6月に入り、多くの会社員が夏のボーナス支給日を迎えるなか、シニア世代やこれからの老後を控える現役世代にとっての大きな関心事は、いよいよ6月15日に初めて口座へ振り込まれる「2026年度の新しい年金額」ではないでしょうか。

総務省の消費者物価指数が高止まりするなか、生活防衛のために毎月の実質手取りがいくらになるかは切実な問題です。

今年度の公的年金は、物価や賃金の動向に合わせて国民年金(基礎部分)が「+1.9%」、厚生年金が「+2.0%」と、それぞれ引き上げられることが決定しました。

しかし、この増額改定によって、私たちの老後資金の不安はどの程度解消されるのでしょうか。現役時代の働き方や収入によって将来もらえる金額には大きな個人差があり、世間で一つの目安とされる「ひとりで月額15万円」のラインを突破できる人は、実は決して多数派ではないというシニアの現実も見えてきます。

本記事では、最新の受給額別データの分布をひも解きながら、現在のシニア層のふところ事情を解説します。

さらに、2025年に成立した法改正によるパートタイマーの社会保険加入義務化のロードマップと、私たちが今から取り組むべき対策についてもあわせて確認していきましょう。

1. 日本の公的年金制度の基本構造「国民年金」と「厚生年金」の2階建てとは

日本の公的年金制度は、基礎部分である「国民年金」と、その上乗せ部分である「厚生年金」で構成されており、一般的に「2階建て構造」といわれています。

ここでは、それぞれの年金制度の基本的な仕組みについて解説します。

1.1 公的年金の仕組み:国民年金と厚生年金の違い

1階部分:国民年金(基礎年金)の概要

  • 加入対象:日本国内に居住する20歳以上60歳未満のすべての人が加入対象です。
  • 保険料:保険料は定額で、年度ごとに見直されます(※1)
  • 受給額:保険料を480カ月(40年)すべて納付すると、65歳から満額の老齢基礎年金を受け取れます。未納期間がある場合は、その期間に応じて受給額が減額されます(※2)

※1 国民年金保険料:2026年度月額は1万7920円
※2 国民年金(老齢基礎年金)の満額:2026年度月額は7万608円

2階部分:厚生年金の概要

  • 加入対象:会社員や公務員のほか、一定の要件を満たすパートタイマーなどが国民年金に加えて加入します。
  • 保険料:保険料は収入(標準報酬月額・標準賞与額)に応じて決まり、上限が設定されています(※4)
  • 受給額:受給額は、加入期間や納付した保険料額によって個人ごとに異なります。

このように、厚生年金は国民年金の上乗せ部分として機能します。加入対象や保険料の算出方法、受給額の計算方法が国民年金とは異なるため、個人の働き方や収入によって将来受け取る年金額に差が生じます。

また、公的年金の額は、物価や現役世代の賃金変動率を基に毎年度改定される仕組みであることも理解しておくべき重要な点です。

※3 特定事業所:1年のうち6カ月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数が51人以上となることが見込まれる企業など
※4 厚生年金の保険料額:標準報酬月額(上限65万円)、標準賞与額(上限150万円)に保険料率をかけて計算される

2. 2026年度の年金額改定:国民年金は1.9%、厚生年金は2.0%の増額

公的年金の支給額は、毎年度、賃金や物価の変動に応じて見直されます。厚生労働省の発表によると、2026年度の年金額は、国民年金(老齢基礎年金)が前年度比で+1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が+2.0%となり、4年連続での増額改定です。

  • 国民年金(老齢基礎年金(満額)):7万608円(1人分 ※1
  • 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分※2

※1 昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金(満額1人分)は、月額7万408円(対前年度比+1300円)です。
※2 男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準です。

国民年金(老齢基礎年金)は、満額でも月額約7万円です。受給開始を75歳まで遅らせる「繰下げ受給」制度を利用した場合でも、月額は約13万円となり、単身世帯の平均的な支出をまかなうのは難しい状況です。

※3 国民年金(老齢基礎年金)の満額:国民年金保険料を480カ月納付した場合に、65歳から受け取れる年金額
※4 繰下げ受給:老齢年金の受給開始年齢を66歳~75歳までの間に後ろ倒しする制度。「繰下げ月数×0.7%」の増額率が適用され、75歳で受給開始した場合の増額率は84%。

3. 厚生年金の受給実態:月額15万円以上を受け取る人の割合は?

