雨が続き本格的に台風も増えてきました。足元も滑りやすくなり、筆者もよく転びそうになります。
特にご高齢の方は骨折する危険もありますので十分に注意しましょう。
筆者の母は70歳を超えています。現在も仕事を現役でしながら年金との両立で生計を立てています。
仕事をする上で重要な位置づけのひとつに「雇用保険」があります。
名前はわかるけれど、どういう制度か具体的に知っている人は少ないかもしれません。
今回はシニア世代の雇用保険関連と老齢年金に上乗せされる公的給付金について紹介していきます。
1. 「申請」が必須!意外と知られていない公的な給付金制度
老齢・障害・遺族年金といった公的な制度は、暮らしの大きな支えになります。ただ、受給資格があるからといって、自動的に支給が始まるわけではないので注意が必要です。
受け取りをスタートさせるには、必ず自分自身で「年金請求書」を出して、請求手続きを行わなければなりません。
国や自治体の給付金や補助金もこれと同じで、基本的には「申請」がセットになっています。
万が一、期限に間に合わなかったり書類が不足したりすると、受給額が減る、あるいは受け取れなくなるといった不利益が生じる可能性もあります。
せっかくの支援を賢く利用するためにも、まずは自分が対象となる制度を正しく理解し、確実に手続きを完了させるようにしましょう。
2. 老齢年金に上乗せできる!申請が必要な2つの制度
老齢年金を受給している方が一定の要件を満たす場合に、本来の年金にプラスして受け取れる2つの制度について解説します。
2.1 1. 年金版の家族手当「加給年金」とは
「加給年金」は、厚生年金に20年以上加入していた方が65歳になった際、生計を維持している「年下の配偶者」や「子ども」がいる場合に加算される制度です。
いわば、年金版の「家族手当」のような役割を持っています。
以下の条件を満たしており、「65歳未満の配偶者」または「18歳到達年度の末日までの間の子、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子」がいる場合、年金に上乗せされます。
加給年金を受け取るための条件
- 厚生年金加入期間が20年(※)以上ある人:65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)
- 65歳到達後(もしくは定額部分支給開始年齢に到達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった人:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)
(※)または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年
それぞれ、上記で示したタイミングで、「65歳未満の配偶者」または「18歳到達年度の末日までの間の子、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子」がいる場合、年金に上乗せされます。
ただし、配偶者が老齢厚生年金(被保険者期間が20年以上あるもの)、退職共済年金(組合員期間が20年以上あるもの)を受給する権利がある場合、または障害厚生年金、障害基礎年金、障害共済年金などを受給している場合、配偶者加給年金額は支給停止されます。
2026年度の加給年金の金額はいくら?
「加給年金」の年金額(2026年度の年額)は以下のとおりです。
- 配偶者:24万3800円
- 1人目・2人目の子:各24万3800円
- 3人目以降の子:各8万1300円
なお、老齢厚生年金を受給中の人の生年月日により、配偶者の加給年金額に3万6000円から17万9900円の特別加算額が支払われます。
加給年金終了後に引き継がれる「振替加算」について
配偶者が65歳になると加給年金は終了しますが、一定の要件を満たせば、今度は配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」という形で一定額が引き継がれます。
2.2 2. 所得が一定基準以下の場合の「老齢年金生活者支援給付金」
「老齢年金生活者支援給付金」は、老齢基礎年金を受給している方のうち、所得や世帯収入が一定基準以下の場合に、生活の底上げを目的として支給されるものです。
年金本体とは別の法律に基づいて支給される「給付金」という位置づけになります。
老齢年金生活者支援給付金を受け取るための条件
- 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
- 同一世帯の全員が市町村民税非課税
- 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下(※2)である
※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれない
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で80万9000円を超え90万9000円以下である方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下である方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される
老齢年金生活者支援給付金の基準額
2026年度、老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は月額5620円で、前年度より3.2%増額されました。
この基準額をもとにして、保険料納付状況等により給付金額が算出されます(下記①と②の合計額)。
給付額はどのように計算される?
- ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480カ月
- ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1768円× 保険料免除期間 / 被保険者月数480カ月
※保険料免除期間に乗ずる金額は、毎年度の老齢基礎年金の額の改定に応じて変わります。
3. 働くシニア世代を支える雇用保険関連の給付金3選
60歳以降も働き続けるシニアが増えている一方で、現実問題として「60歳を境に収入が大きく下がる」ケースは珍しくありません(※)。また、若い頃と違って再就職活動がスムーズに進まないこともあるでしょう。
そんなシニア世代の就労を力強くサポートしてくれるのが、雇用保険の制度です。今回は、知っておきたい「3つの給付金・手当」について、もらえる条件や金額の目安をわかりやすく解説します。
※国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」による年齢階層別の平均給与:50歳代後半男性735万円、女性356万円、60歳代前半男性604万円・女性294万円、60歳代後半男性472万円・女性240万円
3.1 1. 65歳未満の早期再就職を支援する「再就職手当」
再就職手当は、早期の再就職を促進するための手当で、「失業~再就職」「失業~事業開始」までの期間が短いほど、支給額が多くなります。
再就職手当を受け取るための条件
- 対象者:雇用保険受給資格者で基本手当の受給資格がある人
- 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者となる、または事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給
再就職手当の給付率と計算方法
- 手当の額:就職等をする前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数により下記のとおり給付率が異なります。(1円未満の端数は切り捨て)
- 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の60%」
- 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の70%」
再就職手当をもらって再就職先で6カ月以上雇用され、その6カ月間の賃金が「前の職場より下がってしまった」という場合には、さらに「就業促進定着手当」というサポートを受けられる可能性があります。
3.2 2. 60歳代前半で給与が下がった場合の「高年齢雇用継続給付」
高年齢雇用継続給付は、「60歳以降も同じ会社などで働き続けるけれど、給与が大きく下がってしまった」という人を経済的にカバーするための給付金です。
高年齢雇用継続給付を受け取るための条件
- 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
- 支給条件:賃金が60歳時到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合
高年齢雇用継続給付の支給率について
- 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は15%
老齢年金を受給しながら、厚生年金に加入して「高年齢雇用継続給付」を受け取る場合、在職による年金の支給停止に加え、最大で標準報酬月額の4%(※)に相当する金額が支給停止となる点に留意しておく必要があります。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は6%
3.3 3. 65歳以上で失業した際の「高年齢求職者給付金」
65歳以上で退職・失業した場合、通常の失業手当の代わりに受け取れる給付金です。
高年齢求職者給付金を受け取るための条件
- 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
- 支給要件:下記の全ての要件を満たした人
- 離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上ある
- 失業の状態にある:離職し「就職したいという積極的な意思といつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境など)があり積極的に求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態」を指す
高年齢求職者給付金の支給額
- 支給額
- 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
- 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額
なお、65歳未満が受け取る「失業手当」は4週間に1回ずつ認定を受けて少しずつ受け取りますが、この高年齢求職者給付金は「一括支給」というのが大きな特徴です。
4. 働き方の多様化に対応する年金制度改正の概要
