6. 年金だけで暮らせる?シニアの「生活費」と「貯蓄」のリアル
実際の年金受給額の平均が見えてきましたが、果たしてそれだけで老後の生活は成り立つのでしょうか。
ここで、現在のシニア世帯の「支出」と「貯蓄」の実態を見てみましょう。
総務省の「家計調査(2025年)」によると、夫婦ともに65歳以上の無職世帯における1カ月の消費支出は約26.4万円となっています。
それに対し、年金などの実収入から税金や社会保険料を引いた「可処分所得(手取り収入)」は約22.2万円にとどまり、毎月およそ4.2万円の赤字(不足)が発生しているのが実情です。
年金収入だけでは生活費を賄いきれず、不足分を貯蓄の取り崩しで補っているのが平均的なシニアの姿と言えます。
では、その頼りとなる貯蓄はどれくらいあるのでしょうか。
J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」によると、70歳代・二人以上世帯の貯蓄額は、平均で「2416万円」となっています。
「それだけあれば安心だ」と思われるかもしれませんが、この平均値は一部の富裕層によって引き上げられている側面があります。
より一般的な生活実態に近いとされる「中央値」を見ると「1178万円」となっており、世帯ごとの貯蓄状況には大きなばらつき(二極化)があることがうかがえます。
年齢を重ねれば自然と貯蓄が増えるわけではなく、「年金+自分の資産」という両輪で老後を乗り切る視点が不可欠だと痛感させられるデータです。
7. 申請しないともらえない?知っておきたい年金の上乗せ制度
老後の収入の柱となる公的年金のしくみ。実は「申請しないと受け取れない」見落としがちな上乗せ給付が存在します。
代表的なものが、厚生年金に20年以上加入している方に扶養されている配偶者や子がいる場合に加算される「加給年金」です。
これはよく「年金の家族手当」と呼ばれますが、条件を満たしたからといって自動的に支給されるわけではなく、ご自身での届出が必要です。
また、年金を含めた所得が一定基準を下回る方を対象に支給される「年金生活者支援給付金」も、対象者には案内が届きますが、同封の請求書を返送しない限り受け取れません。
ちなみに、この給付金の基準額は物価の変動に応じて改定される仕組みになっており、2026年度は前年度比で3.2%増額されています。ご自身の世帯が対象になる制度がないか、事前に確認しておくことが大切です。
8. まとめにかえて
本記事では、2026年度の年金額の改定内容をはじめ、ライフコース別の受給額シミュレーション、さらには現在のシニア世代のリアルな生活費や貯蓄の実態について確認してきました。
「標準的なモデル世帯」の年金額はあくまで一つの目安であり、働き方やライフスタイルが多様化する現代において、実際に受け取れる年金額は人によって大きく異なります。
また、日々の物価上昇の影響もあり、年金収入だけで毎月の支出をすべてカバーするのは難しく、貯蓄の取り崩しで補っているのが平均的なシニアの姿と言えます。
多くの人は、貯蓄や運用を取り入れながら、自分自身が望む生活をするための費用を準備しています。
今回のモデルケースを見ながら、ご自身の求める生活費との「差額」を考えてみましょう。
9. 筆者からのコメント
記事内でも触れた通り、物価高の影響で生活費の負担は確実に増しています。
私は日頃の相談業務の中で、「万が一のリスク」「積み立てていくリスク」「長生きのリスク」に対するバランスの良い備えをご提案していますが、不安を和らげる一番の武器は公的制度の知識です。
例えば、医療費が高額になった際に自己負担限度額を超えた分が払い戻される「高額療養費制度」は、70歳以上になるとさらに上限額の算定方法が優遇される仕組みがあります。
NISAやiDeCoで資産形成を進めると同時に、こうしたセーフティネットの知識を蓄えておくことが、心豊かな未来への備えに繋がるでしょう。
参考資料
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
- 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」
- J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 政府広報オンライン「年金の手続。国民年金の第3号被保険者のかたへ。」
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
- 厚生労働省「令和8年8月から高額療養費制度が見直されます」
渡邉 珠紀


