60代になっても仕事を続け、年金を受け取りながら働いている方は少なくありません。ただ、収入が増えるほど年金が減らされるのではと心配し、働き方を控えている方もいるのではないでしょうか。
総務省の統計では、65歳以上の就業者は943万人にのぼり、就業者全体の13.8%を占め、いずれも過去最高を更新しています(総務省統計局「統計トピックスNo.149」2026年9月20日公表)。
ただし、在職老齢年金の対象になるのは、この943万人すべてではありません。本記事では、実際に年金がカットされる可能性があるのはどのような人なのか、2026年4月から適用されている新しい基準額とあわせて整理します。
1. 在職老齢年金とは?働くシニア943万人のうち対象になるのは誰か
在職老齢年金とは、厚生年金に加入しながら働き、老齢厚生年金を受け取っている人を対象に、賃金と年金の合計額に応じて年金の一部または全部を支給停止する仕組みです。
対象になるのは、厚生年金の被保険者として働きながら老齢厚生年金を受け取っている人に限られます。老齢基礎年金は支給停止の対象になりません(日本年金機構「在職老齢年金制度が改正されました」)。
厚生労働省の統計によれば、65歳以上で厚生年金を受け取りながら働いている人はおよそ344万人とされています。総務省統計局の調査による65歳以上の就業者943万人と比べると、実際に在職老齢年金の対象になりうる人は、就業者全体の一部にとどまっているのが実情です。
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出所:総務省統計局「統計トピックスNo.149」、厚生労働省の統計をもとにLIMO編集部作成
- 65歳以上人口:3624万人(総人口の29.6%、過去最高)
- 65歳以上の就業者:943万人(就業者全体の13.8%、過去最高)
- 65歳以上で厚生年金を受け取りながら働く人:およそ344万人
2. 「65万円の壁」、実際にカットされる月収はいくらから?
在職老齢年金では、老齢厚生年金の基本月額と、賃金にあたる総報酬月額相当額の合計が一定額を超えると、超えた分の半額が支給停止になります。この基準額が、2026年4月から月51万円から月65万円に引き上げられました(日本年金機構「在職老齢年金制度が改正されました」)。
基準額以下であれば年金は全額支給され、超えた場合も減額されるのは超過分の半分にとどまります。
2.1 具体例でチェック!毎月いくら変わるの?
たとえば、老齢厚生年金を月10万円受け取りながら、賃金(総報酬月額相当額)58万円で働いている場合、年金と賃金の合計は68万円です。
基準額65万円を3万円超えるため、超えた分の半額にあたる1万5000円が支給停止となり、実際に受け取れる年金は月8万5000円になります(日本年金機構「在職老齢年金の支給停止の仕組み」)。
基準額が51万円だった2025年度までは、同じ働き方でもより多くの年金が支給停止されていました。基準額の引き上げによって、働きながら受け取れる年金が増える方も出てきました。
3. 対象になるかどうかは、正社員か非正規かでは決まらない?
在職老齢年金という言葉から、正社員としてフルタイムで働く人だけの話だと思われがちです。
しかし、対象になるかどうかを分けるのは雇用形態ではなく、厚生年金に加入しているかどうかという点にあります。
近年は社会保険の適用拡大が段階的に進められており、2024年10月からは従業員数51人以上の企業で働く短時間労働者も、一定の要件を満たせば厚生年金の加入対象になりました(政府広報オンライン「社会保険の適用が拡大!従業員数51人以上の企業は要チェック」)。
非正規雇用として働いている場合でも、厚生年金に加入していれば在職老齢年金の仕組みは同じように適用されます。
逆に、厚生年金の加入要件を満たさない働き方であれば、正社員でなくても在職老齢年金の対象にはなりません。自分の働き方が当てはまるかどうかは、勤務先の社会保険の加入状況を確認するのが確実です。
在職老齢年金というと、たくさん稼ぐと年金が減る、損な制度という印象を持たれがちですが、実際には誤解されている部分が少なくありません。
今回ご紹介したとおり、基準額を超えなければ年金は全額支給されますし、超えた場合も減額されるのは超過分の半分にとどまります。さらに、対象になるかどうかを決めるのは正社員か非正規かではなく、厚生年金に加入して働いているかどうかです。
今回の基準額引き上げも、より長く働きたいと考えるシニア層の声に応える形で行われました。制度は今後も見直される可能性があるため、最新の情報を定期的に確認しておく姿勢が欠かせません。
自分が対象になるのかどうかを正確に知りたい場合は、勤務先の給与明細や年金見込額を踏まえて、日本年金機構や年金事務所に確認することをおすすめします。思い込みだけで働き方を制限してしまうのは、もったいないかもしれません。
