帯にも影響が及ぶ改定です。

一方で、所得の低い世帯には応益割の7割・5割・2割軽減が用意されており、令和8年度は5割軽減の基準(被保険者1人あたり)が30.5万円から31万円へ、2割軽減が56万円から57万円へそれぞれ引き上げられました。

国民健康保険は、居住する市町村によって料率が異なるうえ、世帯構成や前年所得によって金額が大きく変わります。

「金額に納得できない」「軽減が効いていないのでは」と感じたときは、慌てず、まず前年の源泉徴収票や確定申告書を手元に用意して、市区町村の国保窓口で試算と判定根拠の説明を依頼するところから始めてみてはいかがでしょうか。

太田 彩子

【筆者からひとこと】

かつて公務員として国民健康保険の賦課窓口を担当していた立場からお伝えすると、6月末に通知書が届いてから7月・8月にかけて「金額に納得できない」と相談に訪れる方は多くいました。特に、退職前に国保と任意継続の両方で保険料を試算しないまま切り替えてしまったケースや、世帯内の誰かが住民税申告を忘れて軽減が反映されていないケースが比較的多かったものです。
「払えない」と感じたときも、督促を待たずに一度窓口へ相談してみてください。失業・災害・所得急減などを理由にした減免制度は、申請しなければ受けられません。ひとりで抱え込まずに、まずはお住まいの役所・役場で相談してみることをおすすめします。

参考資料

太田 彩子