2026年も後半に入り、夏本番がやってきました。6月15日には新年度の改定額が反映された公的年金が支給されましたが、次回の支給日は8月14日(金)です。

今年度の年金額は国民年金が前年度比+1.9%、厚生年金が+2.0%と4年連続で増額されました。

しかし、総務省が公表した2025年の平均消費者物価指数は前年比+3.2%の上昇となっており、物価の上昇に年金の伸びが追いついていないのが現状です。

さらに帝国データバンクが公表した調査では、7月・9月と数千品目規模の値上げが予測されており、年金の額面は増えても実質的な価値は目減りしているといえるでしょう。

親や祖父母の世代とは異なり、現代は平均寿命が延び、老後が長くなっています。

それに伴い、2026年4月からは在職老齢年金の減額基準が月額65万円に引き上げられるなど、シニアが長く働き続ける社会へとライフスタイルや制度も大きく変化しています。

終わりの見えない物価高と長寿化が進む現代において、現役世代はこれまで以上に計画的な老後資金の準備が求められます。特に老後の大きな負担となり得る「介護費用」については、年金だけでまかなうことは難しく、事前の備えが不可欠です。

この記事では、老後の生活の基盤となる「公的年金」について、最新の統計データを基に男女差や働き方による受給額の違いを詳しく見ていくとともに、後半では「介護費用のリアルな実態と備え方」について解説します。

1. この記事の3つのポイント

  • 物価高と年金の実質目減り:年金は微増したものの物価上昇率に追いついておらず、実質的な購買力は低下している。
  •  働き方による受給額の大きな差:厚生年金の加入期間や就業スタイルにより、将来受け取る年金額に月10万円以上のひらきが生じる。
  •  生涯介護費用2300万円への備え:親の「子に頼りたくない」思いを実現するため、元気なうちからの親子での試算と話し合いが不可欠。
熊谷 良子

50歳代になり『ねんきん定期便』の見込み額を見たとき、『年金履歴はまさに自分の生き方・働き方の履歴そのものだな』と痛感しました。

物価高や介護の不安が尽きない今だからこそ、将来困らないためのリアルな数字と向き合い、早めの備えを進めていきましょう。

2. 【年金の基本】厚生年金と国民年金、制度の違いをわかりやすく解説

はじめに、日本の公的年金制度の基本的な仕組みについて確認します。この制度は「国民年金」と「厚生年金」の2階建て構造になっています。

2.1 国民年金と厚生年金、それぞれの特徴

  • 【国民年金】…日本国内に在住する20歳以上60歳未満のすべての人が原則として加入する年金です。保険料は所得にかかわらず一律です。
  • 【厚生年金】…会社員や公務員などが国民年金に上乗せして加入する年金です。保険料は給与や賞与といった報酬額に応じて決まります。

具体的には、自営業者や専業主婦(夫)は国民年金のみに加入し、会社員や公務員は国民年金と厚生年金の両方に加入する形になります。

3. 公的年金の平均受給額、男女でどれくらい違う?最新データで見る実態

それでは、厚生労働省年金局が公表した「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」を基に、国民年金と厚生年金の受給額における男女差を具体的に見ていきましょう。

3.1 国民年金の平均月額、男女差は約4000円

国民年金《男女別受給額分布・平均月額》2/6

国民年金《男女別受給額分布・平均月額》

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

【男性】

  • 平均受給月額…6万1595円

【女性】

  • 平均受給月額…5万7582円

国民年金は加入が義務付けられており、保険料も一律であるため、男女間の受給額の差は4013円と、厚生年金に比べて小さいことがわかります。

一方、厚生年金は現役時代の収入や加入期間によって受給額が大きく変わるため、次にその詳細を確認します。

3.2 厚生年金の平均月額、男女差は約5万8000円に拡大!その理由とは

厚生年金《男女別受給額分布・平均月額》3/6

厚生年金《男女別受給額分布・平均月額》

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

【男性】

  • 平均受給月額…16万9967円
  • 受給権者数…1067万9944人

【女性】

  • 平均受給月額…11万1413円
  • 受給権者数…540万5752人

厚生年金の平均受給月額は、男女間で5万8554円もの差があります。また、受給権者の数も男性が女性の約2倍となっています。

この差が生まれる背景には、女性が結婚や出産、育児といったライフイベントを機に退職や休職を選択し、働き方を変えるケースが多いことが挙げられます。その結果、就業期間が短くなったり、非正規雇用などで収入が減少したりすることが、年金額に影響していると考えられます。

