年収550万円から850万円台にかけては、昇給や転職で「640万円」「680万円」「760万円」といった、きりのよい数字ではない年収になる方が増えてくる帯です。
「年収600万円の手取りはいくらか」という早見表は数多くありますが、640万円や760万円のような端数のある年収まで一覧で示した記事は見当たりませんでした。
本記事では、令和8年度の最新の保険料率・税制をもとに、年収550万円から850万円台までの8地点の手取り額を編集部で試算し、一覧で示します。前提条件は、東京23区在住・独身(扶養家族なし)・40歳未満(介護保険料なし)・賞与なし・勤務先の社会保険に加入・入社2年目以降(住民税が課税される場合)です。
なお、子ども・子育て支援金に関する詳しい説明は、下記の記事より一部を引用・参照しています。
1. 年収550万円台〜850万円台とは、どんな年収帯か
この年収帯に該当するのは、30代後半〜40代の会社員や、管理職への昇進・転職を経て中堅からベテラン層に差しかかった会社員です。額面が「600万円」や「800万円」というきりのよい数字からずれた年収になっている方も多くいます。
この帯には、税制上の大きな節目が2つ隠れています。所得税の基礎控除が縮む「489万円」の崖と、社会保険料の一部が頭打ちになる仕組みです。この記事では、実際にどこで何が起きるのかを、数字で確認していきます。
1.1 手取り額を決める3つの天引き項目
手取り額は、年収から社会保険料・所得税・住民税を差し引いた金額です。年収に比例して単純に増減するわけではありません。
社会保険料(健康保険・厚生年金保険・雇用保険)は、月々の給与を「標準報酬月額」という等級に当てはめて計算します。実際の給与額そのものではなく、区切りのよい等級で決まる点が特徴です。
所得税と住民税は、年収から「給与所得控除」と「基礎控除」を差し引いた「課税所得」に税率をかけて計算します。控除額は年収に応じて段階的に変わるため、税負担の増え方も年収帯によって異なります。
2. 「550万円」から「850万円台」まで、手取り一覧――489万円を境に手取り率の下がり方が変わる
この年収帯で見落とされがちなのが、所得税の基礎控除が縮む「489万円」という所得の壁です。額面年収に換算すると、およそ666万円のあたりで給与所得がこの壁を越えます。
2.1 編集部試算:年収550万円〜850万円台の手取り一覧
2.2 【年収550万円〜850万円台、手取りの目安】
560万円〜640万円
- 560万円:手取り436万8973円(手取り率78.0%)
- 600万円:手取り466万1928円(手取り率77.7%)
- 640万円:手取り495万4884円(手取り率77.4%)
680万円〜850万円
- 680万円:手取り519万9690円(手取り率76.5%)
- 720万円:手取り545万3216円(手取り率75.7%)
- 760万円:手取り570万6743円(手取り率75.1%)
- 800万円:手取り594万7601円(手取り率74.4%)
- 850万円:手取り629万6455円(手取り率74.1%)
560万円から640万円までは、40万円の増加につき手取り率が0.3ポイントほどずつ下がっています。ところが640万円から680万円にかけては、下がり幅が0.9ポイントとほぼ3倍に広がります。
この加速には、2つの制度が同時に関わっています。1つ目は所得税の基礎控除で、合計所得489万円を境に104万円から67万円へ縮みます。この年収帯では給与所得が640万円で468万円、680万円で502万円となり、ちょうどこの間で489万円を越えます。
2つ目は所得税率そのもので、課税所得330万円を境に税率が10%から20%へ切り替わります。この年収帯では課税所得が640万円で約270万円、680万円で約336万円となり、こちらもほぼ同じ区間で330万円を越えます。
基礎控除が縮む影響と税率が上がる影響が、たまたま同じ40万円の値上がり幅の中で重なったことが、下がり幅が3倍に広がった理由です。
3. 【編集者の視点】
手取り率の下がり方が急に大きくなる区間があると知ると、「損をしている」と身構えたくなるかもしれません。ですが、これは特別な不利益ではなく、税率と控除額がそれぞれ独立した基準で段階的に変わる仕組みの結果です。
