AI時代に突入し、「人間の仕事がAIに奪われる」といった話題をあちこちで耳にするようになりました。我が子の将来を案ずる親御さんも多いのではないでしょうか。「AIに使われる」のではなく「AIを使う・生み出す」側の人間へと育てるためにはどんな子育てをすべきか、42万部ヒットの書籍『学びを結果に変える アウトプット大全』の著者であり精神科医の樺沢紫苑氏にその秘訣をお聞きしました。

養うべきは「好奇心」と「集中力」

テクノロジーとうまく共存し、AI時代を生き抜くには、機械には備わっていない人間ならではの能力を伸ばしていく必要があります。人間ならではの能力とは、「1から100」ではなく「0から1」を生むイノベーションの力。そのために重要なのは、幼少期に2つのポイントを意識して接してあげることです。

1つは「好奇心」の養成。好奇心はイノベーションの源ですが、AIには好奇心がありません。私たち人間の興味関心を分析するのがAIの役割です。子どもが「なぜ?」と聞いてきたら、必ず応えてあげましょう。「いま忙しいから」「ご飯をつくっているから」と後まわしにしてはいけません。

もう1つは「集中力」。集中力が15分以上持続する子どもは、自分の頭で考えることができ勉強が得意であることが多いです。なぜなら、人がなにかに集中すると脳内にはドーパミンが分泌され、やる気や記憶力がアップするから。子どもが集中してなにかをしているときは静かに見守り、「ご飯だから」などと中断させないこと。私の研究によれば、人間の集中力は15分・45分・90分単位で切れるので、飽きそうなタイミングを見計らって声をかけるといいでしょう。

就学前の子どもに体験させてあげたいこと

子どもの好奇心と集中力を養うために、まず欠かせないのは「運動」。意外に思われるかもしれませんが、運動は脳を活性化させ、認知能力や思考力の向上、ドーパミンの分泌などを促します。効果的なのは、鬼ごっこやボール遊びなど20〜30分の有酸素運動。最近スタンディングデスクが流行っていますが、発達障がいの子どもにスタンディングデスクを使わせたところ集中力が持続したという例もあります。

また、子どもがなにかに興味を抱いたら全力で応援すること。好きなことに一心不乱に熱中する時間を意識的につくってあげることが大切です。興味のありそうなことを探すために習いごとをさせるのはいいですが、多くてもせいぜい3つまで。それ以上やらせると逆に集中力低下を招きかねませんし、嫌々やることで海馬が萎縮し、脳の発達を妨げる恐れもあります。

本人が楽しんでやっているかを見極め、楽しんでいるようなら続けさせてあげましょう。できなかったことができるようになったら成長を褒め、承認欲求を満たしてあげてください。小学校入学前くらいまでに「学ぶことは楽しい」という思考回路を養うことができれば、その後の成長にもいい影響を及ぼします。

家庭でもアウトプットのトレーニングを

就学後に力を入れるべきは「アウトプット」。インプットはAIにかないませんが、「考えを話す・書く」「アイデアを出す」といった0から1のアウトプットは、AIには当面できないとされています。

日本の学校教育によくある「○○を覚えましょう」というやり方は、インプット型の勉強。そうではなく、ディベートやグループワークなどのアクティブ・ラーニング(一方的な講義形式ではなく、生徒が能動的に授業に参加する学習法)を通じてアウトプットのトレーニングをすることが重要です。

最近では学校のプログラムも徐々に改良されてきていますが、家庭でも意識して接してあげるとアウトプット力は格段に高まります。一緒にアニメを観て「どのシーンがよかった?」「どう思った?」と問いかけたり、趣味や遊びの中でも、自ら目標設定や課題解決ができるように導いてあげるといいでしょう。

近年は、アメリカ発祥の「STEAM教育」が日本でも注目され始めています。STEAMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(ものづくり)、Art(芸術)、Mathematics(数学)からなる造語。これら5領域の教育を重視し、テクノロジーを生み出し活用する人材を育てようとする教育方針です。科学的思考と芸術的感性で新しい価値を生み出す力は、まさにこれからのAI時代になくてはならない能力といえるでしょう。

スマホやゲームはやらせてもいい?