今年もいよいよ後半戦に突入し、夏のボーナスが支給されて家計が潤ったご家庭も多いのではないでしょうか。
手元のまとまったお金を前に、ふと「これからの家計」や「自分自身の老後」について考え始めた方も多いかもしれません。
実は筆者自身、最近になって5年にわたる実母の近居介護と看取りを終えたばかりです。母の年金は遺族年金などを合わせてもごく標準的な額でしたが、健康なうちはなんとか暮らせていました。
しかし認知症が進行し、通院や介護サービスが必要になると、あっという間に年金だけでは生活が成り立たなくなる現実を目の当たりにしました。
親の介護を通して痛感したのは、「自分の年金は結局いくらもらえるのか?」を現役時代からシビアに把握しておくことの重要性です。
参考までに、厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、国民年金の平均月額は約6万円、厚生年金は約15万円となっています。
本記事では、一つの目安として「平均年収600万円」で「40年間」会社員として勤務したモデルケースで、将来受け取れる年金額を計算します。
最新の家計調査データが示す「リタイア後のリアルな赤字額」とともに、手遅れにならないための備えを確認していきましょう。
1. 親の介護で消えた年金…「健康前提」の老後資金計画が危険な理由
老後資金の計画を立てる際、多くの方は「毎月の生活費がこれくらいだから、年金で足りるだろう」と健康な時の状態を前提にシミュレーションしがちです。
しかし、この「健康を前提とした計画」は、介護が始まった途端に脆くも崩れ去ってしまいます。
筆者の実母のケースでも、健康な時はごく標準的な年金収入で慎ましく生活できていました。
しかし認知症が進行してからは、日々の食費や光熱費に加えて、おむつなどの消耗品代、介護保険サービスの利用料、さらには通院のためのタクシー代など、それまで想定していなかった「見えない出費」が次々と発生しました。
実際に、生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査(2024年度)」によると、介護に要する費用の平均は、初期費用(住宅改修や介護用ベッドの購入など)が47.2万円、月々の費用が平均9.0万円となっています。
しかし、この「月額9.0万円」はあくまで全体の平均値に過ぎず、「どこで介護を受けるか」によって費用は大きく跳ね上がります。
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同調査のデータによれば、月額費用の平均は「在宅介護」で5.3万円であるのに対し、「施設介護」では13.8万円と、2倍以上の開きがあります。
さらに、特別養護老人ホーム(特養)などの公的施設に入れず、民間の有料老人ホームなどを選択した場合は、月額20万〜30万円以上の費用がかかることも決して珍しくありません。
介護期間の平均は4年7カ月(55.0カ月)であり、これが5年、10年と長期化すれば、介護費用の総額は数百万円から1000万円以上に膨らむこともあります。
つまり、老後の生活費は「日常の生活費」に「介護・医療のための予備費」を上乗せして考えておかなければ、いざという時に家計がショートしてしまうのです。
だからこそ、将来の自分を守るための第一歩として、ベースとなる「自分の年金がいくらもらえるのか」を現役時代から試算し、正確に把握しておくことが極めて重要になります。
1.1 ※見えない出費の注意点
おむつ代は自治体の助成制度を受けられる場合もありますが、要介護度などの条件や上限額があるため、不足分は自己負担となります。
また、通院タクシー代も条件を満たせば「医療費控除」の対象になりますが、そもそも年金収入のみで所得税がかからない世帯の場合、税金還付の恩恵は受けられず、実質的に全額持ち出しとなるわけです。
2. 私の厚生年金はいくら?まずは公的年金の「2階建て構造」をおさらい
自分の年金額を試算する前に、公的年金制度の基本を確認しておきましょう。
日本の公的年金制度は、国民年金を土台とし、その上に厚生年金が積み上がる2階建ての仕組みとなっています。
国民年金は国内に住む20歳以上60歳未満の人が加入対象で、加入者は次の3区分に分かれます。
- 第1号被保険者:自営業、学生、無職など
- 第2号被保険者:会社員、公務員
- 第3号被保険者:第2号被保険者に扶養されている配偶者
厚生年金を受け取れるのは、第2号被保険者として勤務していた会社員や公務員です。
次章では、平均年収600万円で40年間働いたケースをもとに、受給額を試算します。
3. 【厚生年金・モデル試算】平均年収600万円・40年勤務なら受給額はいくら?
