米中貿易摩擦の影響で、薄型テレビ市場が混乱に陥っている。現在はまだ従来どおりの税率に据え置かれ、米国による追加関税の発動という最悪のケースは免れているが、これまで数度にわたって引き上げを予告してきたため、例年にない出荷ペースが過剰在庫を招いている。例年ならクリスマス商戦や年末商戦に向けて薄型テレビ、そこに搭載されるディスプレーの需要は盛り上がっていくが、2019年は下期に需要が低迷する「異例の年」になりそうだ。
北米市場は想定から大幅に上ぶれ
調査会社IHS Markitの調べによると、2019年1~3月期の全世界の薄型テレビの出荷台数は前年同期比2%増の5178万台となり、当初の想定を上回った。この背景にあるのが米中の貿易摩擦。19年3月末までに米国が中国製品に追加関税をかける見通しがあったため、中国ブランドが米国への輸出を前半大幅に前倒ししたことが要因だ。
なかでも、世界第2位の市場である北米は前年同期比30%増と大幅に伸び、当初見込みから200万台以上も上ぶれした。4~6月期も前年同期比で2割強増え、200万台程度上ぶれそうだといい、かつてない動きになっている。
一方で、1~3月期の中国市場は需要が弱く、前年同期比7%減だった。販売価格を下げて、何とか7%減にとどまったという印象で、4~6月期以降も需要が弱い状態が続き、良くても横ばい、年間では前年割れする見通しとなっている。
在庫過剰で安値販売が恒常化
こうした状況により、北米市場では在庫が積み上がってしまっており、液晶パネル価格の下落もあってセット価格が下がり続け、ブラックフライデー並みの安値販売が繰り広げられている。中国テレビ大手のTCL製の65インチ4K液晶テレビは年初から499ドルで販売されている。他のサイズも同様で、32インチは130ドル以下、55インチは349ドル、75インチは999ドルとなり、7月時点でさらに値下がりしている。これはもちろん、他のブランドの価格にも影響している。
ブランド別にみると、全世界の19年1~3月期実績ベースでTCLが前年同期比40%増、ハイセンスが19%増、中国で国内シェア1位になったシャオミーが112%増、中国2位のスカイワースが18%増と、中国ブランドが軒並み出荷を大きく増やした。TCLは北米市場でサムスンを抜いて初の首位に立った。これに対して、サムスンは1%増、LGは1%減と韓国勢は冴えず、日本勢もマイナスだった。
このように、北米での上期出荷が強すぎたため、下期は調整が入らざるを得ず、例年なら需要が伸びる11~12月も低調になる見通しで、19年は「上期偏重」という異例の年になる。現在のところIHS Markitでは、19年の全世界出荷台数は18年比1%増の2億2333万台と予測している。大幅な価格下落によって、台数が若干上ぶれする見込みという。
価格差が開き、有機ELは苦戦
こうした状況下で懸念されるのが、高価格帯のプレミアムテレビの売れ行き、つまり日本や西欧でハイエンドテレビとして受け入れられている有機ELテレビへの影響である。
液晶テレビの価格がここまで下がると、有機ELテレビとの価格差が開きすぎた結果、売れにくくなる。液晶テレビと有機ELテレビの価格差は日本だと2倍程度だが、北米では3倍以上になってしまった。「大型&低価格」が好まれる中国と北米では有機ELテレビのシェアはもともと低いが、世界第1位&第2位の市場で今後の伸びは限られてしまう。
また、テレビ用の有機ELパネルがLGディスプレー(LGD)の1社供給であるため、パネル価格がほとんど下がっていないことも、液晶に対する価格競争力を弱める要因となっている。LGDも液晶パネル事業の収益が厳しいため、有機ELパネルを値下げできないという側面もあり、そう簡単に価格差を埋められそうにない。
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