4. 今後の成長シナリオと潜むリスク
ABFの将来的な需要は、半導体の進化とともに構造的に拡大していくことが見込まれています。
パソコン用途で採用された当初は「3層」程度だった基板の積層は、現在のAI用途では「11層(100mm角)」にまで拡大しています。さらに会社予想によれば、2031年以降には「13層(120mm角)」へと、さらなる大型化と多層化が進むとされています。
泉田氏はこの需要ドライバーの構造について、次のように簡潔に説明します。
「面積が増えてかつ積層が多層化するので、使う量はどんどん増えますよ」
この旺盛な需要に応えるため、ABFを製造する味の素ファインテクノは、群馬県と神奈川県川崎市に次ぐ第3の拠点として、岐阜県可児市に新工場の用地を取得する予定です。
2032年度の稼働を目指しており、長期的な需要拡大を見据えた布石を打っています。
ここまで見ると死角がないように思えますが、インタビュアーから「事業におけるリスク要因はあるのか?」と問われると、泉田氏はプロの視点から2つの懸念材料を提示しました。
1つ目は、前述した生産キャパシティの限界です。新工場の稼働が2032年度とかなり先であるため、それまでの間に急激な需要増があった場合、供給が追いつかない可能性があります。
2つ目は、代替技術の台頭と競合の参入です。現在、半導体業界では次世代の技術として「ガラス基板」の採用が議論されています。もしガラス基板が主流になれば、現在のフィルム型であるABFではなく、PID(感光性絶縁樹脂)と呼ばれる別の素材に置き換わるリスクがあります。
泉田氏は、圧倒的なシェアを持っているからこその脆さについて、次のように警鐘を鳴らします。
「100%だから、新技術が来た時に一気に代替される可能性もある」
さらに、莫大な利益を生む市場であるため、国内の化学メーカーや米国のスタートアップ、中国勢などが虎視眈々とシェアを奪いにきている状況でもあります。
味の素は、強固な食品事業という安定した地盤を持ちながら、AI半導体という最先端の成長エンジンを併せ持つ稀有な企業です。
しかし、技術の移り変わりが激しい半導体業界において、現在の「シェア100%」という黄金時代がいつまで続くのか。投資家としては、同社の技術動向や競合の動きを継続的に注視していく必要がありそうです。
参考資料
- 味の素株式会社「2026年3月期 通期決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年5月7日)
- 味の素株式会社「2026年3月期 決算概要」(2026年5月7日)
- 味の素株式会社「2027年3月期 セグメント別業績予想」(2026年5月7日)
- 味の素株式会社「2026年3月期 決算説明会資料」(2026年5月7日)
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
※リンクは記事作成時点のものです。また、会計年度表記は味の素の開示資料に準拠しています(FY25=2026年3月期)。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日