実務上のポイントは、この加速が起きる年収帯(本記事では640万円台後半〜680万円台)にいる方ほど、昇給や賞与査定の際に「あといくらで次の税率区分に入るか」を意識しておくことです。合計所得金額は源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」の欄で確認できます。
もう1つ知っておきたいのが、住宅ローン控除・ふるさと納税の控除上限額です。課税所得が330万円を境に税率が変わると、ふるさと納税の実質的な控除上限額も連動して変わります。年末に慌てて確認するのではなく、年の半ばの時点で一度、源泉徴収票の見込み額を確認しておくと安心です。
控除額や税率の区分について正確に知りたい場合は、国税庁のタックスアンサーで速算表を確認するか、勤務先の年末調整窓口・税務署に相談することをおすすめします。
4. 年収761万円と763万円――「762万円の壁」でたった2万円の差が手取りを減らす
この年収帯には、もう1つ見落とされがちな壁があります。年収が2万円増えただけなのに、手取りが逆に減ってしまう地点です。
4.1 編集部試算:761万円と763万円の手取り比較
4.2 【761万円と763万円、何が変わるか】
761万円の場合
- 標準報酬月額:62万円(等級据え置き側)
- 社会保険料:109万3786円
- 手取り額:571万3955円
763万円の場合
- 標準報酬月額:65万円(等級が1つ上がる側)
- 社会保険料:114万4970円
- 手取り額:569万2810円
月給に換算すると、761万円は月63万4167円、763万円は月63万5833円です。健康保険・厚生年金保険の標準報酬月額は「63万5000円」を境に、62万円の等級から65万円の等級へ切り替わります。
763万円では、健康保険・厚生年金保険の両方が同時に1つ上の等級へ切り替わるため、社会保険料が5万1184円増えます。年収の増加分(2万円)を大きく上回るため、手取りは2万1145円の減少に転じます。
標準報酬月額の等級は、月々の報酬額の範囲ごとに1つずつ区切られています。今回のように、年収の増加分がそのまま1つの等級の境目と重なると、社会保険料の増加が年収の増加を上回る場合があります。
5. 【編集者の視点】
「昇給したのに手取りが減る」という現象は、単なる思い込みではなく、実際に起こり得ます。健康保険・厚生年金保険の保険料は、実際の給与額ではなく「標準報酬月額」という等級で決まるためです。
今回のケースでは、月給が63万5000円という境目をまたぐことで、健康保険・厚生年金保険の両方が同時に1つ上の等級に切り替わりました。1つの制度だけが動く場合より、影響が大きくなりやすい点に注意が必要です。
実務上のポイントは、賞与や残業代を含めた年間の報酬額が、こうした等級の境目に近いかどうかを事前に把握しておくことです。境目をまたぐタイミングが分かっていれば、給与明細を見て慌てることも少なくなります。
標準報酬月額は、毎年4〜6月の給与の平均から決まる「定時決定」で年1回見直されるほか、固定的な給与が2等級以上変わった場合は「随時改定」の対象にもなります。ご自身の等級が気になる場合は、給与明細の「標準報酬月額」の欄を確認するか、勤務先の給与担当窓口に確認することをおすすめします。
なお、この試算は東京23区・独身・扶養なしという前提に基づいています。お住まいの都道府県によって協会けんぽの健康保険料率が異なるほか、家族構成によって税負担も変わるため、正確な金額は給与明細や源泉徴収票で確認してください。
6. 「850万円台」の先に待つ、次の壁と配偶者控除の距離
この記事が扱う年収帯の上限、850万円台の先には、さらにもう1段階、税負担が重くなる節目が控えています。
年収850万円のとき、給与所得はちょうど655万円です。所得税の基礎控除は、合計所得655万円を境に67万円からさらに62万円へ縮みます。850万円をわずかに超えると、この壁に到達します(詳しい試算は、年収900万円台以降を扱う記事で改めて解説します)。
また、配偶者控除・配偶者特別控除は、本人(納税者)の合計所得金額が900万円を超えると段階的に縮小します。年収850万円(給与所得655万円)の時点では、900万円という基準まではまだ余裕があります。
