消費税が10%に引き上げられるまで1カ月を切りました。消費者のみなさんからすれば、増税は家計への負担になるもので、あまり喜ばしいものではないでしょう。また、今回から実施される軽減税率制度についても、「いまいちよくわからないんだよね」という方も多いのではないでしょうか。

一方で、消費税増税の影響を特に大きく受けてしまう業種があります。それは「小売業」です。このあと記事中でも触れますが、とある調査にて、「消費税増税はマイナスの影響がある」と回答した小売業者は他の業種よりも突出して多くていたとのことです。この記事では、小売業をとりまく困難について考えていきましょう。

小売の約8割が「マイナスの影響」と回答

帝国データバンクが2019年7月に発表した「消費税率引き上げに対する企業の意識調査(2019年)」の「消費税率引き上げにより『マイナスの影響がある』割合」によると、さまざまな業種の中でも、特に小売業が「消費税増税に苦しむのではないか」という危機感を抱いているということがうかがえます。

というのも、他の業種で「マイナスの影響がある」という回答が50%前後に収まる中、小売業は78.4パーセントと、群を抜いて高い数値になっているのです。

また、同じ調査では、「企業規模が50人以下の会社は増税の影響を受けやすい」という結果も出ています。小規模の小売業者は、極めて大きな影響を受けてしまうおそれが強いといえるのではないでしょうか。

では、なぜ小売業にはそこまで深刻な「マイナスの影響」があるのでしょうか? それは小売業の「立ち位置」にも一因があると考えられます。

小売業者は、卸売業者から商品を仕入れて、それを消費者に販売します。そして、卸売業者から購入する際にも当然、消費税は発生します。消費者の購入が増税で落ち込むかもしれない一方で、仕入れたものには売れようが売れまいがしっかり増税分が上乗せされてくることになります。そうした立ち位置も、小売業を苦しめてしまうおそれがあるのです。

もちろん、市場の動向を完璧に判断できれば、その負担を抑えることはできると考えられますが、特に増税直後に、個別の商品についてそうした判断ができるのかという問題もあります。

「軽減税率」で客とトラブル⁉

軽減税率はシステム面でも小売業者、特に飲食業者に影響を与えます。それは、「店内飲食か、持ち帰りか」の問題です。ご存じの方も多いと思いますが、店内で飲食する場合には10%が課税されるのに対し、持ち帰りでは軽減税率が適用され8%の負担で済むというものです。

「おい、持ち帰りだといったのに、店内料金になっているじゃないか!」と、精算時にお客さんに言われトラブルが起こる場合もありますし、逆に「持ち帰り」と言っていたのにもかかわらず堂々と店内で飲食をするお客さんもいるかもしれません。

持ち帰り用のカップなどは、もちろん増税の影響を受けるでしょうから、店側としては、できるだけ負担を減らすために、店内で飲食してほしいところでしょう。

店内飲食か持ち帰りかの境界があいまいな場合も多い形態の店舗、たとえばスターバックスは、「軽減税率導入後も、持ち帰りか店内飲食かの確認は、精算時のみに行う。持ち帰りのお客様が、客席を利用していないかを店舗で確認することは想定していない」という、軽減税率への対応を発表しています。

また、ファーストフード大手のマクドナルド、ケンタッキー・フライド・チキン、すき家、松屋などは、持ち帰りでも店内飲食でも同一の価格(税込み同一価格)とすることを発表しています。これらの対応はトラブルを防止するための考えともいえますが、「持ち帰りか、店内飲食か」の問題は、消費者の良心を問われる問題にもなりそうです。

「最低賃金引き上げ」も小売業者を苦しめる

消費税増税だけでも小売業者が苦しむのにもかかわらず、ほかにも小売業者をとても苦しめてしまう要因があります。それは、「最低賃金の引き上げ」です。韓国では、近年、最低賃金を急激に引き上げました。その結果、企業の負担が非常に大きくなり、そうした企業が人件費を削減することで、逆に失業率が上昇するに至ってしまいました。

小売業を経営している人たちからは、

「最低賃金が上がって苦しくないのは大企業だけでしょう」
「商売にならない」

といった悲痛な声も上がっています。パートやアルバイトなど時給で働く人にとって、最低賃金引き上げは嬉しい知らせかもしれませんが、慎重に見なければならないニュースでもあります。

「インボイス制度」に関連した批判も⁉

一方で、小規模な企業だけが受けられる恩恵といわれ、一部、批判が出ているものもありますので、そこにも触れておきましょう。その代表的なものは「インボイス制度」に関連した点です。

消費税は、払う人(消費者)と納税する人(事業者)が異なる税方式ですが、事業者が納める消費税額は、商品を売った際にお客さんから預かった消費税から、仕入の際に支払った消費税を引いた金額となります。日本の消費税と似たヨーロッパなどの付加価値税では、取引内容を正確に記したインボイス(税額票)の作成・保存を義務づける方式が採用されていますが、日本では、事業者の手間は省けるものの、虚偽の記載や記入漏れのおそれがある方式が採用されてきました。

現在、インボイス制度は導入されていません。その結果、基準期間における売上高が1000万円以下の事業者は、原則として消費税の納付の必要がない「免税事業者」となり、消費税を納める必要がありません。なお、消費税増税の4年後の2023年10月より、インボイス制度が導入され、該当する事業者も消費税を納める義務を負うことになります。

こうした現状に対して、「消費者が払ったはずの消費税を納めずにもらうのはズルいじゃないか」と思う方もいるかもしれません。しかし、そもそもそうした事業者の売上はさほど大きくない中で、現状でも「人件費の高騰」「お客さんが減った」といった苦しい状態にある企業が多い上、さらに消費税が増税されると、まさに「泣きっ面に蜂」ともいえる状態ではないか、という意見は強くあります。

小売業に寄せられる同情の声

こうした苦しい状況に置かれている小売業に対して、多くの同情の声も寄せられています。シャッター街となってしまった商店街を見ながら、

「このままでは商店街のすべての店がつぶれてしまう」

という声を上げている人もいます。

一方で、軽減税率の話題でも触れたように、消費者が自分の利益だけを求めると、さらに小売業が苦しむ結果となってしまいます。もちろん消費者も増税で生活に影響があるのですが、身近にあって利用することも多い小売業とは「持ちつ持たれつ」の関係で、うまく手を取り合っていきたいものです。

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