2. 「投資の民主化」という建前と本音がある?
機関投資家の資金が限界に達する中、業界が新たな資金源として狙いを定めているのが、一般市民の退職金や年金です。
アメリカでは、401k(企業型確定拠出年金)やIRA(個人型確定拠出年金)といった個人の退職金口座でプライベートクレジットを買えるようにする動きが急ピッチで進んでいます。
インタビュワーが、プロしか買えなかった高利回り商品が一般層にも開放されるのは良いことではないかと尋ねると、泉田氏はある思惑を指摘します。
「今まで機関投資家、限られたお金を持った限られた人しかアクセスできなかったものを、より一般に公開することによって、さらに新しいお金を集めてくるというのが『投資の民主化』になります」
「投資の民主化」という言葉は、かつて機関投資家向けだったインデックスファンドが個人に普及した際にも使われました。しかし、泉田氏はインデックスファンドとプライベートクレジットでは「決定的な違い」があると警鐘を鳴らします。
「インデックスファンドが投資しているのは基本、上場企業なんでいろんな人の目があってインデックスに入る、入らないというのが決まっています。ただ、このプライベートクレジットってそもそもプライベートなんで、どういった人が見極めて貸し付けをしているのかというのもよく見えてこない」
上場企業の株式で構成されるインデックスファンドは、世界中の投資家による厳しい監視の目に晒されており、透明性が担保されています。
一方、プライベートクレジットの貸出先は未上場の中小企業であり、どのような基準で融資が行われているのか、その実態は外部から不透明な状態なのです。
【動画で解説】なぜ250兆円市場に急拡大?プライベートクレジットの仕組みを元機関投資家が解説
3. 資産評価の3レベルと「マーク・トゥ・モデル」の罠
では、その密室の中で、ファンドの資産価値はどのように決められているのでしょうか。泉田氏は金融の世界における「資産評価の3レベル」を解説し、プライベートクレジットが抱える根本的な欠陥を指摘します。
1つ目は「マーク・トゥ・マーケット(時価評価)」です。上場株式や金のように、市場で日々明確な値段がつく最も透明性の高い評価方法です。
2つ目は「マーク・トゥ・マトリックス(類推評価)」で、不動産のように、近隣の類似物件の取引価格などを参考に「だいたいこれくらい」と見積もる方法です。
そして3つ目が、プライベートクレジットで用いられている「マーク・トゥ・モデル(自己評価)」です。泉田氏はこの仕組みの異常性を、初心者にもわかりやすくこう表現します。
「自分の持っているものを自分が値段決めるってことよ」
つまり、客観的な市場価格が存在しない未上場企業への貸付債権に対して、ファンド自身が「この債権にはこれだけの価値がある」と自己申告で値段をつけているのです。
世界的な投資家であるウォーレン・バフェット氏が、これを「マーク・トゥ・ミス(妄想の値付け)」と皮肉ったことからも、その危うさが窺えます。
泉田氏は、この状況を2008年のリーマンショックと比較して、現在の状況がいかに異常であるかを強調します。リーマンショックの原因となったサブプライムローンも危険な商品でしたが、当時はまだ格付け機関という第三者が審査を行っていました。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日