日立製作所(6501)の株価が上場来高値圏で推移しています。7月24日の終値は4,850円、時価総額は約22兆円と、いまや日本を代表する時価総額上位の一角です。2026年3月期の当期純利益は8,023億円と過去最高を更新し、株価もこの数年で大きく水準を切り上げました。かつて「総合電機の巨艦」として、幅広すぎる事業ゆえに市場から評価されにくかった日立は、なぜここまで生まれ変わったのか。決算の見方を押さえたうえで、業績と株価の関係を読み解きます。
1. 最高益、今期も増収増益の計画
2026年3月期は、売上収益が前期比8.2%増の10兆5,867億円、本業の稼ぐ力を示す調整後営業利益が同23.4%増の1兆1,992億円、当期純利益が同30.3%増の8,023億円でした。増収に加え、利益が売上を上回るペースで伸びており、稼ぐ効率が改善していることがうかがえます。年間配当は50円としています。
会社が示す2027年3月期の計画は、売上収益11兆1,000億円(前期比4.8%増)、調整後営業利益1兆3,150億円(同9.6%増)、当期純利益8,500億円(同5.9%増)と、増収増益の継続を見込みます。なお、この計画の初戦となる2027年3月期第1四半期の決算は、2026年7月29日に発表される予定です。改革後の成長が続いているかを確認する、直近の注目イベントになります。
2. 日立の決算は「調整後営業利益」と3つの柱で見る
日立の決算を読むうえで、いくつか押さえておきたい点があります。まず、利益の指標です。日立は国際会計基準(IFRS)を採用しており、本業の実力を見るときは「調整後営業利益」に注目します。表面の最終利益には子会社や資産の売却益なども混じるため、継続的な稼ぐ力を測るにはこの指標が便利です。
もう一つが事業の中身です。いまの日立は、大きく3つの柱で稼いでいます。ソフトウエアやITで社会インフラの効率化を担うデジタル領域(同社は「Lumada(ルマーダ)」というブランドで展開)、送配電などを手がけるエネルギー領域、そして鉄道などのモビリティ領域です。かつてのように家電から素材まで何でも手がける「幕の内弁当」ではなく、社会インフラとデジタルに軸足を絞ったことが、いまの日立の姿を理解する出発点になります。
3. PER26倍・PBR3.3倍が映す"優等生"評価
では、株価はこの変身をどう評価しているのでしょうか。7月24日の終値4,850円をもとにすると、会社予想の1株利益(予想EPS約189円)に対する予想PER(株価収益率)は約26倍、1株純資産(BPS)約1,460円に対するPBR(株価純資産倍率)は約3.3倍です。日本株の平均がPER15倍前後、PBR1倍台であることを考えると、明らかに高い評価を受けています。
その裏づけが、資本効率の高さです。2026年3月期の株主資本利益率(ROE)は約13%。同じ電機大手でも、ソニー(約16%)に次ぐ高水準で、三菱電機(約10%)やパナソニック(約4%)を上回ります。市場は、日立が不採算・低効率の事業を切り離し、稼ぐ力の高い事業に集中した「選択と集中」の成果を、すでに株価に織り込んでいるといえます。PBR3倍超という水準は、もはや割安株ではなく、成功した優等生に対する評価です。
4. 高い評価の"次"を見極める
日立の追い風になっているのが、世界的な電力需要の高まりです。AI(人工知能)の普及でデータセンターの電力消費が急増し、送配電を担うエネルギー事業への期待が膨らんでいます。デジタルと社会インフラを組み合わせ、機器の販売後も保守やサービスで継続的に稼ぐ「リカーリング(継続)収益」の比重が高まっていることも、収益の安定につながっています。
一方で、株価がすでに高い評価を織り込んでいる点には注意が必要です。PER26倍という水準は、この先も成長が続くという期待の裏返しであり、成長が少しでも鈍れば、利益が伸びていても株価が調整するということが起こり得ます。割安だから買う、という局面はとうに過ぎており、これからは「高い期待に業績が応え続けられるか」で株価が動きます。派手な変身の物語そのものより、それが四半期ごとの数字で裏づけられていくかを見極める姿勢が大切です。
5. イズミダの視点
私はかつて『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』という本を書きました。世界を席巻した日本の電機メーカーの多くが、総合電機という重すぎる看板を抱えたまま競争力を落としていくなかで、日立は例外的に自らを作り替えることに成功した会社です。上場子会社だった日立金属や日立化成、日立建機などを次々に手放し、一方で米国のデジタル企業や海外の送配電事業を取り込む。この「捨てる」と「買う」を同時に、しかも大胆にやり切ったことが、いまの高い評価の源泉です。
先日取り上げたパナソニックが、まさにいまこの「日立の通った道」を歩もうとしています。両社を並べて見ると、市場がいかに「選択と集中をやり切れるか」を評価しているかがよく分かります。日立はその答え合わせを終え、優等生として高いPBRを手にした。ただ、私が以前から言い続けているのは、株式市場は「良い会社かどうか」より「その良さが続くと信じられるか」で動くということです。日立への評価はすでに高く、次は"変身の先"の成長物語を示せるかが問われます。AIによる電力需要という大きな追い風を、どこまで自社の継続的な稼ぎに変えられるか——そこが、これからの日立株の一番の注目ポイントです。