死をテーマにしたことには、どうしてもマイナスのイメージがつきまといます。それは「人は生まれてきた限り、強く生きなければならない。死ぬことなんて考えてはいけない」という考えが、社会に根付いているからかもしれません。
1993年に太田出版から発行され、100万部以上を売り上げた『完全自殺マニュアル』(出版社:太田出版、著者:鶴見済)という本があります。
「自殺の取り扱い説明書」というタイトル通り、この本の中には、さまざまな自殺の種類とその方法が記載されています。ワイドショーやメディアで批判され、一部では有害図書にも指定されました。しかし、評論家や10~20代の若者の中には肯定的に受け止めている人も多かったようです。
これは本書が死をタブーなものとせず、死を考えながら生きることを肯定しているからです。
「メメント・モリ」という言葉の本当の意味
「メメント・モリ」という言葉を、どこかで聞いたことがありませんか?
本のタイトルや歌の題名にも使われ、近年ではゲームやアニメ内などにも使われるようになったこの言葉は、ラテン語で「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」「死を思え」という意味を持ちます。
こう書くと死に対する畏れや警告のように思え、実際に一部の宗教においては、「死に思いを馳せることで、現世で得た贅沢や手柄などの楽しみが空虚なものになる」という、死におけるマイナスの要素を強く意味しています。
しかし、この言葉が生まれた当初の意味は「いつか死ぬのだから、今を楽しめ」という、死に向かうことすらプラスに考えるアドバイスでした。
死をそのまま悲しいことと捉えるのではなく、「死があるからこそ今の生を謳歌しよう」という考え方は昔から存在していたと言えます。
死を知ることは生への希望になる
大切な家族や友人、関わりのあった人を亡くすことは誰でも悲しいものでしょう。
「隣にいる大切な人が死ぬなんて、ぜったいに嫌だ」そんなことを思う人もいるかもしれません。
しかし、人には寿命があります。そして、いったいいつまで生きられるのか、それを明確に知ることは誰にも、本人にすらできません。それならば、やがてやってくる死をどのように迎えたいかを考えて、それまでにどんな風に生きるのが自分にとって一番大切なことかを考えた方がいいのではないでしょうか。
死というテーマを入り口にしていても、その先に繋がるのはそれぞれの生なのです。改めて自分の生と死、そして人生について向き合い、考えてみてはいかがでしょうか。
【参考】
「平成29年度 自殺対策白書」厚生労働省
『二十歳の原点』(新潮文庫)
高野 悦子 著
520円(税抜き)
『卒業式まで死にません』(新潮文庫)
南条 あや 著
550円(税抜き)
竹橋 彩