3. なぜ資金は移動するのか?金利とサイクルの関係

では、なぜ今になってこのような大規模な資金移動が起きているのでしょうか。その最大の要因は「金利」です。

泉田氏は、投資家の心理とマクロ経済の関係について次のように語ります。

「これは株価がこの後もガンガン上がるぞ、この産業が引っ張っていくぞと思うと、当然だからAIみたいな関連銘柄を買うんだけど、いやこの後ちょっと景気怪しいなとか、(中略)利上げしていくんじゃないかみたいな話になると金利環境変わるので、相場で向かないセクターっていうのが出てくるんですよ」

現在、米国の連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ観測が市場で意識されています。一般的に、金利が上昇する局面では、将来の利益に対する期待で買われている高PER(株価収益率)のグロース株は売られやすくなります。一方で、金利上昇が直接的な収益増につながりやすい金融セクターなどは買われやすくなります。

「突き詰めるとやっぱり金利なんだよ。(中略)利上げするんだったらやっぱりハイテクは買えないし、買うんだったらディフェンシブだしとかっていう発想になる。金融だしってなるから、もう金利の動向でセクターローテーションが今動き出してるっていうのを見る方が自然かな」

このように、市場の資金は金利というマクロ経済のスイッチによって、高PERから低PERへと流れていくのです。

☆☆☆金利がセクターローテーションを動かす☆☆☆3/4

☆☆☆金利がセクターローテーションを動かす☆☆☆

☆☆☆出所:泉田良輔氏の解説をもとにイズミダイズム作成☆☆☆

ここで投資家が抱く疑問は、「AIの普及という社会的なメガトレンドは終わってしまったのか?」ということでしょう。これに対して泉田氏は、非常に重要な視点を提示します。

「トレンドとサイクルって両立してるんですよ。なのでAIのトレンド、ITの設備投資のトレンドは続いてるかもしれないけど、やっぱりサイクルって絶対あるので、そのサイクルのところで下げてるだけかもしれない」

AIが社会に実装されていくという長期的な「トレンド」は本物であっても、株式市場には必ず短期・中期的な「サイクル(波)」が存在します。現在のハイテク株の調整が、単なるサイクルの一部としての健全な調整なのか、それともバブル崩壊の始まりなのかは、現時点では誰にも判断できません。だからこそ、機関投資家はサイクルを意識して資金を動かしているのです。

4. 景気の波に乗る「レイトシクリカル」という視点

セクターローテーションを理解する上で、もう一つ知っておきたい概念が「レイトシクリカル」です。

先ほどのデータで、資本財セクターは前半(約7,400億ドル)も後半(約1,400億ドル)も一貫して堅調な動きを見せていました。資本財とは、機械や重工、重電など、他の企業がビジネスを行うための設備やインフラを提供する企業群を指します。

泉田氏によれば、これらの企業は景気サイクルの終盤で恩恵を受けやすい特徴を持っています。

景気が良くなり始めた初期段階では、企業はすぐに実行できるデジタル広告やソフトウェア(SaaS)の導入などに資金を投じます。そのため、ハイテク株が真っ先に上昇します。しかし、発電所の建設やインフラ整備といった大規模な設備投資は、景気拡大が確実になり、企業に十分な資金が蓄積されてからようやく意思決定されます。

このように、景気が良くなってから企業の利益に反映されるまでに数年のタイムラグがあるセクターを「レイトシクリカル(遅行性の景気敏感株)」と呼びます。

日本市場においても、重工業などの株価が上昇している背景には、防衛という大きなテーマに加えて、このレイトシクリカルとしての資金流入という側面が重なっていると分析できます。

5. 投資家が持つべき「ズームアウト」の視点

ここまで見てきたように、株式市場は単なる個別企業の業績だけで動いているわけではありません。

投資初心者はどうしても、「この企業は将来性があるか」「画期的なサービスを出したか」といった個別銘柄の分析に集中しがちです。しかし、泉田氏は次のようにアドバイスします。

「基本的に個別の企業見るときはズームインだよね、この会社いいなとかどうだなみたいな話。ただ、その会社が属してるセクターがどうかとか、そのセクターが経済全体の中でどうかっていうのは、やっぱりズームアウトして俯瞰して見ないと見えないんで、この虫眼鏡で見て今度引いてくみたいな、そんな動きを自分で意識してできるようになるともっと面白くなる」

プロの機関投資家は、投資を決定する際に「アセットアロケーション」「セクターアロケーション」「銘柄選択」という3つの階層(トップダウンアプローチ)を意識しています。

☆☆☆機関投資家が投資を決める3つの階層(トップダウンアプローチ)☆☆☆4/4

☆☆☆機関投資家が投資を決める3つの階層(トップダウンアプローチ)☆☆☆

☆☆☆出所:泉田良輔氏の解説をもとにイズミダイズム作成☆☆☆

最も重要なのは、株式や債券といった資産クラスの配分を決める「アセットアロケーション」です。例えば、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式を基本構成として分散投資を行い、市場環境に応じて許容幅の中で比率を調整することで、安定的な運用を目指しています。

その次に来るのが、今回解説した「セクターアロケーション」です。市場全体のベンチマーク(基準となる指数)に対して、金利や景気動向を読み解き、強気なセクターの比率を増やす(オーバーウェイト)、弱気なセクターの比率を減らす(アンダーウェイト)といった調整を行います。

個別銘柄の選択は、リスク管理の観点から言えば一番最後に行われる作業なのです。

もしあなたが保有している個別株の動きが「おかしい」「業績は良いはずなのに上がらない」と感じた時は、一度ズームアウトして、セクター全体の資金の流れを確認してみてください。そこには、企業の良し悪しとは全く別の、金利やマクロ経済が引き起こすダイナミックな力学が働いているはずです。市場全体を俯瞰する視点を持つことで、あなたの投資戦略はより深く、強固なものになるでしょう。

なお、本記事は市場動向の解説を目的としたものであり、特定の銘柄やセクターの売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。

参考資料

  • イズミダイズム独自の市場データ分析(S&P500構成銘柄の時価総額変化/yfinance・GICS分類、2026年7月6日時点)
  • GPIF「第5期中期目標期間における基本ポートフォリオについて」
  • Apollo Global Management(Torsten Slok)「Strip out AI and energy, and the S&P 500 is down」
  • YouTubeチャンネル「イズミダイズム」

※データは2026年7月6日時点。