6月も下旬に入り、街路樹の緑がいっそう色濃くなるとともに、本格的な真夏の足音がすぐそこまで聴こえてくる季節となりました。

この時期、年金受給者の方々は先日の「6月15日の振込明細」を確認し、また企業の現役・再雇用シニアの方々は夏のボーナス支給日を迎えるなど、自身の現在の収入とこれからのライフプランに改めて思いを巡らせていることでしょう。

定年退職が見えてくる60歳、そして公的年金の受給が本格化する65歳という大きな節目において、家計の命綱となるのは決して「基本の年金」だけではありません。

実は、国や雇用保険にはシニアの暮らしを支えるための手厚い給付金制度がいくつも用意されています。

しかし、これらのお金には共通するルールがあります。それは、受給要件を100%満たしていても「自ら申告・申請しなければ1円も振り込まれないという『申請主義』です。

本記事では、年金にそのまま上乗せされる2つの制度と、働き続けるシニアを金銭的にバックアップする雇用保険の3つの制度、計5つの必須給付金をピックアップ。

さらに、今後の年金受給額に影響を与える「年金制度改正」の最新動向を紐解きながら、受給漏れで老後資金を失わないための賢い立ち回り方を解説します。

※LIMOでは、個別の相談・お問い合わせにはお答えできません。

齊藤 慧
本記事は、編集部が厚生労働省等の公式一次資料を確認の上、執筆・検証しています。

1. 意外と多い?申請しないと受け取れない公的なお金

公的年金(老齢年金・障害年金・遺族年金)は、私たちの暮らしを支える重要なセーフティーネットです。

ただし、これらの年金は支給要件を満たせば自動的に支給されるわけではありません。年金を受け取るためには「年金請求書」を提出し、請求手続きを行う必要があります。

同様に、国や自治体が提供する「手当」「給付金」「補助金」などの多くも、受け取るためには申請手続きが不可欠です。

申請期限や添付書類などのルールを守れなかった場合、本来受け取れるはずのお金が減額されたり、受給資格を失ったりする可能性もあります。

公的な支援制度を必要に応じて確実に活用するためには、自分がどの支援の対象となるかを正確に理解し、手続きを適切に行うことが大切です。

2. 老齢年金に上乗せ支給される2つの給付金制度

シニアの暮らしと密接に関わる公的年金には、本来の老齢給付(老齢年金)を補完する制度がいくつか用意されています。

今回はその中から、老齢年金を受給中の方が一定の要件を満たす場合に「年金に上乗せされる」2種類の給付金を紹介します。

2.1 1. 年金生活者支援給付金:所得が一定基準以下の受給者を支える制度

年金生活者支援給付金は、基礎年金を受給中で、かつ所得が一定の要件を満たす人が受け取れるお金です。老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金のそれぞれに給付金が設けられています。

ここでは、シニアの生活に特に関連の深い「老齢年金生活者支援給付金」に焦点を当てて解説します。

老齢年金生活者支援給付金を受け取るための条件

  • 65歳以上の老齢基礎年金の受給者であること
  • 同一世帯の全員が市町村民税非課税であること
  • 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が、昭和31年4月2日以後生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下(※2)であること

※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれません。
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で80万9000円を超え90万9000円以下の方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下の方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給されます。

給付基準額はいくら?老齢年金生活者支援給付金

老齢年金生活者支援給付金の給付基準額(2026年度)は月額5620円です。

これはあくまで基準額であり、実際の支給額は月額5620円を基に、個人の保険料納付済期間などに応じて計算され、下記①と②の合計額となります。

  • ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480カ月
  • ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1768円 × 保険料免除期間 / 被保険者月数480カ月

2.2 2. 加給年金:年金の「家族手当」に相当する上乗せ給付

「加給年金」は、いわば「年金の扶養手当(家族手当)」のような制度です。

老齢厚生年金を受給している方が、年下の配偶者や子どもを扶養している場合、特定の要件を満たすと年金に上乗せして受給できます

加給年金を受け取るための条件

  • 厚生年金加入期間が20年(※)以上ある人:65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)で対象者がいる場合
  • 65歳到達後(もしくは定額部分支給開始年齢に到達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった人:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)で対象者がいる場合

