9月に毎年恒例の新モデルの発表を控えている米アップルの「iPhone」。その新モデルの生産はEMS(受託生産)企業で7月からスタートしたもようだが、例年に比べて活気がない。スマートフォン市場の成熟化に伴い、台数ベースでの成長が頭打ちになり、部品メーカーの関心も低くなっている印象だ。端末も年々高額化しており、買い替えサイクルが長期化。これに伴い、比較的安価な旧モデルの人気が高まっている。

7~9月生産台数は5700万台規模

 iPhoneの2019年7~9月期生産台数は現時点で約5700万台と、前年同期比とほぼ同水準の計画が立てられている。うち、新モデル(有機EL2機種、液晶1機種)は3100万台程度が見込まれており、前年の生産実績に比べて400万台程度多い状況となっている。

 しかし、過去数年の傾向から、今回の生産計画は非常に弱気なものだと指摘する声が多い。例年、新モデルの生産開始直後は、部品メーカーに対して強気の計画を伝えるのがいわば「恒例行事」となっているが、今年はそれがなく、19年モデルの売れ行きに自信を持てないアップルの苦悩が見て取れる。

 10~12月期に関してもiPhone全体で前年同期に比べて300万台少ない約7100万台が計画されており、うち新モデルは横ばいの4900万台程度と見積もられている。

モデルチェンジの端境期

 19年の新機種は現行モデルからの変更点に乏しく、目玉が少ないと言われている。カメラやプロセッサー、ディスプレーなどは基本的に現行モデルのスペックを踏襲する見通し。20年の次々機種で大幅なアップデートを控えており、今年はモデルチェンジの端境期ともいえる。

 加えて、1000ドルを優に超えるような価格設定もあり、買い替えサイクルが長期化。日本国内でも端末代金と通信料金を切り離す、いわゆる「分離プラン」の導入に伴い、iPhoneのような高額端末の販売がより一層低迷することが危惧されている。

旧モデルは底堅い人気

 こうしたなかで、新モデルに比べて、比較的安価で手に入る旧モデル向けの需要が堅調に推移している。具体的には、18年に発売した「XR」や17年の「8/8 Plus」 がこれに該当する。「8/8 Plus」は2年前に発売されたモデルにもかかわらず、19年に入っても四半期ベースで500万~800万台の生産量を維持している。「XR」も昨年の発売当初は期待値が高すぎた分、大きなブレーキがかかったが、XR以前の端末を使用するユーザーの買い替えが促されたことで、足元では底堅い需要を見せている。

 19年モデルへの期待値が低くなるなか、業界の視線は早くも20年モデルに集まっている。対立関係にあったクアルコムと和解したことで、5Gモデムの調達にめどをつけ、少なくとも2機種で5G対応が図られる見込みだ。さらにカメラ部も大きく変更される見通しで、ToF(Time of Flight)センサーを組み合わせた3眼タイプに移行するとみられている。内部的にはプロセッサーに最先端の5nm世代を採用する方針で、これが足元で台湾TSMCの投資前倒しにつながっている。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