3. 機関投資家が警戒する「過去のトラウマ」とは
強力な顧客からの前受金を活用し、リスクを抑えながら成長市場に投資する。一見すると完璧な戦略に思えますが、なぜ市場は手放しで評価せず、株価は調整しているのでしょうか。
その背景には、機関投資家たちが記憶しているイビデンの「過去の歴史」があります。泉田氏は、イビデンという会社の特徴について次のように指摘します。
「イビデンという会社は、積極的に設備投資するぞっていう局面が何回かあったんですけど、それが結構目論見とずれてたりとか、あとはマクロ環境の変化でうまくいかなかったっていうのを見てきているんで。今回株価も上昇して、もちろん需要が強いっていうのは分かるんですけども、大きな設備投資も発表されてるじゃないですか。なので、ちょっとよぎるものがある」
具体的には、過去に2度の大きな失敗がありました。
1度目は2008年。パソコン向け半導体の需要増を見込み、当時としては巨額の600億円を投じてマレーシアに新工場を建設しました。しかし、その直後に起きたのがリーマンショックです。
「2009年3月期の決算では半導体需要が一気に蒸発して、稼働を予定していた工場の計画も狂ってですね、結果として最終赤字に転落しちゃうんですよ」
2度目は2017年。スマートフォンの普及などに伴う需要増加を見込み、再びマレーシア等に巨額投資を行いました。しかし、市場の成長鈍化と競争激化によって工場の稼働率が低迷し、結果的に600億円の「減損損失(資産の価値を引き下げる会計処理)」という特別損失を計上することになりました。
2009年と2017年。約8年周期で繰り返された巨額投資と巨額損失の歴史。そして今回の5,000億円という投資は、過去の600億円とは文字通り「桁が違う」規模です。
過去の設備投資の際、株価はどのように動いたのでしょうか。泉田氏は2004年から2009年にかけてのチャートを振り返ります。
「設備投資してもうイケイケどんどんでいくぞっていうので、ここ株価ギューンと上がって、それ5,000円ぐらいまでいってますかね。その後、さっきのリーマンショックが来てっていう話で、これ600円台だったんじゃないかな」
5,000円から600円台への暴落。実に株価が8分の1、9分の1になるという凄まじい下落でした。
「これが僕のトラウマなんですよ。だからイビデンが設備投資する、株価がギューンって上がったってなると、これがフラッシュバックするんですね」
前受金をもらっているとはいえ、工場という固定資産を抱えるリスクはイビデン自身が負うことになります。
もしAIの技術的な転換点が訪れ、NVIDIAなどのチップが想定ほど売れなくなった場合、巨大な工場を維持する固定費が重くのしかかってくる危険性があるのです。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日