2025年6月13日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が衆議院で修正のうえ可決され、年金制度改正法が成立しました。
働き方や男女の差等に中立的で、ライフスタイルや家族構成等の多様化を踏まえた年金制度を構築するとともに、私的年金制度の拡充や所得再分配機能の強化などによって、老後の暮らしの安定や、所得保障機能の強化に繋げていくことが主な狙いです。
今回の改正の主な見直しポイントを整理していきましょう。
4.1 今回の年金制度改正における主な変更点
社会保険の加入対象の拡大
- 短時間労働者の加入要件(賃金要件・企業規模要件)の見直し(年収「106万円の壁」撤廃へ)
在職老齢年金の見直し
- 支給停止調整額「月65万円」へ大幅緩和(2025年度は月51万円)
遺族年金の見直し
- 遺族厚生年金の男女差を解消
- 子どもが遺族基礎年金を受給しやすくする
保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引き上げ
- 標準報酬月額の上限を、月65万円→75万円へ段階的に引き上げ
私的年金制度
- iDeCo加入年齢の上限引き上げ(3年以内に実施)
- 企業型DCの拠出限度額の拡充(3年以内に実施)
- 企業年金の運用の見える化(5年以内に実施)
将来の基礎年金の給付水準の底上げ
- 今後の社会経済情勢を見極めた上で、基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合に、基礎年金と厚生年金のマクロ経済スライドを同時に終了させる措置を講じる
こうした内容からも、公的年金制度は現役世代の働き方やライフプランと深い関わりを持っていることが分かります。
5. まとめ:もらえるお金を正しく算出し、退職前後のキャッシュフローを確定させよう
日本の社会保障制度は、自ら情報を得て所定の期日までに申告した人にのみ給付を行う仕組みが基本となっています。
「手続きが複雑そうだから」「役所から案内が来ないから対象外だろう」といった自己判断は、本来受け取れるはずの老後資金を失う要因になります。
一年の後半が始まるこの7月上旬、退職前後の収入の空白期間を作らないために、まずは以下の3つのステップを実行に移してください。
- 自身の「ねんきん定期便」を開き、配偶者との『年齢差と厚生年金の加入期間(自分が20年以上あるか等)』を確認する(加給年金の受給資格を判定するための必須作業です)
- 60歳以降も再雇用や転職で働く場合、ハローワークで「高年齢雇用継続給付」や「再就職手当」の支給対象になるかを試算してもらう(退職日や再就職日のわずかなズレで給付額がゼロになる事態を防ぐため)
- 年金事務所の窓口へ行く前に、年金と雇用保険給付の「相殺(併給調整)」について質問事項をメモにまとめる(行政の縦割り構造上、こちらから質問しないとハローワーク側の給付との調整額は試算されないのが通常のため)
公的な支援制度を正しく理解し、もれなく手続きを行うことは、インフレ時代における確実な生活防衛策です。ご自身のこれまでの職歴と正当な権利を洗い出し、計画的なセカンドライフの基盤を構築していきましょう。
今回はシニア世代の雇用保険関連と老齢年金に上乗せされる公的給付金について紹介していきます。
6. 【監修者のコメント】この記事の総括とこれからの実務上の注意点
シニア向けの公的給付において実務上もっとも注意すべきは、管轄の異なる『年金』と『雇用保険』を同時に受け取る際に発生する併給調整ルールです。
たとえば60代前半で高年齢雇用継続給付を受給すると、それと連動して老齢厚生年金が最大で標準報酬月額の6%相当分、支給停止となります。
年金事務所の窓口でハローワーク管轄の給付メリットまで横断的に案内されることはまずありません。
だからこそ定年前後の手続きでは、自身の『ねんきん定期便』と『雇用保険被保険者証』を机に並べ、両者の相殺関係を自らシミュレーションする視点が不可欠です。
目先の給付金額だけに飛びつかず、世帯全体の総キャッシュフローで損益を計算した上で申請ルートを選択してください。
参考資料
- 日本年金機構「初めて老齢年金を請求するとき」
- 日本年金機構「初めて老齢年金を請求するとき」年金請求書(国民年金・厚生年金保険 老齢給付)様式第101号
- 日本年金機構「か行 加給年金額」
- 日本年金機構「加給年金額と振替加算」
- 厚生労働省「年金生活者支援給付金制度について」
- 日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「Q&A~高年齢雇用継続給付~」
- 厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
- 厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
- 日本年金機構「年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整」
- 厚生労働省「再就職手当のご案内」
- 厚生労働省「離職されたみなさまへ<高年齢求職者給付金のご案内>」
- 国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
渡邉 珠紀