※または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年

それぞれ上記の時点で、「65歳未満の配偶者」または「18歳到達年度の末日までにある子、もしくは1級・2級の障害状態にある20歳未満の子」がいる場合に年金に上乗せして支給されます。

ただし、配偶者が老齢厚生年金(被保険者期間20年以上)、退職共済年金(組合員期間20年以上)の受給権がある場合や、障害年金などを受給している場合、配偶者加給年金は支給停止となります。

2026年度における加給年金の金額

加給年金の加給年金額3/7

加給年金の加給年金額

出所:日本年金機構「加給年金額と振替加算」

「加給年金」の年金額(2026年度)は以下の通りです。

  • 配偶者:24万3800円
  • 1人目・2人目の子:各24万3800円
  • 3人目以降の子:各8万1300円

さらに、老齢厚生年金受給者の生年月日に応じて、配偶者の加給年金額に3万6000円から17万9900円の特別加算額が上乗せされます。

加給年金は対象の配偶者が65歳に達すると支給終了となりますが、その配偶者が老齢基礎年金を受け取る場合、一定の要件を満たせば老齢基礎年金に「振替加算」が適用されます。

3. 働くシニアが活用すべき雇用保険の給付金3選

働き続けるシニア世代が注目すべき、就労に関連する給付金や手当についても確認していきましょう。

シニアの就労を支援する制度は拡充されつつありますが、国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、一般的に60歳を境に収入が下がる傾向が見られます。また、誰もが若い頃のようにスムーズに就職活動や就労継続ができるわけではありません。

そこで、シニアが知っておきたい雇用保険に関連する手当や給付金を3種類紹介します。

※国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」による年齢階層別の平均給与:50歳代後半男性735万円、女性356万円、60歳代前半男性604万円・女性294万円、60歳代後半男性472万円・女性240万円

3.1 1. 再就職手当(65歳未満対象):早期の再就職を金銭的に支援

再就職手当は、早期の再就職を促進するための制度で、「失業から再就職」または「失業から事業開始」までの期間が短いほど、支給額が多くなる仕組みです。

再就職手当を受け取るための条件

  • 対象者:雇用保険受給資格者で、基本手当の受給資格がある人
  • 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者となる、または事業主として雇用保険の被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業認定後の残日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、かつ一定の要件を満たす場合に支給

再就職手当の給付率について

  • 手当の額:就職等をする前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数に応じて、給付率が変動します。(1円未満の端数は切り捨て)
    • 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合:「支給残日数の60%」
    • 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合:「支給残日数の70%」

再就職手当の額4/7

再就職手当の額

出所:厚生労働省「再就職手当のご案内」

なお、再就職手当を受給し、再就職先で6カ月以上雇用され、かつその6カ月間の賃金が離職前の賃金より低い場合は、「就業促進定着手当」の対象となります。

3.2 2. 高年齢雇用継続給付(60歳~65歳未満対象):賃金減少を補う給付金

高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の人が就労を続ける中で、賃金が60歳到達時よりも減少した場合に支給される給付金です。

高年齢雇用継続給付を受け取るための条件

  • 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある、60歳以上65歳未満の雇用保険被保険者
  • 支給条件:賃金が60歳到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合

高年齢雇用継続給付の支給率について

  • 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
    ※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たした人は15%

【早見表】高年齢雇用継続給付(2025年4月1日以降)5/7

【早見表】高年齢雇用継続給付

出所:厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」

老齢年金を受給しながら厚生年金に加入し、「高年齢雇用継続給付」を受け取る場合、在職による年金の支給停止に加えて、最大で標準報酬月額の4%(※)相当額が支給停止となる点に注意が必要です。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たした人は6%

3.3 3. 高年齢求職者給付金(65歳以上対象):失業時に一時金で支給

高年齢求職者給付金は、65歳以上の人が失業した際に支給される給付金です。

高年齢求職者給付金を受け取るための条件

  • 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
  • 支給要件:以下の要件をすべて満たす必要があります。
    1. 離職日以前1年間に、被保険者期間が通算して6カ月以上あること
    2. 失業の状態にあること(就職への積極的な意思と能力があり、求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態)

高年齢求職者給付金の給付額はいくら?