厚生労働省年金局が公表した『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によれば、厚生年金受給者の平均受給月額は15万289円です。この金額には、基礎年金である国民年金部分も含まれています。

受給額別の受給権者数は、以下の通りです。

3.1 【データ解説】厚生年金受給額別の人数分布

  • 1万円未満:4万3399人
  • 1万円以上~2万円未満:1万4137人
  • 2万円以上~3万円未満:3万5397人
  • 3万円以上~4万円未満:6万8210人
  • 4万円以上~5万円未満:7万6692人
  • 5万円以上~6万円未満:10万8447人
  • 6万円以上~7万円未満:31万5106人
  • 7万円以上~8万円未満:57万8950人
  • 8万円以上~9万円未満:80万2179人
  • 9万円以上~10万円未満:101万1457人
  • 10万円以上~11万円未満:111万2828人
  • 11万円以上~12万円未満:107万1485人
  • 12万円以上~13万円未満:97万9155人
  • 13万円以上~14万円未満:92万3506人
  • 14万円以上~15万円未満:92万9264人
  • 15万円以上~16万円未満:96万5035人
  • 16万円以上~17万円未満:100万1322人
  • 17万円以上~18万円未満:103万1951人
  • 18万円以上~19万円未満:102万6888人
  • 19万円以上~20万円未満:96万2615人
  • 20万円以上~21万円未満:85万3591人
  • 21万円以上~22万円未満:70万4633人
  • 22万円以上~23万円未満:52万3958人
  • 23万円以上~24万円未満:35万4人
  • 24万円以上~25万円未満:23万211人
  • 25万円以上~26万円未満:15万796人
  • 26万円以上~27万円未満:9万4667人
  • 27万円以上~28万円未満:5万5083人
  • 28万円以上~29万円未満:3万289人
  • 29万円以上~30万円未満:1万5158人
  • 30万円以上~:1万9283人

データを見ると、厚生年金を月額15万円以上受給している人の割合は49.8%と、全体の半数を下回っています。これは厚生年金受給者に限定したデータであり、厚生年金に加入していなかった人を含めると、この割合はさらに低下します。

4. 2025年成立「年金制度改正法」の要点:「年収106万円の壁」撤廃の動向

2025年6月13日に成立した「年金制度改正法」では、パートタイマーやアルバイトとして働く人々の社会保険加入に影響する、通称「年収106万円の壁」の撤廃に向けた改正が盛り込まれました。

4.1 パート・アルバイトの社会保険加入の目安「年収106万円の壁」を解説

「106万円の壁」とは、パートタイマーなどの短時間労働者の年収が106万円を超えると、社会保険(健康保険・厚生年金)の扶養を外れ、自身で保険料を納付する必要が生じる基準額を指します。

この基準額の存在が、保険料負担による手取り額の減少を避けるため、労働時間を調整する「働き控え」の一因と指摘されてきました。

社会保険の適用対象となる企業規模は段階的に拡大されており、2024年10月からは従業員数「51人以上」の事業所が対象です。

今回の法改正により、「3年以内の賃金要件の撤廃」と「10年をかけた企業規模要件の段階的な撤廃」が決定しました。

4.2 短時間労働者の社会保険加入要件はどう変わるのか

法改正前の短時間労働者が社会保険に加入するには、以下の5つの要件をすべて満たす必要がありました。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上
  2. 2か月を超える雇用の見込みがある
  3. 学生ではない
  4. 所定内賃金が月額8万8000円以上(賃金要件)
  5. 従業員数51人以上の企業で働いている(企業規模要件)

今回の法改正で、上記のうち4番目の「賃金要件」と5番目の「企業規模要件」が撤廃されることになります。

「106万円の壁」の根拠となる賃金要件は、全国の最低賃金の動向を考慮しつつ3年以内に廃止される方針です。また、企業規模要件は10年かけて段階的に撤廃されます。

5. 年金増額を好機に。将来の手取り額を逆算して始めるこれからの資産形成

6月15日の最初の支給日を前に、日本年金機構からは『年金額改定通知書』や『年金振込通知書』といった重要なハガキが順次届きます。

額面の引き上げ率だけに目を奪われるのではなく、ご自身が将来、あるいは現在いくらの手取りを確保できているのかを正確に把握することが、生活設計の第一歩です。

データが示す通り、ひとりで「月額15万円」をクリアできる割合は限られており、公的制度だけに老後のすべてを委ねるのにはリスクが伴います。

また、現在パートなどで働いている方にとっては、106万円の壁撤廃という大きな制度の転換期を迎えるからこそ、目先の手取りの減少を恐れるだけでなく、将来の年金受給額を手厚くするためのチャンスとして働き方を見直す視点も求められます。

まずは今月届くハガキを捨てずに開封し、「我が家の将来の年金見込み額」をテーブルに並べて確認する時間を作ってみてください。

制度の変化に翻弄されないよう、NISAや私的年金の活用も含めた具体的な一歩を、この機会にぜひ踏み出してみましょう。

※当記事は再編集記事です。

参考資料