2. 従来技術「量子井戸」と革新技術「量子ドット」の決定的な違い
では、QDレーザが手掛ける「量子ドット」は、従来のレーザー技術と何が違うのでしょうか。泉田氏は、電子の「閉じ込め方」に決定的な違いがあると説明します。
従来のレーザー技術は「量子井戸(Quantum Well)」と呼ばれる方式が主流です。泉田氏はこれを「地下に水が通る層があって、そこを地層が挟んでいる。
そこに上から管を通して井戸水を汲み上げるイメージ」と分かりやすく例えます。バリア層と呼ばれる層に電子を閉じ込める方式ですが、これには大きな弱点がありました。
それは「熱問題」です。データセンターは大量の電気を消費するため、どうしても高温になりがちです。
量子井戸方式では、温度が上がると閉じ込めたはずの電子が面の中で暴れ出してしまい、レーザーの出力が不安定になってしまうのです。これを防ぐためには強力な空調設備が必要となり、結果としてさらに電力を消費するという悪循環に陥っていました。
この熱問題を根本から解決するのが「量子ドット」です。
「まさにそのものズバリで、電子を閉じ込めちゃってどこの方向にも動けないようにしてるんで、高温でも電子が動かなくて出力が安定するんですよ」
量子ドットは、電子をミクロの粒(ドット)の中に1個1個、三次元的に完全に閉じ込めてしまいます。そのため、周囲が高温になっても電子が動けず、安定した光を出し続けることができます。
「空間で閉じ込めてたものを1個1個閉じ込めるっていうので、これが要はイノベーションだっていうことで騒がれてるわけですよ」
泉田氏が指摘するように、データセンターの空調にかかる莫大な電力コストを削減し、熱問題を解決できる技術だからこそ、株式市場はQDレーザに大きな期待を寄せているのです。
3. 決算から読み解く事業の実態。量子ドットはまだ「研究開発段階」
革新的な技術を持つQDレーザですが、実際のビジネスとしての現在地はどうなっているのでしょうか。決算データから事業の実態を読み解きます。
2026年3月期の実績を見ると、売上高は13億7,200万円(前年比+4.9%)となっていますが、営業損失は3億2,600万円、当期純損失は3億5,700万円と、いまだ赤字が続いています。
続く2027年3月期の会社予想では、当期純利益が4億4,100万円の黒字転換となる見通しです。しかし、この黒字化の背景には注意が必要です。
実は当初の予想では5,800万円の純損失が見込まれていましたが、TDKへの特許一部譲渡に伴う約5億円の特別利益が計上されたことで上方修正されました。本業の儲けを示す営業利益の予想はわずか300万円にとどまっており、実質的にはトントンの水準です。
つまり、この黒字化は本業の劇的な採算改善によるものではなく、一過性の要因によるものだということを投資家は理解しておく必要があります。
さらに売上の内訳を見ると、意外な事実が浮かび上がります。主力であるレーザデバイス事業の売上11億7,300万円のうち、市場が期待する「量子ドットレーザ」の売上は1億7,400万円に過ぎません。
前年の9,900万円からは+76%と急成長しているものの、事業全体の約15%、全社売上(13億7,200万円)に対しては約13%にとどまっています。
売上の大半を支えているのは、DFBレーザ(4億9,500万円、前年比-6%)や小型可視レーザ(2億4,300万円、前年比-5%)といった既存のレーザー製品です。「注目はされているけれど、まだ売れていない状況なのか」という疑問に対し、泉田氏は決算説明会資料を引き合いに出し、量子ドットがまだ製品として量産されているフェーズではないことを明らかにします。
「量子ドットレーザーを組み込んだ最終製品については、当社顧客において量産化を目指した研究開発が様々に進捗っていう話になってます。日米欧の9社とシリコンフォトニクス用光源等の共同開発を推進中ということで、まだまだ実験段階ということになってます」
つまり、足元で計上されている量子ドットの売上は、完成した製品を量産して得たものではなく、各国のパートナー企業と研究開発を進める中で発生している売上なのです。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日