和田 直子
大切な資産の運用。円高・円安、株高・株安など、日々の値動きが気になるのは自然なことです。

短期売買をしている投資家にとっては見逃せないものですが、「長期で資産運用をしている人」にとって、日々の値動きは気持ちの面において少しノイズになる可能性があります。

2026年7月24日13時現在、外国為替市場では1ドル=163円後半で推移しています。

午前中には一時163.90円台をつけ、いよいよ1ドル=164円の大台が見える歴史的な円安水準となっています。

「39年ぶりの円安水準」と言われたばかりの局面からさらに円安が進む中、SNSやメディアでは「そもそもこれは本当に円安なのか、新たな常態(ニューノーマル)なのか」「ここからさらに円安が加速するのではないか」といった様々な声が飛び交っています。

こうした激しい動きを目の当たりにすると、国が資産形成を後押しするために創設した「NISA(少額投資非課税制度)」などを利用して、すでに株や投資信託で資産運用を行っている人は「このまま投資を続けていて大丈夫だろうか」と不安になるかもしれません。

また、これから資産運用を始めようと考えていた人は、「こんな高い時期にスタートして大損しないだろうか」と二の足を踏んでしまうのも無理はありません。

激動する為替や市場のなかで、私たちは投資とどのように向き合えばよいのでしょうか。中立的な視点から、そのヒントを探っていきます。

1. 3つのポイントの見出し

  •  相場に一喜一憂しない:予測困難な円安に惑わされず、長期の視点を保つ。
  •  局面で手法の強みが変わる:上昇なら複利の「一括」、下落ならリスク分散の「積立」。
  •  リスク許容度で判断する:正解はないため、下落時の心理的負担を基準に選ぶ。

2. プロでも的中は困難。相場に一喜一憂しない重要性

まず大前提として押さえておきたいのは、「将来の相場を完璧に予測することは、運用のプロであっても極めて難しい」という事実です。

これからドル円レートがいくらになるのか、あるいは日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)がどこまで上がるのか(あるいは下がるのか)を正確に当てることは誰にもできません。

為替や株価は、各国の金利政策、経済指標、地政学的リスクなど、無数の要因が複雑に絡み合って動いているからです。

そのため、日々のニュースや値動きに過度に反応し、一喜一憂してしまうと、冷静な判断ができなくなる恐れがあります。

資産形成において最も大切なのは、目先の価格変動に振り回されるのではなく、「自分が取れるリスクの範囲内で、長期的な視点を持つこと」と言えます。

では、実際に投資をスタートした場合、市場の動きによって資産はどう変化するのでしょうか。

長期投資の代表的な2つのアプローチである「一括投資」と「積立投資」の特性を、具体的なシミュレーションをもとに比較してみましょう。

3. 【一括 vs 積立】シミュレーション「1000万円」×「15年」運用

ここでは、手元にある1000万円を15年間(180ヶ月)運用すると仮定します。

  • 一括投資:スタート時に1000万円をすべて投資する
  • 積立投資:1000万円を180ヶ月に分割し、毎月約5万6000円ずつ投資する

この条件で、「右肩上がりの相場」と「右肩下がりの相場」という2つの極端なシナリオで結果がどう変わるかを見ていきます。

15年間×1000万円「右肩上がり」「右肩下がり」だった場合のシミュレーション1/2

15年間×1000万円「右肩上がり」「右肩下がり」だった場合のシミュレーション

試算結果をもとにLIMO編集部作成

3.1 シナリオA:市場が順調に成長を続けた「右肩上がり」の場合

もし投資を開始したあと、世界経済や市場が順調に成長し、年率5%で「右肩上がり」に推移した場合、投資効率の差がはっきりと現れます。

  • 一括投資の最終資産額:およそ2079万円(運用収益:+1079万円)
  • 積立投資の最終資産額:およそ1470万円(運用収益:+470万円)