現在年金を受け取っている世代が現役で働いていた時代は、今ほど女性の社会進出が進んでいなかったことも一因でしょう。

今後、現在の現役世代が年金を受給する頃には、この男女差は縮小している可能性があります。

4. 【働き方別】年金受給額の目安を5パターンでシミュレーション(個人)

平均額だけでは自分の将来を具体的に想像するのは難しいかもしれません。そこで、厚生労働省が公表した「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」に記載されている「多様なライフコースに応じた年金額(概算)」を参考に、5つの働き方パターン別の年金受給目安額を見ていきましょう。

  • 【パターン1】会社員経験が長い男性(厚生年金中心)
    • 想定:平均収入(月額換算)約50万9000円で約40年就業
    • 年金月額の目安17万6793円
  • 【パターン2】自営業・フリーランスの男性(国民年金中心)
    • 想定:厚生年金への加入期間が約7.6年と短く、大部分が国民年金
    • 年金月額の目安6万3513円
  • 【パターン3】キャリアを重ねた女性(厚生年金中心)
    • 想定:平均収入(月額換算)約35万6000円で約33年就業
    • 年金月額の目安13万4640円
  • 【パターン4】自営業として働いた女性(国民年金中心)
    • 想定:厚生年金への加入期間が約6.5年と短い
    • 年金月額の目安6万1771円
  • 【パターン5】専業主婦の期間が長い女性(第3号被保険者中心)
    • 想定:扶養内で過ごした期間が長く、厚生年金の加入期間は約6.7年
    • 年金月額の目安7万8249円

このシミュレーションから、たとえ長期間働いたとしても、厚生年金への加入歴の有無によって、将来受け取る年金額に月額10万円以上の差が生じる可能性があることがわかります。

5. 【夫婦の老後】世帯の年金年収はいくら?働き方の組み合わせ《3パターン》で見る受給額シミュレーション

個人の受給額の目安を見てきましたが、夫婦2人世帯の場合はどうなるのでしょうか。ここでは、先ほどの5つのパターンを組み合わせて、夫婦の働き方に応じた世帯の年金受給額をシミュレーションしてみます。

5.1 共働き・専業主婦世帯・自営業、世帯別の年金月額を比較

  • 【会社員同士の共働き夫婦】…約31万1400円
    (パターン1の夫 17万6793円 + パターン3の妻 13万4640円)
  • 【会社員の夫+専業主婦の妻】…約25万5000円
    (パターン1の夫 17万6793円 + パターン5の妻 7万8249円)
  • 【自営業・フリーランス夫婦】…約12万5200円
    (パターン2の夫 6万3513円 + パターン4の妻 6万1771円)

このように、夫婦の働き方の組み合わせによって、世帯で受け取る年金額には最大で月額約18万円もの差が生じることがわかります。ご自身の家庭がどのパターンに近いか、将来の姿をイメージする参考にしてみてください。

熊谷 良子

なお、自営業者の配偶者は、年金制度上、第3号被保険者(扶養対象)にはなれません。

第1号被保険者として自身で国民年金保険料を納付する必要があるため、3つ目の「自営業・フリーランス夫婦」のケースに近くなります。

私自身、フリーランスと会社員の両方の働き方を経験しました。

ライフイベントや働き方の転換が将来の年金額に与える影響はとても大きいです。

だからこそ若いうちから仕組みを知り、キャリア形成と同時に『年金を作る』意識を持つことが、自分らしいライフ&キャリアを歩む強力な基盤になります。

6. 50〜60歳代の8割が子からの支援を「受けたくない」→一方で生涯の介護費用はおよそ「2300万円」の試算も

公的年金は老後の生活を支えるための重要な制度ですが、年金収入だけで生活をまかなえるのか、不安に感じる方も多いでしょう。特に老後において大きな負担となり得るのが「介護費用」です。

株式会社LIFULL seniorが2026年6月に公表した調査および試算によると、一般的な在宅介護を1年間経て、有料老人ホームに5年間入居した場合、一人あたりにかかる生涯の介護費用はおよそ「2,300万円(総額2,295.6万円)」にのぼります。

先ほどの年金シミュレーションの金額を踏まえても、年金収入だけでまかないきるには厳しい水準といえます。

一方で、親世代(50代〜60代)に対する意識調査では、自身の介護費用にいくら必要かを「わからない」と答えた人が42.1%を占め、実際に費用を「備えていない」という人が約6割にのぼりました。

【親世代】介護費用、子どもから援助してほしい?6/6

【親世代】介護費用、子どもから援助してほしい?

