和田 直子

銀行員時代、お客様との何気ない窓口での雑談が、今でも記憶に残っています。

「うちの両親は、年金だけで生活できてるよ」とおっしゃる方がいる一方で、「うちは年金だけだと少し厳しいみたい…でも。株の配当金で趣味を楽しめているから大丈夫」とにこやかに話してくださる方もいらっしゃいました。

そのたびに、「老後にいくら年金をもらえるのかを早い段階で把握して、対策を立てておかないと」と強く感じていたものです。

年金の受給額は現役時代の働き方によって大きく異なります。

老後の生活設計を考える上で、まず知っておきたいのが「最高でいくらもらえるのか」という上限の話ではないでしょうか。

結論から言うと、老齢厚生年金の理論上の最高額は月額約30万円です。

ただし、この金額を受け取るための条件は、ほとんどの方には現実的でない水準になっています。

この記事では、最高額に到達するための条件を整理した上で、届かない場合に取り組みたい現実的な代替案を4つお伝えします。

1. 3つのポイントの見出し

  •  老齢厚生年金の理論上の最高額は月約30万円。国民年金の満額を加えると月37万円超になる
  • この金額を受け取るには「16歳から70歳まで54年間、年収約1200万円以上を維持する」という条件が必要で、現実的ではない
  •  現実的な備えとして、iDeCo・新NISA・繰下げ受給・長く働くという4つの選択肢を組み合わせることが有効

2. 厚生年金だけの最高額「月額約30万円」を達成する条件

厚生年金の受給額は「加入期間」と「現役時代の報酬(給与・賞与)」の2つで決まります。

理論上の上限である月額約30万円に到達するための条件を、順に確認してみましょう。

2.1 条件①:加入期間は16歳から70歳までの54年間

厚生年金に加入できる期間は、原則として16歳から70歳未満までの最長54年間(648カ月)です。

最高額を受け取るには、中学を卒業してすぐに就職し、70歳になるまで1カ月の空白もなく保険料を納め続ける必要があります。

2.2 条件②:給与は54年間ずっと月収63.5万円以上

厚生年金保険料や受給額の計算ベースとなる「標準報酬月額」には上限があります。

現行制度の最高等級(第32級)は65万円で、これに該当するためには月の額面給与(手当等含む)が63.5万円以上である必要があります。

2.3 条件③:賞与は54年間ずっと年間450万円以上

賞与にも上限があり、厚生年金の対象となる標準賞与額の上限は1回あたり150万円(年3回まで)、年間計450万円です。これらをすべて合算すると、必要な年収は次のとおりです。

  • 毎月の給与:63.5万円 × 12カ月 = 762万円
  • 年間の賞与:450万円
  • 必要な年収:約1212万円

16歳から70歳まで54年間にわたって年収約1200万円以上を維持し続けることが、月額30万円受給の絶対条件ということになります。

3. 厚生年金だけで「最高額30万円」は現実的ではない?

「厚生年金だけで月30万円」という数字がいかに破格であるかを理解するために、まずは日本の年金制度の基本である「2階建て構造」と、実際のシニア世代がもらっている「リアルな平均額」を見てみましょう。

日本の公的年金は、よく「2階建て」に例えられます。

  • 1階部分:国民年金(老齢基礎年金)

日本に住む20歳以上60歳未満の全員が加入するベースの部分です。

  • 2階部分:老齢厚生年金

会社員や公務員が、1階の国民年金に「上乗せ」して加入する部分です。

先ほど算出した「最高額・約30万円」は、あくまで2階部分の厚生年金単体の金額です。

本来であれば、これに1階部分の基礎年金(満額で月約7万円)がプラスされるため、合計で月約37万円になるのが理論上の最高値となります。

3.1 実際のシニア世代の平均受給額は?

では、実際にいまのシニア世代はどれくらい年金をもらっているのでしょうか。

厚生労働省の最新データ(令和6年度)によると、1階と2階を合わせた平均受給額、および月30万円を超えている人の割合は以下の通りです。

厚生年金保険 月額階級別の受給権者数1/2

厚生年金保険 月額階級別の受給権者数

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

  • 平均受給額(国民年金+厚生年金):月額 15万289円
  • 厚生年金(国民年金を含む)「月30万円超」の人の割合:わずか 0.12%

このデータからも、「厚生年金だけで30万円」がいかに非現実的な数字であるかが分かります。

歴史的な背景も含めて、なぜ現実的ではないのか、もう少し補足しておきましょう。

16歳から年収1200万円を稼ぎ続けるのが現実的でないことは言うまでもありません。

さらに、年金制度の歴史を見ると、過去には標準報酬月額の上限が今より低かったり、2003年以前は賞与が年金額の計算に含まれなかったりしていたため、現在引退を迎える世代がどれだけ高収入だったとしても、実際の受給額が月30万円に達することはありません。この数字はあくまで「制度上の理論値」として把握しておく程度で十分です。

