3. モデルケース②:63歳のBさんの場合|60代の働き方で変わる3つの給付

Bさんは63歳、60歳の定年後は再雇用制度で同じ会社に勤めていますが、契約更新のタイミングで「このまま働き続けるか」「転職するか」「そろそろリタイアするか」を考えているところと仮定します。

Bさんがどの道を選ぶかによって、対象になる雇用保険関連の給付金は変わってきます。

3.1 選択肢1:再雇用継続で賃金が下がった場合「高年齢雇用継続給付」

高年齢雇用継続給付は、60歳以降も働き続ける人の賃金低下を補うための給付金です。60歳時点と比べて賃金が一定割合以上下がった場合に支給されます。

高年齢雇用継続給付の支給条件

  • 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
  • 支給条件:賃金が60歳到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合

Bさんの場合、60歳到達時に月30万円だった賃金が、再雇用後は月22万円ほどに下がったとします。この場合、60歳到達時の75%未満という条件を満たすため、高年齢雇用継続給付の対象になります。

高年齢雇用継続給付の支給率

  • 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
    ※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は15%

支給率は賃金の低下幅に応じて段階的に決まる仕組みで、下がり方が大きいほど上限の10%に近づきます。Bさんのケースのように賃金が大きく下がった場合は、月2万円前後の上乗せになる可能性があります(10%の場合。正確な支給率は上記の早見表で確認できます)。

ただし、老齢年金を受給しながら厚生年金に加入して高年齢雇用継続給付を受け取る場合、在職による年金の支給停止に加え、最大で標準報酬月額の4%(※)に相当する金額が年金から支給停止となる点も押さえておく必要があります。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は6%

3.2 選択肢2:転職して早期に再就職した場合「再就職手当」

Bさんがいったん退職し、雇用保険(基本手当)を受給しながら転職活動をした結果、早期に再就職が決まったとします。この場合に関係してくるのが「再就職手当」です。

再就職手当の支給条件

  • 対象者:雇用保険受給資格者で基本手当の受給資格がある人
  • 支給要件:基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給

再就職手当の給付率は?

  • 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の60%」
  • 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の70%」

仮にBさんの基本手当日額が6000円、所定給付日数150日のうち100日を残して再就職できたとすると、100日は所定給付日数の3分の2以上にあたるため給付率は70%になり、再就職手当は「6000円×100日×70%=42万円」という試算になります(あくまで仮定の金額です)。

なお、再就職手当を受け取った後、再就職先で6カ月以上働き、かつ再就職後6カ月間の賃金が離職前より低い場合は「就業促進定着手当」の対象となることもあります。

3.3 選択肢3:65歳で完全にリタイアした場合「高年齢求職者給付金」

Bさんが65歳の誕生日を機に完全にリタイアし、その後に失業状態となった場合は「高年齢求職者給付金」の対象になります。

高年齢求職者給付金の支給対象と条件

  • 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
  • 支給要件:離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上あり、就職の意思と能力を持って求職活動をしているにもかかわらず就職できない状態にあること

高年齢求職者給付金の給付額

  • 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
  • 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額

Bさんは60歳以降も継続して雇用保険に加入してきたため、被保険者期間1年以上の要件を満たします。仮に基本手当日額が6000円だとすると、50日分=30万円が一時金としてまとめて支給される計算です。65歳未満が受け取る失業手当は4週間ごとに分割して給付されますが、高年齢求職者給付金は一括支給される点が大きな違いです。

筒井 亮鳳

同じBさんでも、再雇用継続・転職・リタイアのどれを選ぶかで対象になる給付が全く変わります。「もらえる金額」だけで働き方を決める必要はありませんが、選択肢ごとにどの制度が使えるかを知っておくと、いざというときの判断材料になります。

4. 監修者に聞く:モデルケースと自分の状況を照らし合わせるときの注意点

中本 智恵

AさんとBさんのケースはあくまで一例であり、実際の金額は加入期間や賃金水準、生年月日によって一人ひとり異なります。まずはご自身の状況がどちらのケースに近いかを整理したうえで、年金事務所やハローワークで正確な見込み額を確認することをおすすめします。

あわせて押さえておきたいのが、2026年4月から在職老齢年金の基準額が51万円から65万円に引き上げられる点です。厚生労働省の試算では、この見直しにより新たに約20万人が年金を全額受給できるようになる見込みとされています。銀行の窓口でも、「年金が減らされるのが嫌だから働き控えようかな」と悩む方に多くお会いしてきましたが、今回の引き上げで年金を減らされずに働ける範囲が広がるため、Bさんのように働き方を迷っている方には選択肢を見直す良いきっかけになると思います。

今回ご紹介した制度はいずれも申請主義です。「自分は対象外だろう」と思い込まず、公的な給付金だけに頼らない資産形成もあわせて考えながら、まずは窓口で自分のケースを確認してみてください。

5. まとめ

今回は、65歳で年金を受け取り始めるAさんと、60代の働き方に迷うBさんという2つのモデルケースをもとに、申請しないと受け取れない公的給付金について解説しました。

年金に上乗せされる「加給年金」「老齢年金生活者支援給付金」、そして働き方の選択によって変わる「高年齢雇用継続給付」「再就職手当」「高年齢求職者給付金」は、どれも該当するかどうかが人によって大きく異なります。

これらの制度に共通しているのは、待っているだけでは支給されず、ご自身で要件を確認し、手続きを行う必要があるという点です。

まずは自分がAさん・Bさんのどちらのケースに近いかを整理し、該当しそうな制度がないか年金事務所やハローワークで確認してみてはいかがでしょうか。

参考資料

筒井 亮鳳