出所:株式会社LIFULL「LIFULL 介護が試算、生涯で介護に必要な金額はおよそ『2,300万円』」

さらに、「自身の介護費用を子から支援して欲しいか」という問いに対しては、8割超の親が支援を拒む(「あまり思わない」38.2%、「全く思わない」46.1%)結果となっています。

しかしその反面、子世代(30歳代〜40歳代)の8割以上が親と介護費用について「話し合ったことがない」という実態も浮き彫りになっています。

親が費用を備えておらず、事前の話し合いもなされていない状況で介護が始まれば、結果的に子世代が金銭的・手続き的な負担を背負わざるを得ないケースに陥りがちです。

年金額の増額には限界があり、物価高も続く現代においては、こうした条件の優先順位を見直す工夫が欠かせません。

元気なうちから「介護にいくらかかるのか」「年金や貯蓄でどこまでまかなえるのか、足りない場合はどうするのか」を親子でオープンに話し合っておくことが、親子双方にとって安心できる老後への第一歩となるでしょう。

熊谷 良子

介護費用の大きな割合を占める『施設費用』を抑える工夫として、同調査では以下のデータも示されています。

  • 立地の見直し:東京都から埼玉県へと希望エリアを移すだけで、月額費用相場が約7.4万円、入居時費用相場が620万円下がる(※1)
  • 建築年数の見直し:1990年より前に建築された施設(リフォーム済み等の物件)は、1990年以降に建てられた施設に比べ、最低月額費用の中央値が約4万円安くなっている(※2)

※1:集計対象は、介護施設検索サイト「LIFULL 介護」に2026年5月31日時点で掲載されている有料老人ホーム。月額費用は「入居時費用あり」の料金プランを対象に集計
※2:集計対象は、介護施設検索サイト「LIFULL 介護」に2026年6月10日時点で掲載されている有料老人ホーム。月額費用は、その施設の料金プランの中から最低額を抽出して集計

 

7. まとめ:年金と介護の現実を知り、親子で早めの対策を

働き方やライフスタイルによって、将来受け取れる年金額には個人差や男女差が大きく表れることがわかりました。

一方で、長生きすればするほど直面する可能性が高くなる「介護」には、およそ2300万円というまとまった費用がかかる可能性があります。

株式会社NEXER Groupの調査によると、40歳代・50歳代の現役世代の約8割が老後資金に対して不安を抱えているというデータもあります。

物価高で日々の生活費が膨らむ中、年金だけであらゆる老後リスクに備えるのは現実的ではありません。

「子どもに金銭的な負担や迷惑をかけたくない」と願う親世代の思いは切実ですが、その思いが裏目に出て話し合いを避け続ければ、いざという時に子世代が大きな負担を背負うことになりかねません。

まずは、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」でご自身の年金見込み額を正確に把握すること。

そして、お盆や年末年始などで家族が集まるタイミングを利用し、「将来どこでどのように暮らしたいか」「介護が必要になった時の資金はどうするか」を親子でオープンに話し合ってみてはいかがでしょうか。

現状を正しく知ることが、漠然とした老後不安を解消し、NISAやiDeCoなどを活用した計画的な資産形成へと踏み出す第一歩となるはずです。

熊谷 良子

かつて認知症の家族の介護と仕事の両立に悩み、まさに『ビジネスケアラー』として壁にぶつかった時期がありました。

介護はある日突然訪れ、想像以上にお金や手間がかかります。

『子どもに迷惑をかけたくない』という親心は素晴らしいですが、蓋を開けたら準備がなかった…というのが一番の悲劇です。

元気なうちに具体的な数字を出してオープンに話すことこそが、本当の親孝行でありリスク回避にも繋がりますよ。

参考資料