7月を迎え、梅雨空の合間に夏の強い日差しを感じる季節となりました。この時期、現役世代は夏のボーナス、年金生活者の方は先日15日に振り込まれた「改定後の新しい年金額」を確認し、これからの家計のやりくりに思いを巡らせていることでしょう。

60歳の定年や65歳の年金受給開始など、ライフステージの大きな節目を迎えるシニア世代にとって、家計の支えとなるのは基本の「老齢年金」だけではありません。

実は、一定の要件を満たすことで年金に上乗せされる給付や、働き続けるシニアをサポートする雇用保険の制度が複数存在します。

しかし、これらの公的給付における最大の注意点は、自ら窓口で手続きを行わない限り1円も支給されない「申請主義」が取られていることです。

本記事では、60歳・65歳以上の方が対象になりやすい「5つの公的給付」の仕組みを整理し、働きながら年金を受け取る際の注意点も含めて分かりやすく解説します。

齊藤 慧
本記事は、官公庁など厚生労働省が公表している一次資料を編集部がページ確認の上、執筆・検証しています。

1. 申請しないと受け取れない?老齢年金に上乗せされる「2つの給付金」

主な公的制度のうち、まずは公的年金に関わるお金について見ていきましょう。

1.1 ①加給年金

加給年金は、一定の条件を満たす場合に支給される年金です。

支給要件

厚生年金保険の被保険者期間が20年(※)以上ある方が、65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)で、その方に生計を維持されている配偶者または子がいるときに加算されます。

65歳到達後(または定額部分支給開始年齢に到達した後)、被保険者期間が20年(※)以上となった場合は、在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)に生計を維持されている配偶者または子がいるときに加算されます。

※または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年

加給年金額

配偶者と1人目・2人目の子については各24万3800円、3人目以降の子は各8万1300円となっています。

また、配偶者の加給年金の額には、老齢厚生年金を受けている方の生年月日に応じて、3万6000円から17万9900円が特別加算されます。

1.2 ②年金生活者支援給付金

年金生活者支援給付金制度は、公的年金等の収入や所得が一定基準以下の年金受給者に対し、生活の支援を目的として年金に上乗せして支給される制度です。

老齢年金生活者支援給付金の支給要件

  • 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
  • 同一世帯の全員が市町村民税非課税
  • 前年の年金収入金額とその他の所得の合計が以下のとおり
    <昭和31年4月2日以後生まれの方>
    老齢年金生活者支援給付金は80万9000円以下である方、補足的老齢年金生活者支援給付金は、80万9000円を超え90万9000円以下である方に支給されます。
    <昭和31年4月1日以前生まれの方>
    老齢年金生活者支援給付金は80万6700円以下である方、補足的老齢年金生活者支援給付金は、80万6700円を超え90万6700円以下である方に支給されます。

なお、障害年金および遺族年金の受給者については別途要件が定められています。

給付額

老齢年金生活者支援給付金: 月額5620円(2026年度基準)

※実際の支給額は、保険料納付済期間や所得状況により異なります。

「年金生活者支援給付金」の給付基準額2/5

「年金生活者支援給付金」の給付基準額と平均給付月額

出所:日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」 

申請手続き

日本年金機構から送付される「年金生活者支援給付金請求書」を提出 

※すでに年金生活者支援給付金を受給している方は、新たな手続きは原則不要です

2. 働き続けるシニアを金銭的に支援する「雇用保険の3制度」

続いて、主な公的制度のうち、雇用に関わるお金について見ていきましょう。

2.1 ①高年齢求職者給付金

高年齢求職者給付金は、65歳以上の高年齢被保険者が離職し、再就職を希望する際に支給される一時金です。

支給要件

  • 離職日以前の1年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して6か月以上あること
  • 失業の状態にあること

 支給額

  • 被保険者期間が1年未満:基本手当日額の30日分
  • 被保険者期間が1年以上:基本手当日額の50日分 

申請手続き

離職票等を持参し、ハローワークで求職の申込み

2.2 ②高年齢雇用継続給付

高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の一般被保険者が、60歳到達時の賃金月額に比べて75%未満に低下した場合に支給される給付金です。

支給要件

  • 被保険者であった期間(※)が5年以上あること。
  • 支給対象月の初日から末日まで被保険者であること。
  • 支給対象月中に支払われた賃金が、60歳到達時等の賃金月額の75%未満に低下していること。
  • 支給対象月中に支払われた賃金額が、支給限度額未満であること。
  • 申請後、算出された基本給付金の額が、最低限度額を超えていること。
  • 支給対象月の全期間にわたって、育児休業給付または介護休業給付の支給対象となっていないこと。

※「被保険者であった期間」とは、雇用保険の被保険者として雇用されていた期間の全て。なお、離職等による被保険者資格の喪失から新たな被保険者資格の取得までの間が1年以内であること及びその間に求職者給付及び就業促進手当を受給していない場合、過去の「被保険者であった期間」として通算。

支給額

賃金の低下率に応じて、以下のように支給率が決定されます。

高年齢雇用継続給付の支給率(2025年4月1日以降)3/5

高年齢雇用継続給付の支給率(2025年4月1日以降)

出所:厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」

<2025年4月1日以降に受給資格の要件を満たした方>

  • 低下率が64%以下:支給対象月の賃金に対して10%
  • 低下率が64%超~75%未満:同10%~0%の間で賃金の低下率に応じて設定
  • 低下率が75%以上:不支給

