4. 試練となった「BREITショック」。ゲートクローズの功罪

このクローズドエンド型の仕組みが実際に機能した象徴的な出来事として、泉田氏は「BREIT(ブラックストーン不動産ファンド)ショック」の事例を紹介します。

約10兆円規模の運用資産を持つこの巨大ファンドにおいて、2022年11月、不動産市場への不安から投資家による解約要求が殺到しました。

もしこれがオープンエンド型のファンドであれば、資産の投げ売りによる価格暴落とファンドの崩壊を招いていたかもしれません。

しかし、BREITはクローズドエンド型の強みを生かし、解約要求の約43%しか返金しないという「ゲート(シャッター)を下ろす」措置を取りました。その後、なんと15ヶ月間にもわたって投資家の資金引き出しを凍結したのです。

結果として、市場が落ち着きを取り戻した2024年2月にゲートは解除され、全額の返済が行われました。この一連の騒動について、泉田氏は二つの視点から評価を下します。

一つはファンド側の視点です。「ファンドが崩壊するのを防いだということで大成功ということになります。ゲートが発動して資金が流出するのを防いで、結果的には15ヶ月間かかったけれども投資家にお金を返すことができた」と、仕組みが完璧に機能したことを評価します。

一方で、投資家側から見れば、最もお金が必要だったかもしれない15ヶ月間、資金が「人質状態」に置かれたことになります。泉田氏は、これこそが流動性(換金しやすさ)を犠牲にするクローズドエンド型の最大のリスクであると指摘します。

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5. なぜプロの機関投資家はハイリスクな市場に参入したのか?

5年や10年、場合によってはそれ以上も資金が引き出せないリスクがあり、貸付先は倒産リスクの高い中堅・中小企業。

それにもかかわらず、なぜ年金基金や大学の基金、保険会社といったプロの機関投資家たちは、この市場に巨額の資金を投じてきたのでしょうか。

泉田氏は、機関投資家ならではの「超長期運用」の論理がそこにあると解説します。彼らは個人のように1年や2年の短期的な利益を追うのではなく、20年、30年先の将来に向けて資産を増やし、年金や保険金として還元することが目的です。

「20年、30年を見据えている機関投資家であれば、5年とか10年とかっていうのがロックアップされても、その間はちゃんと運用してるんだったらそれはそれでいいよねという判断になるわけです」

彼らにとって、いつでも引き出せる「流動性」は必ずしも重要ではなく、むしろ流動性を犠牲にしてでも高いリターンを得ることの方が合理的なのです。

さらに、泉田氏はもう一つの決定的な要因として「ゼロ金利環境」を挙げます。リーマンショック以降、世界中の中央銀行が金利を極限まで引き下げました。国債などの安全資産を買っても、ほとんど利回りが得られない時代が長く続いたのです。

「今まで金利のある世界で生きてた機関投資家が、金利がない世界に入っていっちゃったんで、株で全て運用するわけじゃないので、少しでも金利が取れる債券だとか、こういったプライベートクレジット市場でお金を運用したいと思う」

リスクを分散するため、機関投資家は運用資産全体の中で「高リスク資産の枠」を5〜15%程度と厳格に定めています。その決められた枠の範囲内で、8〜12%という魅力的な利回りを叩き出すプライベートクレジットに資金を振り向けてきたのです。