  • 支給額
    • 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
    • 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額

なお、65歳未満が受け取る「基本手当(失業手当)」が4週間に一度の失業認定を経て分割で支給されるのに対し、この高年齢求職者給付金は一括で支給される点が大きな特徴です。

4. 【2025年改正】年金制度の今後の動向と主な変更点

2025年6月13日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が衆議院で修正可決され、年金制度改正法が成立しました。

この改正は、働き方や性別による差に中立的で、多様化するライフスタイルや家族構成に対応した年金制度を構築することを目的としています。また、私的年金制度の拡充や所得再分配機能の強化を通じて、老後の生活安定と所得保障機能の強化を目指すものです。

今回の改正における主な見直しポイントを整理します。

4.1 年金制度改正の主要な見直しポイント

社会保険の加入対象の拡大

  • 短時間労働者の加入要件(賃金・企業規模)を見直し(「年収106万円の壁」撤廃へ)

在職老齢年金の見直し

  • 支給停止調整額を「月65万円」へ大幅緩和(2025年度は月51万円)

遺族年金の見直し

  • 遺族厚生年金の男女差を解消
  • 子どもが遺族基礎年金を受給しやすくする措置

保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引き上げ

  • 標準報酬月額の上限を、月65万円から75万円へ段階的に引き上げ

私的年金制度

  • iDeCo加入年齢の上限引き上げ(3年以内に実施)
  • 企業型DCの拠出限度額を拡充(3年以内に実施)
  • 企業年金の運用の見える化(5年以内に実施)

将来の基礎年金の給付水準の底上げ

  • 今後の社会経済情勢を踏まえ、基礎年金の給付水準低下が見込まれる場合に、基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドを同時に終了させる措置を導入

これらの内容からも、公的年金制度が現役世代の働き方やライフプランと深く結びついていることがわかります。

5. まとめ:公的給付金の知識が将来の家計を守る

日本の社会保障は、困っている人を自動的に見つけ出して救い上げる仕組みではなく、制度を自分で調べ、期日までに書類を揃えて手を挙げた人だけが恩恵を受けられる「申請主義」を大原則としています。

今回ご紹介した5つの給付金は、いずれも数万円単位で老後のキャッシュフローを左右する極めて影響力の大きいお金です。

一年の後半戦へ向かうこの7月、せっかく現役時代に払い続けた社会保険料のリターンを確実に取り戻すために、まずは以下の3つのアクションを実行に移しましょう。

  1. 自身の「ねんきん定期便」を開き、配偶者との『厚生年金加入期間の差(自分が20年以上あるか等)』を確認する(加給年金の受給チェックにおけるステップです)
  2. 60歳以降も再雇用で働く(働いている)場合、勤務先の総務・人事担当者に「高年齢雇用継続給付の申請予定」を直接尋ねてみる(原則として会社経由での申請となるため、企業の担当者と目線を合わせる一手になります)
  3. 退職や再就職のスケジュールを決める前に、最寄りのハローワークか年金事務所の「無料相談予約」をネットで1件取る(退職日や再就職日のズレで損をしないよう、プロの目視確認で未然に防ぐため)

「知っているか、知らないか」、そして「行動するか、放置するか」。このわずかな差が、あなたの10年後の資産に影響を与えます。今日得た知識を武器に、ご自身の正当な権利をしっかりと手中に収めてください。

6. 【監修者のコメント】この記事の総括とこれからの実務上の注意点

齊藤 慧

本記事で取り上げた5つの制度のうち、『年金』と『雇用保険』という縦割り行政をまたぐ際の併給調整ルールです。

特に60代前半で『高年齢雇用継続給付』を受給すると、連動して老齢厚生年金が最大で標準報酬月額の6%相当ストップする仕組みは、事前に理解しておきたいところです。

また年金改革の議論が進む中、今後は『働くと年金が減る仕組み(在職老齢年金)』の緩和なども見込まれますが、制度の複雑化はさらに加速するでしょう。

単体のお金の多寡だけに目を奪われず、『AをもらうとBがどう減るか』という世帯全体のトータル・キャッシュフローで損益を計算する視点が不可欠です。

※当記事は再編集記事です。

参考資料