食料品や日用品の値上げが相次ぎ、家計の負担を感じる場面が増える昨今。
帝国データバンクが公表した、6月の「食品主要195社」価格改定動向調査 によれば、今年の飲食料品の値上げはすでに1万品目を突破。
総務省の最新データ(2026年4月分)でも消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は前年同月比1.4%上昇しており、生活コストの増加が続いています。
こうした物価高が続くなか、老後の生活資金に不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
総務省の「家計調査報告(2025年)」によると、65歳以上の単身無職世帯では生活費が可処分所得を上回り、毎月約3万円の赤字が発生している実態が示されています。
不足分は貯蓄などで補う必要があり、シニア世帯の厳しい現実がうかがえるでしょう。
一方で厚生労働省によれば、高齢者世帯の43.4%が「収入のすべてを公的年金に依存している」と回答しており、多くの方にとって年金が老後の命綱であることが分かります。
では、その命綱である年金は十分な金額を受け取れるのでしょうか。本記事では、公的データを基に現在のシニア世代のリアルな年金事情を詳しく紐解いていきます。
1. 日本の公的年金制度「国民年金」と「厚生年金」の基本構造
日本の公的年金制度は、基礎部分となる「国民年金(基礎年金)」と、その上に加わる「厚生年金」の2種類で構成されています。
この仕組みは、一般的に「2階建て構造」と呼ばれています。
ここでは、それぞれの年金制度の基本的な内容を確認していきましょう。
【1階部分】国民年金(基礎年金)
- 加入対象:原則として日本に住む20歳から60歳未満のすべての人
- 保険料:保険料は一律ですが、年度ごとに改定されます(※1)
- 受給額:保険料を全期間(480カ月)納付した場合、65歳以降で満額の老齢基礎年金(※2)を受け取れます。未納期間がある場合は、その分が満額から差し引かれます
※1 国民年金保険料:2025年度月額は1万7510円
※2 国民年金(老齢基礎年金)の満額:2025年度月額は6万9308円
【2階部分】厚生年金
- 加入対象:会社員や公務員、またパートタイマーなど、特定適用事業所(※3)で働き一定の要件を満たす人が、国民年金に上乗せで加入します
- 保険料:収入に応じて決定されます(上限あり)(※4)
- 受給額:加入期間や納付した保険料によって個人差が生じます
2階部分にあたる厚生年金は、会社員や公務員が国民年金に加えて加入する制度です。
国民年金と厚生年金では、加入対象者や保険料の決定方法、受給額の計算方法などが異なります。
そのため、老後に受け取る年金額は、加入していた制度や現役時代の収入状況によって差が生まれます。
さらに、公的年金の支給額は物価や現役世代の賃金の動向に応じて毎年度見直される仕組みであることも、理解しておきたいポイントです。
※3 特定事業所:1年のうち6カ月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数が51人以上となることが見込まれる企業など
※4 厚生年金の保険料額:標準報酬月額(上限65万円)、標準賞与額(上限150万円)に保険料率をかけて計算される
2. 2026年度の年金額はいくら?厚生年金・国民年金のモデルケースを確認
公的年金の支給額は、物価や現役世代の賃金の動きを反映し、毎年度改定される仕組みになっています。
2026年1月23日、厚生労働省は2026年度(令和8年度)における年金額の目安を公表しました。
新年度の4月分から適用される改定率は、国民年金(基礎年金)で+1.9%、厚生年金(報酬比例部分)で+2.0%です。
- 国民年金(老齢基礎年金・満額):月額7万608円(1人分 ※1)
- 厚生年金(夫婦2人分のモデルケース):月額23万7279円(夫婦2人分※2)
※1 昭和31年4月1日以前に生まれた方の老齢基礎年金(満額1人分)は、月額6万9108円(前年度比+1300円)です。
※2 平均的な収入(賞与を含む月額換算で45万5000円)の男性が40年間就業した場合に受け取り始める年金額(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金満額)の給付水準です。
国民年金のみを受給する場合、保険料を全期間納付して満額(※3)であったとしても、月額は約7万円程度です。
また、受給開始を75歳まで遅らせる「繰下げ受給(※4)」を利用したとしても、月額は13万円に届かない水準となります。
※3 国民年金の保険料を40年間(480カ月)納付した場合に、65歳から受け取れる満額の年金額を指します。
※4 繰下げ受給とは、年金の受け取り開始を66歳から75歳までの間で遅らせる制度です。1カ月遅らせるごとに0.7%増額され、75歳開始では最大84%増額されます。
さらに、これらはあくまでモデルケースに基づいた金額にすぎません。
実際の受給額は現役時代の働き方や収入によって大きく異なるため、「ねんきんネット」などを活用して自身の見込み額を把握しておくことが重要です。
3. 厚生年金+国民年金の合算「額面ひと月15万円」を受け取れる人はどれほどいる?