ただし、この900万円という基準は「合計所得金額」で判定されます。給与以外に副業や不動産所得などがある場合は、それらも合算した金額で判定されるため、給与収入だけで安心しきらないことが大切です。
特に、この年収帯で役職手当や住宅手当が加わり賞与査定が上がるタイミングでは、翌年の合計所得金額が900万円に近づいていないか、源泉徴収票で毎年確認しておくと安心です。
本記事で見てきたように、年収550万円台から850万円台までの間には、税制と社会保険料それぞれの境目が複数存在します。1つの壁を越えたからといって、その先にもう壁がないとは限りません。
※本記事は、編集部が全国健康保険協会・日本年金機構・国税庁が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
隣接する年収帯については、年収700万円の手取りはいくらかや年収800万円の手取りはいくらかもあわせてご覧いただくと、本記事の端数の年収との違いがより分かりやすくなります。
7. まとめ
- 年収550万円台〜850万円台では、所得税の基礎控除が縮む489万円の崖と、税率が上がる課税所得330万円の壁が、640万円から680万円にかけて同時に訪れます。
- この区間では、手取り率の下がり方が通常の3倍近くに加速します。
- 年収761万円と763万円の間には、健康保険・厚生年金保険の等級が同時に切り替わる「762万円の壁」があり、年収の増加分を上回る社会保険料の増加によって、手取りが絶対額で減少します。
- 850万円台のさらに先には、基礎控除がもう一段縮む壁が控えています。
年収600万円台や700万円台という数字だけを見ると1つのまとまりに思えますが、550万円から850万円台の間には、税制と社会保険料それぞれの節目が複数隠れています。
ご自身の年収に近いポイントがあれば、まずは給与明細で標準報酬月額の欄を確認してみてください。等級や控除の区分に迷う場合は、勤務先の給与担当窓口や税務署に確認する方法もあります。
8. よくある質問
8.1 Q. 年収が2万円増えただけで、本当に手取りが減ることはありますか?
A. はい。本記事の761万円と763万円の比較のように、健康保険・厚生年金保険の標準報酬月額の等級が同時に切り替わる境目では、社会保険料の増加が年収の増加分を上回り、手取りが絶対額で減ることがあります。
8.2 Q. 「489万円の崖」と「課税所得330万円の壁」は、必ず同じ年収帯で重なりますか?
A. 本記事の試算は東京23区・独身・扶養なしという前提に基づいた結果です。家族構成や控除の有無によって課税所得の金額が変わるため、重なる年収帯はご自身の条件によって多少前後します。配偶者控除や生命保険料控除などが加わると、課税所得が減る分、境目に到達する年収も本記事より高くなります。
8.3 Q. 762万円の壁は、賞与がある場合も同じように起こりますか?
A. 本記事の試算は賞与なし・月給のみを前提にしています。賞与がある場合は「標準賞与額」という別区分で保険料が計算されるため、月給だけで年収を割った本記事の前提とは境目の位置が変わります。ご自身の場合の境目を知りたいときは、月々の給与明細の総支給額で確認するのが確実です。
8.4 Q. 850万円を超えると、すぐに基礎控除が縮みますか?
A. 所得税の基礎控除は、給与所得が655万円を超えると67万円から62万円に縮みます。年収850万円の給与所得はちょうど655万円のため、850万円をわずかに超えたところがこの壁にあたります。昇給や転職でこの年収帯を超える見込みがある方は、あらかじめ知っておくとよいでしょう。
参考資料
- 全国健康保険協会東京支部「保険料額表(令和8年度版)」
- 日本年金機構「厚生年金保険料額表」
- 厚生労働省「令和8年度雇用保険料率のご案内」
- 国税庁「源泉所得税の改正のあらまし」(令和8年4月)
- 国税庁「令和8年分退職所得の源泉徴収税額の速算表」
- 国税庁タックスアンサーNo.1410「給与所得控除」
- 国税庁タックスアンサーNo.1191「配偶者控除」
- 東京都主税局「個人住民税」
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