米中冷戦がいよいよ本格化してきましたが、冷戦自体の影響よりも何が起きるのかわからないという恐怖心の方が遥かに経済に悪そうだ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は心配しています。
米中ともに譲れない「冷戦」が本格化
米国は、中国の台頭を押さえ込むために、なり振り構わない行動を採り始めました。これまでの中国は、時間稼ぎを試みていたようですが、米国がそれを許さない姿勢を示したことで、中国も報復に出始めたようです。
トランプ大統領は選挙を気にして中国からの譲歩を引き出そうとするでしょうが、議会はそれよりも米中の覇権争いに勝つことを優先して考えているようですから、簡単には妥協しないでしょう。
一方の中国も、メンツの国ですから妥協は難しいでしょうし、妥協すると国内の政治闘争が激化して指導部の権力が揺るぎかねないとも言われていますから、こちらも妥協は難しそうです。
こうなると、最終的にどこまで行くのか、全く見当がつかなくなります。可能性は小さいとは思いますが、極端な場合には米中断絶まであり得るわけです。米中関係が冷戦時代の米ソ関係のようになる、というわけです。
それも、時間をかけて冷戦状態に変化していくならば対応可能でしょうが、比較的短期間で冷戦状態に突入するとなると、世界経済は大混乱しそうです。
米中貿易戦争自体の世界経済への影響は軽微
米中が互いに関税を掛け合うと、二国間の貿易は減り、両国の経済は打撃を受けるでしょう。「覇権争いのためなら、多少の犠牲は仕方ない。ミサイルを撃ち合うよりは遥かにマシだ」といったイメージでしょうか。
しかし、世界経済への影響という点では、影響は比較的軽微なはずです。米国が中国から輸入していたものは、他国(以下ではベトナム等と記します)から輸入するでしょうから、中国の景気が悪化した分はベトナム等の景気が良くなり、世界の景気には影響がないはずだからです。
中国だけが特別に得意な品目があるとすれば、その品目については、ベトナム等で作るとコストが何倍もかかる、といった可能性はありますが、そうした場合には引き続き中国から関税を払って輸入すれば良いのです。関税分だけ景気が悪化するかも知れませんが、その場合には米国政府が関税収入を用いて景気対策を実施すれば良いでしょう。
中国が米国から輸入しているものについても同様です。こちらは「米国から輸入しないといけないので、関税を支払う」部分が大きいかもしれませんが。
長期的には、冷戦時代のような状態に少しずつ近づいて行くかもしれませんが、その場合には中国の工場を閉じてベトナム等に工場を建てる企業が増えるだけですから、世界経済への影響は限定的でしょう。
もちろん、ある日突然米中が断絶して、米国等の企業が一斉に中国から撤退するといった可能性も皆無ではありません。その場合には、ベトナム等の工場が建ち上がるまでの間、世界経済は大混乱するかもしれません。ただ、米国も中国も、さすがにそこまではやらないと信じています。
ちなみに、日本にとっては、漁夫の利が得られるチャンスかもしれません。中国が米国から輸入していたものの一部を日本から輸入するかもしれないからです。
加えて、資源を大量に消費している中国の経済が減速すれば、世界的な資源価格が値下がりして日本経済には恩恵となるかもしれません。
「景気は気から」なので、恐怖心が恐ろしい
問題は、人々が「何が起きるのかわからないから、様子を見よう」と考えて、株式投資や設備投資等を見合わせてしまう可能性です。株価はすでに下落していますが、より深刻な問題は設備投資でしょう。