2. 驚異のシェア100%。アミノ酸から生まれた「ABF」とは

味の素が世界シェア100%を握るとされるこの絶縁フィルムは、「ABF(味の素ビルドアップフィルム)」と呼ばれています。

半導体は現在、性能を向上させるためにチップを何層にも重ねる「積層化」が進んでいます。泉田氏はこの構造をミルフィーユに例え、ABFの役割を次のように解説します。

「層を重ねる時に絶縁が必要で、その間に引くフィルムが絶縁フィルムABFなんですよ」

「なぜ食品会社である味の素が、半導体の技術を開発できたのか?」という素朴な疑問を持つ方も多いでしょう。実は、この最先端技術のルーツは、味の素の祖業である「アミノ酸の研究」にありました。

同社は1970年代から、アミノ酸のノウハウを応用したエポキシ樹脂(電子部品などに使われる絶縁性の高い合成樹脂)の基礎研究を続けていました。そして1990年代、この技術をパソコン用半導体基板の絶縁材料に応用することに成功します。

当時、絶縁材料は「インク(液体)」を塗って乾かす形式が主流でした。しかし、液体は扱いにくく生産効率が悪いという課題がありました。

そこで味の素は、後発メーカーとしての挑戦として、絶縁材料を「フィルム化」するという困難な研究開発に着手したのです。

泉田氏はこの技術革新の意義について、会社の歩みを紐解きながらこう語ります。

「インクからフィルム状の絶縁材料とすることは、高性能のCPUの様々な課題を克服するためだけではなく、何よりも世界が必要とする技術でもありました」

また、この画期的な素材に「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」と自社の名前を冠している点にも、同社ならではの戦略が表れています。コーヒーギフトの「AGF(味の素ゼネラルフーズ)」と同様に、BtoB(企業間取引)の電子部品であってもブランドを強く打ち出す姿勢について、泉田氏は「味の素ってマーケティングが強い会社なのよ」と分析しています。

半導体パッケージ基板の大型化・多層化の推移2/3

半導体パッケージ基板の大型化・多層化の推移

出所:味の素「2026年3月期 決算説明会資料」(2026年5月7日)