ここでは、生涯平均年収600万円で民間企業に40年間勤めたケースを想定します。
第2号被保険者に該当するため、老後には国民年金と厚生年金の両方を受け取ることになります。
受給額を見積もるには、次の2つを計算します。
- 国民年金として受け取れる額
- 厚生年金として受け取れる額
まずは国民年金から確認します。
3.1 ステップ1:土台となる「国民年金」の受給額
国民年金は次の計算式で算出されます。
84万7296円 ×(保険料納付済み月数 ÷ 加入可能年数(12か月換算)) ※2026年度(令和8年度)の金額。昭和31年4月2日以後生まれの方が対象
保険料を40年間すべて納付した場合、納付済み月数は480カ月となるため、満額の年額84万7296円を受け取ることになります。
続いて厚生年金を計算します。
3.2 ステップ2:上乗せされる「厚生年金」の受給額
厚生年金は以下の式で算出されます。
- 年金額=報酬比例部分(※)+経過的加算+加給年金額
※報酬比例部分の内訳
報酬比例部分=A+B
- A(2003年3月までの加入期間):平均標準報酬月額×7.125/1000×同期間の加入月数
- B(2003年4月以降の加入期間):平均標準報酬額×5.481/1000×同期間の加入月数
今回は年金額の中心となる報酬比例部分のみを用い、経過的加算と加給年金額は含めません。
2003年4月以降の加入として計算するため、Bの式を使用します。
平均年収600万円の場合、単純計算した月収は50万円となります。
「50万円 × 5.481/1000 × 480カ月」で計算すると、報酬比例部分は年額131万5440円となります。
これに国民年金の84万7296円を加えると、年額216万2736円です。
12カ月で割ると月額は18万228円となります。
つまり、平均年収600万円で40年間勤務した会社員の場合、受け取れる年金額の目安は月額約18万円となります。
4. 【意外な盲点】年金は「額面=手取り」ではない。引かれる税金と社会保険料
前章で計算した「月額約18万円」という年金額ですが、実はこの金額がそのまま口座に振り込まれるわけではありません。
現役時代の給与と同じように、年金からも所得税や住民税、介護保険料や健康保険料などが天引きされます。
実際に、総務省の「家計調査報告(2025年平均)」を見ても、65歳以上の単身無職世帯では、年金などの実収入(約13.1万円)に対して毎月約1.3万円もの税金・社会保険料が差し引かれています。
65歳以上 単身無職世帯の家計収支(2025年)
- 実収入(主に社会保障給付など): 13万1456円
- 非消費支出(税金・社会保険料など): 1万2990円
- 可処分所得(手取り収入): 11万8466円
- 消費支出(生活費): 14万8445円
- 毎月の赤字額(差額分): 2万9980円
つまり、年金は額面の「およそ10〜15%程度」は手元に残らないと考えたほうが安全です。
前章のモデルケース(月額約18万円)であれば、実際の手取り額は「15万〜16万円前後」まで目減りする可能性が高い点には、十分な注意が必要です。
5. まとめ:生涯の介護費は「2,300万円」!? 元気なうちから老後の防御策を
夏のボーナスが支給され、少し家計にゆとりが生まれるこの時期は、ご自身の長期的なマネープランを見直すのに最適なタイミングです。
今回は「平均年収600万円で40年勤務」という、比較的恵まれたモデルケースで年金額を試算しましたが、それでも税金などを引かれた「手取り額」だけでは、毎月の平均的な生活費に不足が生じる実態が見えてきました。
筆者が母の看取りを通して強く感じたのは、「健康な時の資金シミュレーションは、介護や病気が始まるととたんに通用しなくなる」という事実です。
「LIFULL 介護」が2026年6月に発表した最新の試算データによると、老人ホームに入居した場合、生涯で必要となる介護費用は一人あたりおよそ「2300万円」にも上るとされています(在宅介護1年+有料老人ホーム5年を想定した場合の総額)。
しかし同調査では、親世代の約6割が「介護費用を備えていない」と回答しています。入居後に想定外の追加費用に苦しむ可能性もあるでしょう。
筆者が母の看取りを通して強く感じたのは、「健康な時の資金シミュレーションは、介護や病気が始まると途端に通用しなくなる」という事実です。
日々の生活費の赤字に加え、将来必ず訪れる何千万円規模の「医療費・介護費」への備えがなければ、老後の家計は簡単にショートしてしまいます。
日々の生活費の赤字に加え、将来必ず訪れる医療費や介護費への備えがなければ、老後の家計は簡単にショートします。
自分の年金見込額は、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認できます。
まずは自分の現在地を正しく把握し、不足分をどう補うか——長く働く、ボーナスの一部をNISAやiDeCoに回して計画的に資産形成をするなど、元気なうちから“自分ごと”として戦略を練り始めることが、将来の最大の防御になるでしょう。