このケースでは、スタート時点で大きな資金を市場に投じた「一括投資」が、積立投資を600万円以上引き離す結果となりました。

これは、まとまった資金が長期間にわたって市場に置かれることで、利益がさらに利益を生む「複利の力」を最大限に活かせたためです。

もし今後も市場が上昇し続けると確信できるのであれば、一括投資は非常に効率の良い手法となります。

3.2 シナリオB:不況が長引いた「右肩下がり」の場合

一方で、「もし投資を始めてからずっと下落し続けたら…」という不安が現実になったケースを考えてみましょう。

15年間マイナス成長(年率▲5%)が続いた最悪のシナリオでは、結果が逆転します。

  • 一括投資の最終資産額:およそ463万円(運用収益:▲537万円)
  • 積立投資の最終資産額:およそ696万円(運用収益:▲304万円)

この場合、積立投資の方が損失を約230万円少なく抑えることができています。

なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。大きな要因は「ドル・コスト平均法」の効果です。

ドルコスト平均法2/2

ドルコスト平均法

出所:金融庁「NISA早わかりガイドブック」

積立投資は毎月一定額を購入するため、価格が高いときには少なく、価格が安い(下落している)ときには多くの口数を自動的に買い付けることになります。

さらに、15年の後半に投資した資金は、下落相場にさらされる期間が短くなるため、最初に全額を投じて全期間下落の影響を受けた一括投資に比べて、最終的なダメージを軽減することができたのです。

和田 直子
積立投資=NISAのつみたて投資枠でしかできない、というわけではありません。

成長投資枠も活用できますし、課税口座(一般口座/特定口座)でも可能です。

4. 「一括」と「積立」それぞれの特徴と心理的側面

このシミュレーションから分かる通り、一括投資と積立投資のどちらかが絶対に優れているというわけではありません。

それぞれに一長一短があり、一括投資を全否定する必要もなければ、積立投資を万能視する必要もありません。

しかし、実際の運用において無視できないのが「投資中の心理的な負担(気分の違い)」です。

4.1 一括投資の心理的側面

一括投資は、上昇相場に乗ったときの爆発力がある反面、購入した直後から市場が下落し始めると、元本全体が目減りしていく様子をダイレクトに目撃することになります。

「あのとき買わなければよかった」という後悔や不安に襲われやすく、長期保有するつもりが、精神的に耐え切れなくなって途中で売却(狼狽売り)してしまうリスクがあります。

ある程度の値動きに動じない経験や、当面使う予定のない余裕資金であることが成功の前提となります。

4.2 積立投資の心理的側面

一方で積立投資は、下落局面において「今は安くたくさん仕込めている時期だ」という前向きな捉え方がしやすくなります。

価格が下がることが必ずしも悪ではなく、将来の反発に向けた「仕込み期間」になるため、精神的な平穏を保ちやすいのが大きなメリットです。

特に投資初心者や、日々の値動きが気になって仕事や生活に集中できなくなるような人にとっては、無理なく続けやすい仕組みと言えます。

5. 正解は後からしか分からないからこそ…

現在の歴史的な円安水準や今後の株価の行方を前に、「今動くべきか、待つべきか」の正解は、10年、15年という長い月日が流れた後でしか分かりません。

大切なのは、相場が良いか悪いかではなく、「自分がどのようなリスクなら受け入れられるか」という一点に尽きます。

  • 市場の一時的な下落リスクを受け入れてでも、効率よく資金を増やせる可能性に賭けたいのか(一括的なアプローチ)
  • まずは少額からスタートし、下落のリスクを抑えながら精神的な安心感を優先したいのか(積立的なアプローチ)
  • あるいは、今の不透明な状況下ではあえて投資を見送り、現金のまま保有しておくべきなのか

投資をするもしないも、どの手法を選ぶかも、すべては個人の自由であり、自己責任となります。

ブームや周囲の声、日々の為替レートの上下に惑わされることなく、まずは自身の資産状況やリスク許容度を冷静に見つめ直すことから始めてみてはいかがでしょうか。

【免責事項】

  • 投資にはリスクが伴います。
  • 本記事は、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を意図するものではありません。

参考資料

和田 直子