定年後も自営業でバリバリ働き続ける方、週に数日アルバイトをする方、全く新しいビジネスにチャレンジする方…本当にさまざまなライフスタイルがありました。
人生100年時代、働く目的やペースは人それぞれだからこそ、「働くシニアのための支援制度」を正しく知っておくことが、家計防衛において大切になってきます。
内閣府「高齢者白書」のデータを見ると、65歳以上の就業率は年々上昇しており、65〜69歳では54.5%、70〜74歳で36.2%と、60代後半のシニアの半数以上が何らかの形で働き続けています。
「定年後は年金だけで暮らす」という一律のイメージは、すでに過去のものになりつつあります。
働くシニア世代の方が知っておきたいのが公的な給付金です。
この記事では、働くシニアが活用できる雇用保険の3つの給付金と、年金と給付金の兼ね合いで知っておきたい注意点をお伝えします。
1. 3つのポイントの見出し
-
高年齢雇用継続給付・再就職手当・高年齢求職者給付金の3つは、要件を満たしていても申請しなければ受け取れない -
高年齢雇用継続給付を受け取る期間は、老齢厚生年金の一部が支給停止になる「併給調整」があるため、トータルの手取りで損得を確認することが大切 -
2025年成立の年金制度改正で在職老齢年金の調整額が月65万円に緩和され、「働くと年金が減る」状況が改善されつつある
2. 働くシニアが活用できる給付金3選
60代以降も就労を続けるシニアを支援する雇用保険関連の制度のうち、特に影響力の大きい3つを確認しておきましょう。
2.1 高年齢雇用継続給付:同じ職場で働き続ける場合の賃金低下をカバー
定年後に同じ企業で再雇用された場合、役職変更や勤務形態の変化によって給与が現役時代より大幅に下がるケースは少なくありません。この賃金の低下分を国が一部補填してくれる制度が「高年齢雇用継続給付」です。
- 対象者:雇用保険の被保険者期間が通算5年以上ある、60歳以上65歳未満の労働者
- 支給条件:60歳時点と比較して賃金が75%未満に低下した状態で働き続けていること
- 支給額:最高で賃金額の10%相当額(※2025年3月31日以前に要件を満たした方は15%)
ひとつ気をつけておきたいのが、この給付金を受け取っている間は老齢厚生年金の一部(最大で標準報酬月額の4%分)が支給停止になる「併給調整」のルールがある点です。
「給付金をもらったから得をした」と思っていても、年金側が減らされていてトータルでは思ったほど増えていないケースもあります。
ハローワークや年金事務所で試算をしてもらう際は、給付金と年金を合わせた世帯の手取り額で損得を比較してみてください。
2.2 再就職手当:早期の再就職を金銭的にバックアップ
定年退職後に失業保険(基本手当)を受給しながら次の仕事を探す場合、早く再就職が決まるほど一時金が多く受け取れる制度が「再就職手当」です。
- 対象者:雇用保険の受給資格者で、基本手当の受給手続きを行った人
- 支給条件:基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上残っている状態で、安定した職業に就いたこと
- 支給額:残日数に応じて基本手当の残り総額の60%または70%に相当する額が一括支給
「失業保険を限界まで全額もらいきってから次を探した方が得では?」と聞かれることがよくありましたが、それは誤解です。
失業保険をゆっくり受け取るよりも、早期に再就職して再就職手当を一括で受け取り、新しい職場からの給与を早めに得る方が、収入面でもキャリアのブランクを短くする意味でも有利になります。
さらに、再就職先で6カ月以上雇用され、かつその間の賃金が前職より低い場合は、「就業促進定着手当」も追加で申請できます。
2.3 高年齢求職者給付金:65歳以降の失業に対して一時金で支給
65歳以降に退職・失業した場合、通常の失業保険に代わり「高年齢求職者給付金」が支給されます。
通常の失業保険のように4週間ごとにハローワークへの認定が必要なく、手続きが完了すれば一括で受け取れる点が大きな特徴です。
- 対象者:65歳以上の雇用保険加入者(高年齢被保険者)で失業状態にある人
- 支給条件:離職日以前の1年間に雇用保険の被保険者期間が通算6カ月以上あること
- 支給額:被保険者期間1年未満は30日分、1年以上は50日分の基本手当相当額
65歳未満が受け取る通常の失業保険は受給中に老齢厚生年金が全額停止されますが、この高年齢求職者給付金にはその制限がありません。
老齢年金を受け取りながら、この給付金も受け取ることができます。65歳以降も雇用保険に加入して一定期間働いた方は、退職時にこの権利があることを覚えておいてください。
定年退職後のシニア世代を取り巻く労働環境は変化しています。
深刻な人口減少と高齢化に伴う「深刻な労働力不足」に対応するため、国も企業もシニア世代の活躍に大きな期待を寄せているからです。
実際に、国は高年齢者雇用安定法によって企業に対して「70歳までの就業機会の確保」を努力義務化しています。内閣府のデータによると、すでに70歳までの高年齢者就業確保措置を実施済みの企業は34.8%(8万2748社)に達しています。
ただし、大企業(従業員301人以上)に限るとその割合は29.5%とやや低めにとどまっており、企業の規模によってシニアの受け入れ態勢にはまだバラつきがあるのが現状です。
今後も労働力不足が加速すれば、この企業の割合や国の制度はさらに変わっていくでしょう。
社会の仕組みや労働環境の変化に合わせて、公的給付金のルールや支給率もめまぐるしく変わります。
「昔調べたから大丈夫」と過信せず、ご自身の退職やこれからの働き方を考える際には、常に最新の情報をチェックしておく習慣をつけましょう。
3. 年金制度改正で「在職老齢年金」の仕組みはどう変わったか
2025年6月に成立した年金制度改正法で、シニアの就労に大きく関わる「在職老齢年金」の仕組みが変わりました。
在職老齢年金とは、働きながら一定以上の給与を得ると年金がカットされる仕組みです。
「頑張って働いても年金が減るなら、少し抑えよう」という"働き損"の状態が長年問題視されてきました。
今回の改正では、支給停止の基準となる調整額が従来の「月51万円」から「月65万円」へと大幅に引き上げられています。
月収と厚生年金の合計が65万円を超えない限り、年金は全額受け取れるようになりました。
4. まとめ
今回ご紹介した制度は、自動的に受けとれるものではない点にご留意ください。
受給の要件を満たし、申請の手続きを完了させた場合に受けとることができます。
また、働く・働かないに関係なく、シニア世代を対象とした公的な給付金や手当などの支援制度は、他にもさまざま用意されています。
国や、お住まいの自治体が独自で行うものもありますので、ぜひチェックしてみてください。
参考資料
- 日本年金機構「初めて老齢年金を請求するとき」年金請求書(国民年金・厚生年金保険 老齢給付)様式第101号
- 厚生労働省「Q&A〜高年齢雇用継続給付〜」
- 厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
- 日本年金機構「年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整」
- 厚生労働省「再就職手当のご案内」
- 厚生労働省「離職されたみなさまへ<高年齢求職者給付金のご案内>」
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
- 内閣府「令和8年版高齢社会白書 第2節 高齢期の暮らしの動向」
和田 直子