申請手続き

原則必要書類をハローワークに提出

2.3 ③再就職手当

再就職手当は、雇用保険の基本手当(失業給付)を受給中の方が、所定給付日数の3分の1以上を残して安定した職業に早期再就職した場合に支給される手当です。

なお、「高年齢再就職給付金」とは併給できません。
 

支給要件

  • 受給手続き後、7日間の待期期間満了後に就職、又は事業を開始したこと。
  • 就職日の前日までの失業の認定を受けた上で、基本手当の支給残日数が、所定給付日数の3分の1以上あること。
  • 離職した前の事業主に再び就職したものでないこと。また、離職した前の事業主と資本・資金・人事・取引面で密接な関わり合いがない事業主に就職したこと。
  • 受給資格に係る離職理由により給付制限(基本手当が支給されない期間)がある方は、求職申込みをしてから、待期期間満了後1か月の期間内は、ハローワークまたは職業紹介事業者の紹介によって就職したものであること。
  • 1年を超えて勤務することが確実であること。(生命保険会社の外務員や損害保険会社の代理店研修生のように、1年以下の雇用期間を定め雇用契約の更新にあたって一定の目標達成が条件付けられている場合、又は派遣就業で雇用期間が定められ、雇用契約の更新が見込まれない場合にはこの要件に該当しません。)
  • 原則として、雇用保険の被保険者になっていること。
  • 過去3年以内の就職について、再就職手当又は常用就職支度手当の支給を受けたことがないこと。(事業開始にかかる再就職手当も含みます。)
  • 受給資格決定(求職申込み)前から採用が内定していた事業主に雇用されたものでないこと。

支給額

  • 支給残日数が所定給付日数の3分の2以上の場合: 70%
  • 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上の場合: 60%

基本手当日額の上限 

  • 60歳未満: 6570円
  • 60歳以上65歳未満: 5310円

※離職時の年齢

申請手続き

再就職手当の支給申請書等を、再就職日の翌日から1か月以内にハローワークに提出

3. 働きながら年金を受け取る人が確認したい「在職老齢年金制度」の仕組み

60歳以降も働き続ける人が増えるなか、年金と給与をどう組み合わせるかは、老後の家計に大きく関わります。

ただし、老齢厚生年金を受け取りながら会社員などとして働く場合、給与収入の水準によっては年金額が調整される点に注意が必要です。

この仕組みを「在職老齢年金制度」といいます。

在職老齢年金制度では、賃金と老齢厚生年金の合計額が一定の基準を超えると、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止の対象になります。

3.1 在職老齢年金制度の見直しについて

在職老齢年金制度の見直しについて5/5

在職老齢年金制度の見直しについて

出所:厚生労働省「在職老齢年金制度の見直しについて」

2025年度の支給停止調整額は月51万円でしたが、2026年度はこの基準額が月65万円へ引き上げられています。

そのため、2026年4月以降は、賃金と老齢厚生年金の合計額が月65万円以下であれば、老齢厚生年金は支給停止されません。

また、合計額が65万円を超えた場合でも、超えた分に応じて老齢厚生年金が調整される仕組みです。賃金が増えたからといって、年金と賃金を合わせた収入が急に減るわけではありません。

基準額の引き上げにより、60歳以降も働く人にとっては、年金の減額を気にせず収入を得られる範囲が広がりました。

もっとも、実際の手取り収入は、年金と給与の額面だけで決まるものではありません。給与には所得税や住民税、社会保険料がかかるため、最終的に手元に残る金額は別途確認が必要です。

働き方を考える際は、年金が減るかどうかだけに注目せず、給与・年金・税金・社会保険料を含めた家計全体の収支で判断しておきましょう。

4. 申請漏れで老後資金を失わないために。今日から始める家計の棚卸しと情報収集

年金受給者や働くシニアが利用できる制度には、加給年金や年金生活者支援給付金、雇用保険に関わる給付などがあります。

いずれも対象者や申請先、期限が異なるため、自分が該当するか早めに確認しておくことが大切です。

また、2026年度から在職老齢年金制度の基準額は月65万円へ引き上げられ、働きながら年金を受け取る人の選択肢が広がりました。

老後の収入を考える際は、年金額だけでなく、利用できる給付や就労収入、税金・社会保険料も含めて確認しましょう。

気になる制度がある場合は、日本年金機構やハローワーク、勤務先などに相談してみてください。

5. 【監修者のコメント】この記事の総括とこれからの実務上の注意点

齊藤 慧

シニア向けの公的給付において実務上最もトラブルとなりやすいのが、管轄の異なる『年金』と『雇用保険』を同時に受け取る際の併給調整ルールです。たとえば60代前半で高年齢雇用継続給付を受給すると、在職老齢年金とは別に、老齢厚生年金の一部が強制的に停止となります。

また、年金事務所の窓口でハローワークの給付について案内されることはほぼないでしょう。行政の縦割り構造ゆえに、世帯全体のトータル収入を最大化するための横断的な提案を窓口の担当者に求めることは、仕組み上困難です。

だからこそ、定年退職や再就職といった節目には、ご自身の『ねんきん定期便』と『雇用保険の離職票』を机に並べ、受給できる権利を客観的に洗い出すプロセスが不可欠となります。

単体の給付額に目を奪われるのではなく、年金と給与、給付金を合わせた『全体のキャッシュフロー』がどう変動するかを冷静にシミュレーションし、手続きを進めること。それが確実な生活防衛策です。

参考資料