なお、すでに成立している年金制度改正法により、2027年9月から標準報酬月額の上限が現在の65万円から段階的に75万円まで引き上げられることが決定しています。

標準報酬月額の上限引き上げ「65万円→75万円」2/2

標準報酬月額の上限引き上げ「65万円→75万円」

出所:厚生労働省「厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて」

将来的には理論上の最高額はさらに上がりますが、一般の会社員にとってのハードルが極めて高いことに変わりはありません。

和田 直子

大学卒業後、38年間、平均年収500万円で働いた会社員の受給額は基礎年金込みで月額約15.4万円です(現行制度で試算)。

現実には、受給者の約8割が「月額20万円未満」のゾーンに位置しています。

  • 10万円未満の割合:19.0%
  • 10万円以上の割合:81.0%
  • 15万円以上の割合:49.8%
  • 20万円以上の割合:18.8%
  • 20万円未満の割合:81.2%
  • 30万円以上の割合:0.12%
※国民年金部分を含む月額

このことからも”厚生年金だけ”で理論上の最高額となる月額30万円を達成するのは現実的とは考えにくいですね。
 

4. 【筆者からのアドバイス】最高額に届かない場合の現実的な代替案4つ

厚生労働省の調査では、実際の会社員の平均的な厚生年金受給額は、国民年金と合わせて月15万円程度です。

「厚生年金だけで月30万円なんて無理」と思ったかもしれませんが、公的年金の不足分を補う現実的な手段は、いくつかあります。

4.1 代替案①:企業年金やiDeCoを活用して「3階建て年金」を作る

日本の年金は「2階建て」と説明しましたが、会社員にはさらにその上の「3階部分」を用意できる特権があります。

それが「企業年金」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」です。

まずは、自分の勤務先に「企業型確定拠出年金(企業型DC)」や「確定給付企業年金(DB)」といった企業年金制度がないか確認してみましょう。これらがある会社なら、毎月会社が将来の年金を積み立ててくれています(企業型DCでは、自分の給与から上乗せして積み立てる「マッチング拠出」ができる場合もあります)。

もし「勤務先に企業年金がない」、あるいは「制度はあるけれど、もっと上乗せしたい」という場合に大活躍するのがiDeCo(イデコ)です。

企業年金もiDeCoも、最大のメリットは「積立時の掛金が全額所得控除になる(税金が安くなる)」点です。運用の成果が出る前の段階から、確実な節税メリットを得ながら老後資金を準備できます。会社の制度をフル活用しつつ、足りない分をiDeCoで補うことで、自分だけの強力な「上乗せ年金」を構築できます。

4.2 代替案②:新NISAを活用して資産寿命を延ばす

運用益が永久に非課税になる新NISAは、iDeCoと並ぶ資産形成の主要な選択肢です。

企業年金やiDeCoと異なり途中で自由に引き出せる柔軟性があります。

長期・積立・分散の組み合わせで、老後の生活費を補う資産を育てていくことができます。

4.3 代替案③:年金の「繰下げ受給」で受給額を最大84%増やす

年金は原則65歳から受け取りますが、受給開始を遅らせることで1カ月ごとに0.7%増額されます。

70歳まで繰り下げると42.0%増、75歳まで繰り下げると84.0%増になります。現役時代の平均年収が高くなかった方でも、繰下げを活用することで月々の受給額を大きく引き上げることが可能です。

4.4 代替案④:定年後も「長く働く」ことで加入期間を伸ばす

年収を高く維持するのは難しくても、加入期間を増やすことは誰にでもできます。

定年後に再雇用やパートで厚生年金に加入しながら働くことで、「在職定時改定」という仕組みにより、働いた分が毎年年金額に反映されます。

健康なうちに細く長く働き続けることが、老後の資産寿命を延ばす確実な手段のひとつです。

5. まとめ

厚生年金だけの最高額「月約30万円」は、制度上の理論値として知っておく意味はありますが、ほとんどの方にとって現実的な目標ではありません。それよりも大切なのは、「自分の将来の年金がどれくらいか」を早めに把握し、不足分にどう備えるかを考えることではないでしょうか。

窓口でお客様の話を聞きながら感じていたのは、老後を豊かに過ごしている方に共通していたのは「受取額の多さ」よりも「早めに現状を知り、自分に合った対策を取っていたこと」だったということです。

まずはねんきん定期便やねんきんネットで現実の受給見込み額を確認し、iDeCoや新NISA、繰下げ受給、長く働くという選択肢を組み合わせながら、自分らしい老後プランを作っていきましょう。

参考資料

和田 直子