「老後のために毎月コツコツ貯めています」。銀行員時代、そんなふうにおっしゃるお客さまに、預金通帳を見せていただくことがありました。
確かに積み上がっている残高。でも、低金利の時代で「利息はほとんどつかないけどね…」と苦笑いされていたことを思い出します。
あの頃と今では、状況が変わりました。物価が上がり続けている今、「減らない」はずの預金が、実質的には目減りしているかもしれません。
毎月同じ金額を積み立てるとしても、銀行に預け続ける場合と、新NISAを使って運用する場合では、20年後の資産額に数百万円以上の差が生じる可能性があります。
この記事では、金融庁のシミュレーターをもとに、その差を具体的な数字で確認していきます。
1. 「月5万円」を20年間預け続けると、資産はいくらになる?
毎月5万円を積み立てた場合、20年間の元本合計は「1200万円」です。
近年は日本銀行の利上げを背景に、メガバンクの普通預金金利も上昇傾向にあります。
仮に年0.4%の複利で20年間運用できたとすると、得られる利息は約49万円(税引前)。最終的な資産額はおよそ1249万円となります。
ただし、この利息には約20%の税金がかかるため、手元に残る金額はさらに少なくなります。
加えて見落とせないのが、インフレの影響です。年2%の物価上昇が続いた場合、20年後に同じ商品を買うには今の約1.5倍の金額が必要になります。預金残高は増えているように見えても、お金の「実質的な価値」は下がっている可能性があります。
元本が減りにくいという安心感は預金の大きな魅力です。ただ、インフレが続く環境では、それだけでは資産を守りきれないかもしれません。
2. 税制優遇で運用できる「新NISA」とは?
NISA(少額投資非課税制度)とは、投資から得た利益に対して税金がかからなくなる制度です。通常、株式や投資信託の運用益・配当金には約20.315%の税金が課されますが、NISA口座で運用すれば非課税となります。
たとえば預金で約49万円の利息を得ても、税引き後は約39万円に目減りします。一方、NISA口座での運用益は非課税のため、同じ利益でも手元に残る金額が変わります。
2024年1月の制度改正で「新NISA」に刷新され、使い勝手が大きく向上しました。
- つみたて投資枠:年間120万円(旧制度の3倍)
- 成長投資枠:年間240万円(つみたて投資枠と併用可)
- 非課税保有期間:無期限(旧制度では上限あり)
非課税期間が無期限になったことで、長期での資産形成に取り組みやすくなっています。
3. 【利回り別シミュレーション】月5万円を20年間積み立てると?
毎月5万円を20年間積み立てた場合、利回りによって最終的な資産額がどう変わるかを確認します。
3.1 利回り3%で運用した場合
- 投資元本:1200万円
- 運用収益:434万円
- 資産合計:1634万円
3.2 利回り5%で運用した場合
- 投資元本:1200万円
- 運用収益:829万円
- 資産合計:2029万円
3.3 利回り10%で運用した場合
- 投資元本:1200万円
- 運用収益:2391万円
- 資産合計:3591万円
年利3%でも、20年で434万円の運用収益が見込まれ、預金との差額は385万円に達します。
年利5〜10%では、その差は780万円〜2342万円と大きく広がります。
4. 「貯金 vs 投資」差を生む"複利"の力
この差を生み出しているのが「複利」の仕組みです。運用で得た利益が元本に組み込まれ、その利益にもさらに利益が積み上がっていく効果で、運用期間が長くなるほど資産の増え方が加速します。
積立投資の初期段階では、預金との差はあまり目立ちません。しかし運用を続けるほど、複利の効果で後半の伸びが大きくなります。資産形成において「いつ始めるか」「いかに長く続けるか」が重要といわれるのは、この複利の特性によるものです。
将来の運用成果を正確に予測することはできませんが、無理のない範囲で積み立てを続けることが、長期での資産形成の基本といえるでしょう。
5. 食品値上げラッシュが続く今、「置いておくだけ」のリスクとは
帝国データバンク「『食品主要195社』価格改定動向調査(2026年7月)」によると、2026年7月の飲食料品の値上げ品目数は2566品目にのぼりました。
1回あたりの平均値上げ率は11%で、加工食品(1084品目)やパン(1078品目)を中心に、大手メーカーが一斉に値上げを実施しました。
2026年通年の値上げ品目数(1〜11月判明分)は1万4902品目と、同社が調査を開始した2022年以降5年連続で年間1万品目を超えています。
さらに9月単月で3029品目が見込まれるなど、今夏以降も値上げラッシュが続く見通しです。
背景にあるのは、中東情勢の悪化による原油・ナフサ高です。
石油由来の包装資材や物流コストの上昇が製品価格に転嫁されており、中東情勢に起因する値上げが全体の約25%を占めます。
円安による輸入コストの上昇や、異常気象による穀物の不作も重なり、食品インフレは当面続くとみられます。
年間2万品目ペースで値上がりが進む現状では、預金残高が増えていても「買えるものが減っている」という事態が起きかねません。
お金を「置いておくだけ」のリスクは、かつてより確実に大きくなっているといえるでしょう。
6. インフレ時代に「増やしながら守る」視点を持とう
毎月5万円を20年間積み立てた場合、銀行預金では約1249万円にとどまりますが、新NISAで年利3〜5%で運用できれば1634〜2029万円に達する可能性があります。
食品の値上げラッシュが続く今、お金の価値が実質的に目減りしていくリスクは無視できません。
大切なのは「減らさないこと」と「増やすこと」のバランスです。
生活費3〜6カ月分の生活防衛資金は手元に残しつつ、余裕資金を少額からコツコツ積み立てていく。「完璧なタイミング」を待つより、できる金額で今日から始めることが、長期的な資産形成では何より重要といえるでしょう。
【免責事項】
- 本記事は、公開されている公的資料および一般的な情報に基づき作成されたものであり、特定の制度・金融商品・投資行動を推奨するものではありません。
- 掲載している数値・制度内容・シミュレーション結果は、一定の前提条件のもとでの試算または一般的な事例であり、実際の金額・支給要件・税制・運用成果等を保証するものではありません。制度内容は法改正・自治体運用・経済状況等により変更される可能性があります。
- 投資に関する記述は、将来の運用成果を示唆または保証するものではなく、元本割れを含むリスクが存在します。本記事上の情報に起因、また関連して生じた損害や損失に関しては一切の責任を負いません。最終的な投資判断は、ご自身の責任において行ってください。
参考資料
和田 直子