厚生労働省年金局の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金受給者(男女全体)の平均月額は15万289円です。
なお、この金額には1階部分である国民年金(老齢基礎年金)の月額分も含まれています。
受給額ごとの人数分布は、以下のようになっています。
3.1 厚生年金の「受給額ごとの受給権者数」を見る
- 1万円未満:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
厚生年金の受給額が月15万円以上となっている人は、全体の49.8%であり、半数に達していないことがわかります。
さらに、厚生年金を受け取っていない人も含めて考えると、この割合はより一層低くなると考えられます。
3.2 忘れてはいけない「年金から天引きされるお金」の存在
ここで注意したいのは、上記で見てきた年金額はあくまで「額面」であるという点です。 現役時代の給与と同じように、年金からも税金や社会保険料が天引きされます。
具体的に天引きされる主な項目は以下の通りです。
- 介護保険料
- 国民健康保険料(または後期高齢者医療保険料)
- 所得税
- 住民税
つまり、額面で月15万円を受け取れる場合でも、これらの負担が差し引かれるため、口座に振り込まれる「手取り額」はさらに少なくなります。
「ねんきん定期便」などで将来の受給見込額を確認する際は、この「天引き」があることを念頭に置き、実際に手元に残る金額で老後の生活設計を立てることが重要です。
4. 60歳代単身世帯の半数が「年金だけでは生活が厳しい」と回答、その実態とは
前章で見たように、公的年金からは税金や社会保険料が天引きされるため、生活費として実際に使える「手取り額」は想像以上に少なくなってしまいます。
では、この限られた手元資金でやりくりをしている現在のシニア世代は、日々の生活に対してどのように感じているのでしょうか。
J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」から各種調査結果をまとめたデータを見ると、シニア世代の厳しい実態が浮かび上がります。
4.1 「年金でさほど不自由なく暮らせる」人はごく少数
60歳代および70歳代で、「年金でさほど不自由なく暮らせる」と回答した人の割合は、二人以上世帯・単身世帯のいずれにおいても8%~12%台にとどまっています。
4.2 「日常生活費もまかなうのが難しい」と感じる単身世帯が多い
「日常生活費程度もまかなうのが難しい」と回答した人は、二人以上世帯では26%~33%台ですが、単身世帯では60歳代で50.7%、70歳代で35.5%にのぼります。
4.3 ゆとりがない最大の理由は「物価上昇など」
年金生活にゆとりがないと感じる理由として、どの年代・世帯類型でも「物価上昇等」が最も多く、いずれも50%を超えています。次いで「医療費の個人負担増」や「年金支給額の切り下げ」などが挙げられました。
この結果から、多くのシニア世帯が物価高による家計への圧迫を強く感じており、年金収入だけでゆとりのある生活を送ることが難しくなっている状況がわかります。
5. 年金制度改正のポイント:「年収106万円の壁」見直しなど今後の動向
2025年6月13日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が参議院本会議で可決、成立しました。
この改正は、働き方や家族の形態、ライフスタイルの多様化に対応した年金制度を整備することを目的としています。
同時に、私的年金制度の拡充や所得再分配機能の強化を通じて、高齢期の生活の安定化を図ることも重要な狙いです。
ここでは、今回の改正の全体像を見ていきましょう。
5.1 年金制度の「主な改正内容」をチェック
社会保険の加入対象の拡大
- 中小企業で短時間勤務する人などが厚生年金や健康保険に加入しやすくなり、年金増額などの恩恵を受けられるようになります
在職老齢年金の見直し
- 年金を受け取りながら働くシニアが年金を減額されにくくなり、より多く就労できるようになります
遺族年金の見直し
- 遺族厚生年金の男女差をなくし、子どもが遺族基礎年金を受給しやすくなります
保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引き上げ
- 月収が一定額以上の人が、賃金に応じた年金保険料を負担し、現役時代の賃金に見合った年金を受給しやすくなります
その他の見直し
- 子どもの加算などの見直し、脱退一時金の見直し
- 私的年金の見直し:iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入可能年齢の上限引き上げなど
今回の改正内容からもわかるように、公的年金は単に「老後に受け取るお金」というだけでなく、現役時代の働き方やキャリアプラン、人生設計とも深く関わる制度といえるでしょう。
6. まとめ:物価上昇に備えるために
物価上昇が続く中、毎月の家計が赤字になり、生活にゆとりを持てないシニア世帯が増えているのが現実です。
物の値段が上がる時代には、預貯金の額面が変わらなくても、購入できるものが減ってしまうというリスクがあります。
また、2026年度(令和8年度)からは、働きながら年金を受け取る際の「在職老齢年金」の支給停止調整額が65万円に引き上げられました。
これにより、一定の給与収入があっても年金が減額されにくくなるため、シニア世代の就労における選択肢がさらに広がります。
これからは、長く働き続けることで収入を確保しつつ、蓄えの一部を「働かせる」という視点も欠かせません。NISAやiDeCoといった税制優遇制度の活用も視野に入れ、資産を守りながら育てる工夫を始めてみてはいかがでしょうか。
※当記事は再編集記事です。
参考資料
- 帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査 ― 2026年6月
- 総務省「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)4月分」(2026年5月22日公表)
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
- 日本年金機構「令和7年4月分からの年金額等について」
- J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
- LIMO「厚生年金と国民年金を合わせて「月15万円」を受け取れる人は全体の何パーセント?《2026年度の年金額例も紹介》」
マネー編集部年金班