「老後の貯蓄は、いったいどのくらいあれば安心できるのか」。
長年働いてようやく定年を迎えた頃、ふと手元の資金を振り返って不安そうな表情を浮かべる人は、少なくありません。
金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)〔二人以上世帯〕」によると、60歳代の貯蓄額は平均2683万円・中央値1400万円、70歳代は平均2416万円・中央値1178万円となりました。
年代が一つ上がるだけで、平均値はおよそ267万円縮んだ計算です。
そこで本記事では、60歳代世帯から70歳代世帯にかけて貯蓄額がどのように変わっていくのか、そして老後の家計を支える厚生年金の月額についても確認していきます。
1. 60歳代の貯蓄額(平均や金額のボリュームゾーン)
まずは金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)〔二人以上世帯〕」をもとに、60歳代・二人以上世帯の貯蓄状況(金融資産を保有していない世帯を含む)を見ていきましょう。
1.1 60歳代の二人以上世帯の貯蓄額
60歳代の二人以上世帯における貯蓄の平均は2683万円、中央値は1400万円となりました。
ボリュームゾーンに目を移すと、金融資産を保有していない世帯、いわゆる「貯蓄ゼロ世帯」が12.8%。一方で、2000万円以上を保有する世帯は39.6%にのぼっています。
「貯蓄ゼロ世帯」と「2000万円以上世帯」。同じ60歳代でも、世帯間の差が二極化していた様子がうかがえます。
退職金を受け取ったかどうか、現役時代に住宅ローンをどれだけ抱えていたかなど、世帯ごとの事情によって到達点が大きく分かれる年代といえそうです。
2. 70歳代の貯蓄額(平均や金額のボリュームゾーン)
続いて同じ調査から、70歳代・二人以上世帯の貯蓄状況(金融資産を保有していない世帯を含む)を確認していきます。
2.1 70歳代の二人以上世帯の貯蓄額
70歳代の二人以上世帯では、貯蓄の平均が2416万円、中央値は1178万円となりました。
金融資産を保有していない世帯は10.9%、2000万円以上を保有する世帯は37.5%。60歳代と比べて、平均・中央値ともに目減りしています。
70歳代になっても働いている人はいますが、収入の柱が公的年金中心に切り替わり、貯蓄の取り崩しがすでに始まっている世帯も少なくないと考えられます。
3. 60歳代世帯→70歳代世帯の貯蓄の特徴
ここまでの内容を踏まえ、60歳代世帯から70歳代世帯にかけての「平均」「中央値」「金融資産非保有率」「2000万円以上保有率」を整理します。
- 貯蓄平均:2683万円→2416万円
- 貯蓄中央値:1400万円→1178万円
- 金融資産非保有率:12.8%→10.9%
- 2000万円以上保有率:39.6%→37.5%
平均と中央値はいずれも70歳代で減少しています。一方で、金融資産非保有率はわずかに低く、2000万円以上を保有する世帯も比較的多く残っていた点は注目に値します。
同じ世帯を追い続けた調査ではなく、その時点でアンケートに答えた世帯の数字である点には注意が必要です。年代ごとの社会情勢や、退職金・住宅ローン完済の有無も反映されているため、単純な比較はできません。
ただし、70歳代になると貯蓄の取り崩しが進む可能性が高いことは、念頭に置いておきたいところです。「いつ・どのくらい使うのか」を早めにイメージしておくことが、老後の家計を整える第一歩になるでしょう。
4. 年金だけで生活することは困難なのか
現役時代を駆け抜けた分、定年後はゆったり過ごしたい。そう語っていた相談者は多くいました。
しかし収入が年金中心に切り替わってから、急な医療費や住まいの修繕費に頭を悩ませた、という声も少なくありませんでした。
実際のところ、年金だけで老後の暮らしはどこまで支えられるのでしょうか。
4.1 高齢者世帯の総所得に占める公的年金の割合は63.5%
厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」によると、高齢者世帯の総所得に占める公的年金・恩給の割合は63.5%となりました。
つまり高齢者世帯の家計は、平均すると6割強を公的年金が支えていた計算になります。
4.2 年金だけで100%生活できている高齢者世帯は43.4%
同じ調査から、公的年金・恩給が総所得に占める割合別の世帯構成を見ていきます。
- 100%の世帯:43.4%
- 80~100%未満の世帯:16.4%
- 60~80%未満の世帯:15.2%
- 40~60%未満の世帯:12.9%
- 20~40%未満の世帯:8.2%
- 20%未満の世帯:4.0%
「公的年金・恩給だけで生活している」とみられる世帯は43.4%。80%以上に範囲を広げると59.8%となり、約6割の世帯が暮らしの大半を公的年金で支えていました。
裏を返せば、4割近い世帯は年金以外の収入や貯蓄の取り崩しで家計を回していることになります。年金は老後の柱ではあるものの、それだけで安心という世帯ばかりではありません。
同調査では、生活意識を「苦しい」と答えた高齢者世帯の割合が55.8%となりました。前年(2023年)の59.0%からは改善したものの、依然として半数を超える世帯が家計の苦しさを感じている結果です。
5. 老齢年金「厚生年金」の平均月額はいくらか
老後の家計を支える公的年金は、現役時代の働き方によって受給額に大きな差が出ます。
厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとに、厚生年金の月額の実態を確認しましょう。
5.1 厚生年金(老齢厚生年金)の平均月額
厚生年金受給者全体の平均月額は15万289円となりました。なお、この金額には国民年金部分も含まれています。
国民年金のみの加入歴で老後を迎えた人と比較すると、現役時代に会社員や公務員として厚生年金に加入していた人は、月額にして10万円近い差が生じることもあります。同じ「老齢年金」でも、加入していた制度によって見える景色は大きく変わるのです。
5.2 厚生年金月額の個人差(受給額ごとの受給権者数)
厚生年金の受給額ごとの受給権者数は、次のようになりました。
- 1万円未満:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
5.3 5.3 月15万円以上を受給する人の割合は49.8%
受給額ごとの分布を見ると、月15万円以上を受け取っている人の割合は49.8%となりました。
裏を返せば、半数強は月15万円未満で老後を過ごしていることになります。「平均が15万円なら自分も同じくらい」と考えるのは早計です。現役時代の収入や加入期間によって、受給額の風景はずいぶん違って見えるものです。
6. 悠々自適な老後に向けて
ここまで、60歳代と70歳代の貯蓄額の違い、そして厚生年金の受給月額の実態を確認してきました。
平均額や中央値はあくまで参考の数字で、すべての世帯にそのまま当てはまるわけではありません。それでも、貯蓄の到達点と年金の目安を押さえておけば、老後の家計にどれほど不足が出そうかをイメージしやすくなります。
突発的な支出も含めて生活費をシミュレーションしてみると、自分の世帯に必要な備えがおのずと見えてきます。公的年金で足りない分を埋めるには、現役のうちから貯蓄を積み増す方法のほかに、iDeCoや個人年金保険など「自分だけの年金」を準備する選択肢もあります。
「我が家の老後は、どんな暮らしを描きたいか」。そんなテーマから家族で話し合う時間を、ぜひ一度持ってみてください。
参考資料
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」
- 厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」II 各種世帯の所得等の状況」
太田 彩子