1.1 コンセンサスとの乖離が株価下落の圧力に
とはいえ、映画事業に当たり外れがあることは市場も承知のはずです。では、なぜここまで株価が下落しているのでしょうか。
泉田氏は、機関投資家や証券アナリストが形成する「市場の期待値(コンセンサス)」とのギャップに注目します。
【元機関投資家が動画で解説】東宝、大ヒットで過去最高益を叩き出すも株価下落
証券アナリストたちの業績予想の平均値である「iFISコンセンサス」を見ると、決算発表直前の段階で、東宝の次期経常利益は約764億円と予想されていました。
しかし、会社が実際に発表した予想は670億円です。ここには約94億円ものネガティブなギャップが存在していました。
泉田氏はこの状況について、プロの投資家の心理を次のように代弁します。
「会社予想よりもコンセンサスを信じて株を持ってた機関投資家も多いと思うんで、そうすると『なんだこの数字かよ』って思って1回売る人っていうのが出てきちゃうね」
株価は常に、市場の期待を織り込んで形成されます。高い業績を期待して買われていた株が、その期待を裏切る数字を出せば、失望売りにつながるのは市場のメカニズムです。
「コンセンサスが会社予想に近づくまでは株価は下がります」
会社が業績予想を上方修正するか、あるいはアナリストたちが自らの予想を会社側の数字まで引き下げるか。両者の目線が一致するまでは、株価の調整局面が続く可能性が高いと泉田氏は指摘します。
2. 投資ホライズンで変わる判断:短期の失望か、長期の買い場か
ここでインタビュワーのウリちゃんから、「コンセンサスが高い時に買ってしまった人は、そのまま持ち続けるという選択肢もあるのか?」という疑問が投げかけられました。
これに対し泉田氏は、投資家それぞれの「投資ホライズン(投資期間)」によって判断は大きく異なると解説します。
四半期や1年といった短いスパンでリターンを求める投資家にとっては、今回の決算は間違いなく売り材料です。しかし、3年、5年という長期目線で企業価値を評価する投資家にとっては、見え方が変わってきます。
「ロングタームで東宝がいい会社で、しっかり利益を積み上げていくっていう風に信じるんであれば、絶好の買い場っていう見方もできる」
東宝は赤字に転落したわけではなく、あくまで「減益」の予想を出したに過ぎません。同社が注力しているIP(知的財産)やアニメ事業が将来的に大きな収益を生むと確信できるのであれば、一時的な株価下落はむしろ買い増しのチャンスと捉えることも理論上は可能です。
ただし、泉田氏は同時に「確固たるものがないと、なかなかこういう足場だと買い増していくっていうのはちょっと難しい」とも付け加えています。
明確な論拠と長期的な確信がなければ、下落トレンドの中でリスクを取ることは容易ではありません。株式投資においては、自らの投資期間とリスク許容度を冷静に見極める「自己責任」のスタンスが不可欠です。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日